新・眠らない医者の人生探求劇場・・・夢果たすまで

血液専門医・総合内科専門医の17年目医師が、日常生活や医療制度、趣味などに関して記載します。現在、コメント承認制です。

見捨てる者の心

2009-05-25 00:02:03 | 医療

続けます。

 

僕は若輩者で、このようなことを書く資格があるのかどうかはわかりませんが、僕が思ったことを書くのが「Blog」というものの趣旨だと思いますので、ここに書かせていただきます。

 

 

先程のコメントにいただきました「見捨てる」ようなものだ…という話に関してです。

 

 

血液内科の診療は・・・たぶん、血液内科医を選択した先生方の性格からか「最後まで打てる手を打つ」というスタンスの先生が多い方だと思います。

 

 

普通の悪性腫瘍であれば抗癌剤治療は「延命治療」以外の何物でもないのかもしれませんが、血液腫瘍は「完治」の可能性がありますし、最後の最後までいろいろな手が打てますので・・・。

 

 

僕も基本的には「診断から治療まで、最後まで診れる。だからこそ血液内科が最もやりがいがある。患者さんと最後まで付き合える」と思っています。

 

しかし、現在の医療状況はそれを許してはくれません

 

 

急性白血病はあるていどの施設で、血液内科医がいないと診ていけないと思います。逆にそういう病院はかなり限られてきます。そうすると大学病院などはかなり白血病に特化してきます。

あとは自家移植とかを行う予定の悪性リンパ腫だとか。 初発の悪性リンパ腫を見ることはないでしょうね。外来化学療法かな・・・。 そうするとそういう患者さんを受け入れる余地は少しは残しておかなくてはなりません。…もっとも、うちの病棟は150%程度のベッド状況で運営されていますが。

 

 

80才だろうとすべての患者さんを受け入れるにはベッド数も医師も足りない。それが現状だと思います。

 

 

僕が外来で見ている最高齢は91歳です。91歳ですが現在はかなり元気になって、普通に杖ついて歩いて通ってきてくれていますが、この方ももはや転院させないといけないだろうな…と思っています。

 

他にもうまく治療で来ている人も含め、手がなくなっていっている人も含めて転院させなくてはならない。そう思っています。

 

今の日本、特に埼玉県なのかもしれませんが・・・治療が必要な人を治療するためには、大学病院で本当に治療しないといけない人を選ばないといけない。そうでなかったら治療が必要な人が治療が受けられずに死んでしまうかもしれない。

 

 

今回のように、血液内科にかかっていました。けど、老衰(?)で・・・意識が完全になくなりました。血液内科で診る診療じゃないかもしれないけど大学病院に運んできました。

 

そういう患者さんを診ているうちに、その前の日に来たような患者さん(10代の急性白血病)が受けられなくなります。こういう患者さんは緊急の処置が必要です。白血病は他の癌と異なり、数時間が生死を分けることもあります。

 

 

ずいぶん昔のことですが、かなり遠くからこちらに移ってくる白血病の患者さんが途中で脳出血で死亡したということがありました

 

できるだけ短期間で…と思いますが、現実的に白血病を同時に受け入れられるといっても2人位が限界でしょう。

 

受け入れられる施設も限られるため、それこそ受け入れ不能で10施設以上回されていきます。そういう患者さんをできるだけ減らすためにも、血液疾患の既往がある肺炎の患者さん…とかまで大学病院に運ばなくても…と思ったりします

 

 

自分で言うのもなんですが、患者さんと接したり話をしたり、心をくみ取ったりそういうふれあいが好きなことも含めて・・・医療という分野が娯楽のように面白いことも含めて「医師」が「天職」だと思っています。

 

僕は毎日が楽しいし、幸せに暮らしています。

 

ただ、この仕事で一番ストレスになるのは何かというと

 

「もう打つ手はありません」

 

という話です。

 

すなわち・・見捨てるような話をする時です。見捨てられた人を受け入れたり、そういう見捨て方をしない診療科はいいかもしれませんが…やはり内科系・外科系はそういう話をしないといけないこともあります。

 

今日も

「この疾患(MDS RAEB-2 IPSS High)は骨髄移植以外に治癒不能です。しかし、今の肝不全・腎不全がある状態での骨髄移植は不可能です。透析を回しながら、肝臓も悪いのに移植を施行するというのは不可能なんです。

そうするとこれから行う処置はすべてが延命治療ということになります。御本人が苦しみながら闘っているのは、治るという希望があるからです。だから本人には言いませんが、透析を含めてどこまで積極的に治療を行うか考えてみてください。

 

僕達は御家族がとことんやってほしいと言われたら、やれることを最大限やります。ただ、本人が苦しんでいる状況をただ長引かせることになるだけになるかもしれません。

 

希望だけではなくて事実を知っていただいて、どこまでやるかを決めていただきたいのです。」

という内容の話をしたりしました。

 

 

僕はがむしゃらに治療をするよりは「完治は望めないけど、どこまでやりますか?」という話をします。そうでないと患者さんが苦しみながら治療をしていくだけになってしまう。外来で内服抗癌剤で、放射線治療で引っ張り続けている人もいます。

 

腫瘍との共存を目指しましょう

そういう言い方を患者さんにはしますが、完治は望めない…というそういう状況もあります。ならば家族と一緒に過ごす時間が長いことは良いことだと思っています。

 

もしくは家族と一緒に暮らせなくても本人の苦しむ時間が短くなった方が良いのではないかと思っています。

 

僕は研修医たちに「挿管するのは挿管したら助かる可能性がある時には迷わず行うべきだ。呼吸状態が悪化したら、リザーバーマスクを使わないといけなくなった時点では最低でも挿管を考えなくてはならない。逆に助けられないのであれば、家族と会話する時間や一緒に過ごす時間を長くとるために挿管しないことを前提に家族と話し合う必要性がある」「透析導入に関しても同様。急性腎不全に対して透析をいち早く行うことで、この患者さんを救命し、かつその先にある程度の時間があるのであれば、積極的に考えてもよいと思う(当然、腎前性とかpHやKが上がっていないとかは抜いています)」

 

ただ、逆に先がないのであれば当然がむしゃらに治療をするものではない。これは医療従事者であれば患者さんのことを考えて誰しも思うことです。苦しい時間を少なくしてあげたい。ただ、苦しむ時間が長くなるのであればモルヒネなどを使って緩和ケア的に対症療法を行っていきたい。

 

そう考えるのが人として普通ではないかと思ったりしています。

 

先程の記事のコメントに少し書きました

 

「僕の意見を言いますと、最初から最後まで診療できるのがメリットである血液内科に入った以上、どんな患者さんでも最後まで診たいのが本音です。

ただ、そんなベッド数は日本にはありません

その実情を「国民」の大半が知らないだけです

 

僕らが好き好んで患者さんを見捨てるようなことをしていると思いますか? どれだけそういうことをしないといけないことを、言わなくてはいけないことにストレスを感じているかわかりますか?

 

最後まで診ることができたら「自己満足」かもしれないですけど、「見捨てるような気持ち」はしなくて済む。罪悪感を感じないですむのに、全体の利益を考えたらやらざるを得ないという今の現状を分かっていらっしゃいますか?

今の日本はそんな現状なんです」

 

見捨てられる者の心はさみしく、つらいものだと・・・。どれだけやる瀬ないか・・・・想像することはできます。体験したわけではないですが、想像することはできるのです。

 

「見捨てられるなんて・・・どれだけ辛いだろうな・・・」と思いながら、自己満足の選択肢ではなく全体の利益のために自分の心を押し殺していく・・・そんな見捨てる者の心はわからないのではないでしょうか?

http://blog.with2.net/link.php?602868

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なかのひと 

先輩ドクターの中に「見捨てる」ことに耐えかねる・・・・とおっしゃっていた方がいました。自分もその気持ちは共感できます。 しかし、今の医療体制は「Triage」を行わないと必要な患者さんに必要な医療を施せない体制である以上、血を吐きながらでも苦しみながらでも、全体の利益のために、自己満足ではなく全体の利益のために「最後まで診ないで、他の人に任せる」といった選択肢を取らざるを得ないのだと思っています。

 

僕は学生時代に「このままでは医療は崩壊する」と厚労省(当時は厚生省かもしれませんが)と送ったことがあります。僕程度の人間ですらそういったことを考えていたのですから、普通はもっと多くの人が考えてもよかったのではないかと思っています。

 

そういう意味では政治の不手際、官僚の不手際も含め・・・結局、情報を知らずに今のままでいてしまった日本人全体で「今できる最善のこと」をやっていくしかないのではないかと思います

 

 

さて、明日はまず朝一番に・・・一昨日の件をしっかりとけりをつけに行きたいと思います。

7時スタートで仕事をどんどん蹴りつけていけば10分くらいは「理由」を確認する時間くらいはあるでしょうしね。

 

では、また。

コメント (5)
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