赤ん坊を乳母車に乗せて渋谷に出かけた。それは車椅子生活者と同じ立場になることでもあった。人はその立場になって初めて何かに気付くものだ。最寄の鷹の台駅では改札口は一つでホームは二つである。それが改札口に近い一つのホームで上下線とも乗り降りできるようになった。これならば地下道を通って向こう側のホームに出なくてもよい。ただし通勤時間帯にはそれが許されないから不便は残る。このとりあえずの改善策が始まったのはつい昨年のことである。今回の外出は幸いにも通勤時間帯にかからずにすんだ。
つぎのJR国分寺駅にはエレベーターがない。改札口で申し出ることにより赤ん坊は母親が抱きかかえ、駅員が乳母車を持って階段を降りることになる。帰りの時は自力で改札口に辿りつかねばならない。赤ん坊を乗せたまま慎重に乳母車をエスカレーターで運ぶしかない。
さすがに新宿駅や渋谷駅にはエレベーターはある。ただしエレベーターを求めて遠回りせねばならない。エレベーターのスペースが狭いのも仕方のないことだ。大型の乳母車だと同時に2台は無理である。これまで私がそうであったが圧倒的多数の人たちにとっては駅のエレベータ案内表示はまず無縁のものである。
渋谷からの帰りの電車で優先席に一人の若い女性が目を見開いて座っていた。眠りこける2歳児を抱いてその前に立つ私は席を譲られることはなかった。その向こう側の優先席の幼児連れの外国人の母親が目で合図してくれたがこれを辞退して私は立ち続けた。乳母車の横で立つ娘は苦笑いしながらこの光景を眺めていた。その車両を降りた後に娘はつい最近自分が体験したことを話した。妊娠後期の時に席を譲ってもらえることは皆無だった。皆さんは優先席で狸寝入りだったそうだ。