朝日新聞で福岡伸一のコラムを読んだのが始まりだった。「数学そのものは理解できなくても数学に生涯をささげた天才たちの人となりを通して、我々素人でも数学の美しさに近づくことができる」という書き出しだった。そして独立研究者の森田真生(まさお)の著作である「数学する身体」が紹介されていた。
森田とは何者か?興味が湧き図書館でその本を借りた。本の末尾を見る。1985年、東京都生まれ。在野で研究活動を続ける傍ら「数学の講演会」などライブ活動を行っている。2015年新潮社発行だ。最初は「人はみな、とうの昔に始まってしまった世界に、ある日突然生れ落ちる」で始まる。この本に数式は一切ない。
前半は人類の数学の膨大な歴史が簡潔に把握される。後半は計算機科学の父と呼ばれるチューリングと岡潔の二人の思想が取り上げられる。両者はともに数学を通して「心」の解明へと向かうが、チューリングが心を作る(AI)ことによって心を理解しようとしたとすれば、岡の方は心になることによって心をわかろうとした。(写真中央は跳ぶ岡潔、右は囲碁名人・芝野虎丸20歳)
森田は幼少期をシカゴで過ごす。桐朋中学・高等学校ではバスケット部に所属し、ナンバ走りを取り入れてインターハイに出場。2016年「数学する身体」の小林秀雄賞は31歳のときで現在は35歳である。私の息子よりひとまわり以上若い。人類以外の動物も子育てはするが、子が親を介護したり、孫が祖父母に何かを教えたりするのは人類だけ。各界で活躍する若き才能に75歳が乾杯!