オープンギャラリーの鈴木忠司さんは温厚な方だ。四季の変化に驚くことのできる人だ。鈴木さんはその変化にシンクロするあまり、いつも忙しく立ち働いているように見える。撮影や写生のための大型機材を自転車に満載して移動中の鈴木さんと最近よくすれ違う。これまでも永年の間にはこの地域で何度かすれ違っていたかもしれない。お互いに認識することがなかっただけだ。昨年の立春に68歳で始めたオープンギャラリーも2年目を迎えてますます地域に浸透してきた。夜間でも出入り自由の展示物だが被害にあったという話は聞かない。
私は先週の月曜に思いがけなく鈴木さんから電話を頂いた。明日の火曜の朝8時30分にギャラリーに集まりコゲラの子育ての観察に行くという連絡だった。つぎの日曜の例会までには巣立ちが終わってしまうからそれまで待てないとのことだ。もちろん喜んで参加することにした。当日集まったのはいつもの例会よりかなり少ない人数だった。巣の場所がクチコミで広まると撮影に支障をきたすので人数限定にしたということだ。それでも主人が行きたいというので連れてきましたという人がいて総勢7人だった。
コゲラはキツツキの一種で全国に分布していて、小平市では玉川上水付近によく見られる。そこで小平市の市の鳥はコゲラである。飛びながらギイーとなく小型の留鳥だ。冬はまゆみの木の実を餌にしているという。だからまゆみの木のあるところコゲラの巣がある可能性が高いのだという。それより巣を見つけるのに一番大事なのは鳴き声を聞き分ける耳だという。中学や高校生の登校時刻と重なったので、それを避けて玉川上水の右岸を上流に向かう。途中ノイバラを見かける。現在のギャラリーの展示写真の中にもあった。玉川上水で見かける動植物と展示物との同時性は鈴木さんの自負するところでもある。
私は8倍の望遠鏡を持参していた。コゲラの巣は美術大学の学生の通学路にもなっている人通りの多い児童公園の中にあった。最初は鈴木さんから狭い範囲内にある数本の木のどれかに巣があるというヒントが出されたが誰も見つけることができない。それは一本のコナラの木のやや細い枯れた幹の部分にあった。私は人より遅れて巣穴を視野に入れることができた。まことに感動的な風景だった。みごとなまでに円形にくりぬかれた巣から雛鳥が一羽ずつ交互に顔を覗かせている。30分ほど待つと親鳥が飛来して幹に縦にとまって餌を口移ししてすぐに飛び去る。私はあの翌日にもう一度コゲラの子育てを確認にでかけた。そして昨日の日曜は雨のために例会は流れた。おそらくあの巣はすでに空き家になっていることだろう。