玉川上水の辺りでハナミズキと共に

春は花 夏ほととぎす 秋は月 冬雪さえてすずしかりけり (道元)

*クズの花

2019年08月15日 | 玉川上水の四季

 鈴木さんの自宅の隣にある「花のアトリエ」の前を通ると、鈴木さんがその庭先でスケッチをしている姿を見かけた。孫が帰国する前のことだ。上の孫を連れていた私は、鈴木さんの作業が中断することを承知で声をかけた。鈴木さんは庭先のオニユリの開花のいくつかの瞬間をとらえて一枚の絵の中に描き止めようとしていた。孫たちが来日する前に、五日市街道近くで鈴木さんを見かけた時のスケッチはノカンゾウだった。

 上の孫は鈴木さんとは顔なじみである。ギャラリーの展示を手伝ったこともある。「いや~大きくなったね」と驚き、喜んでくれた。「大学を卒業したら日本で働くといいね」などとけしかけるが、日本語能力がそれほどの水準にないこと知る保護者としては忸怩たるものがある。そのうち何ごとかと、母屋から奥様も姿を見せた。鈴木さんは新たにアトリエ前に植えたクズの葉を手に取り、これはウラギンシジミの観察のためと教えてくれた。

 鈴木さんご夫婦は、二世帯住宅の同じ屋根の下に住んでいた息子さんに先立たれた。オープンギャラリーを閉じたのもそれが原因だった。以前と違い六畳一間のアトリエは雑然としていた。薄暗いアトリエの部屋から数枚の鉛筆画を持ち出してきながら、そのうちここも片づけて皆さんにこのようなものの展示を見てもらおう。そして昔と同じように集まって「うどん会」を開こうと自らを鼓舞するように話されるのだった。

 繁り始めたハギの周りを小さな黄色の蝶が飛んでいる。その名を思い出したいときには鈴木さんの冊子を見ればよい。そしてキタキチョウであることを確認する。毎年更新されていたので同じ節気のものが何冊もある。それは私の貴重な図鑑である。キタキチョウの横のページには「ウラギンシジミを観察するには、クズの花が咲く処暑(今年は8・23)が一番良いようです。時間帯は午前11時ごろ」とあった。図鑑以上の冊子である。

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