AN現代針灸治療

ANとは「にただあつし(似田敦)」のイニシャルです。現代医学的知見に基づいた私流の針灸治療の方法を解説しています。

胸鎖乳突筋緊張を弛める刺針法

2006-05-09 | 頸肩腕症状

 頸部痛を訴える者では、後頸部筋は当然ながら、胸鎖乳突筋の緊張をみることが少なくない。緊張の有無は、本筋を母指と示指でつまむようにするとわかりやすい。むちうち症、精神緊張では、胸鎖乳突筋緊張は高頻度にみられる。
胸鎖乳突筋緊張を弛めるには、通常の刺針では効果的ではないので、独特な工夫が必要である。

1.5分針にての多数単刺
 代田文誌は、5分針を使い、胸鎖乳突筋に多数単刺術で刺針したという。このことは、1995年5月28日、日本針灸師会学術講習会にて代田文彦氏が「父の治療を見学していて」と題して報告したものだが、刺針肢位に関しては言及してない。

2.頭をマクラから持ち上げた肢位にて刺針雀啄
 仰臥位。胸鎖乳突筋を緊張させるため、患者に少しだけ頭をマクラから持ち上げるようにさせる。外頸静脈をさけつつ、乳様突起の下、2.5~5㎝の点で胸鎖乳突筋の上部を針治療する。側屈の可動域を調べてみれば、改善されているはずである。
(C.CHANN著、木村昭人ほか訳「筋々膜痛の臨床」)

 その他に、「胸鎖乳突筋をゆるめるには、本筋全体に多数刺針する」といった内容が書いてある本があったのだが、出所は忘れた。

 私は一通り追試してみたが、伏臥位での5分針にての多数単刺は効果不明、頭をマクラから持ち上げさせての刺針は患者の負担が大きく実用的でないことを知った。また胸鎖乳突筋を緊張させての刺針がようだろうと考え、仰臥位で頭を横を向かせての刺針を試行したこともあるが、明確な効果はなかった。

 結局、胸鎖乳突筋(および斜角筋や肩甲挙筋など側頸部の筋も含めて)の緊張を弛める実用的な方法は、寸6#3程度の針を用い、座位にて圧痛硬結を目安に数カ所刺針、その状態で頸の左右の回旋動作を行うという運動針法に落ち着いた。

PS:上図の赤×印に置針した状態で運動針することは、指圧マッサージ的手法であって、鍼灸治療としてスマートさに欠ける。そこで座位にて胸鎖乳突筋付着部の完骨穴のみに刺針し、そのまま首の左右回旋運動を指示すると、次第に可動域が増すようになることを発見した。胸鎖乳突筋の緊張に対して、この方法でも効果がある。