(picture/source)
-人を殺すことはどんな時でもよくないのですか-
「あなたが殺されていい時がありますか。あなたが殺されていい条件があれば、それを聞かしてください。あなたがどんな時でも殺されるのがいやなら、少なくともあなたは人を殺してはいけない」
-私を殺しに来た人はどうですか-
「その時にならないとわかりませんが、人を殺すものは自分が殺されてもいいということを証明している人間ですから、その時なら殺してもいいでしょう。しかしおそらく、人殺しするものは、もっと簡単な動機で無考えに人を殺すのでしょう。つまり反省する力が無いのです。教育されていない野蛮人なのです。だから教えることが必要になるのです。他人を殺すものは自分を殺す権利を他人の手に与えるものだ。自分が殺されたくないものは他人を殺してはならない。自分が殺されたい人だけが、他人を殺していい人だ。しかしそんな人は他人を殺すような面倒をするよりは、まず自己が殺されるがいい」
-なぜ人間は死ぬのです-
「なぜ人間は生まれなければならないのか、僕にはわかりません。この地上に人間が生まれた事実は認めないわけにはゆかない。奇跡を信じない限り人間は生まれるべくして生まれた者だということはわかっています。しかし人間が生まれたらどうなるのですか。僕にはわからない。しかし僕には人類が完成に向かって進んでいること、いつか人間はすべて人間として生きなければおさまりのつかないことを信じています。そこに人類の意志がある。そして人類の完成のためには、一人の人間がいつまでも生きているよりは、いろいろの人が死んだり、生まれたりする方がいい。自分が地上でなすべきことをした人は、もう休息していいことになる。。休息が死です。だからこの世で生きられるだけ生き、するだけのことをした人は安心して死ねるのが自然だと思う。多くの人はこの世でしなければならないことをしないうちに死ぬ。だから死を割り切れないものに感じるのです。するだけのことをしたものにとって死は完成です。僕はこういう死を願って、働いているわけです」
-戦争はなぜやまないのです-
「人間の内に野蛮さがまだぬけ切らないからです。人肉を喰うということは野蛮であるということは誰にもわかっています。しかし人を殺すことの野蛮さはまだ誰も本当には知っていないのです。ごく少数の例外を除いては、戦争の種を自分の内に持っているのです。憎悪の念を内に燃やす者は、その種を内に持っているものです」
-敵を愛せよという言葉は真理ですか-
「真理です。敵も人間です。人間を愛することが真理です。この真理を知らないものは、戦争の種を自分の内にもっているものです」
-先生の考えは実に平凡ですね-
「ありがとう」「僕はあたりまえのこときり言いたくない。今の人はあたりまえのことを知らなさすぎる。何でも一つひねくらないと承知しない。糸巻から糸を出すように喋るのでは我慢が出来ない。わざと糸をこんがらかして、その糸をほどく競争をしているようなものだ。あたりまえでないことをもっともらしく言うと、わけがわからないので感心する。こういう人間が今は多すぎる。僕はそんな面倒なことをする興味はもっていない」
-引用/武者小路実篤「真理先生」より-
-人を殺すことはどんな時でもよくないのですか-
「あなたが殺されていい時がありますか。あなたが殺されていい条件があれば、それを聞かしてください。あなたがどんな時でも殺されるのがいやなら、少なくともあなたは人を殺してはいけない」
-私を殺しに来た人はどうですか-
「その時にならないとわかりませんが、人を殺すものは自分が殺されてもいいということを証明している人間ですから、その時なら殺してもいいでしょう。しかしおそらく、人殺しするものは、もっと簡単な動機で無考えに人を殺すのでしょう。つまり反省する力が無いのです。教育されていない野蛮人なのです。だから教えることが必要になるのです。他人を殺すものは自分を殺す権利を他人の手に与えるものだ。自分が殺されたくないものは他人を殺してはならない。自分が殺されたい人だけが、他人を殺していい人だ。しかしそんな人は他人を殺すような面倒をするよりは、まず自己が殺されるがいい」
-なぜ人間は死ぬのです-
「なぜ人間は生まれなければならないのか、僕にはわかりません。この地上に人間が生まれた事実は認めないわけにはゆかない。奇跡を信じない限り人間は生まれるべくして生まれた者だということはわかっています。しかし人間が生まれたらどうなるのですか。僕にはわからない。しかし僕には人類が完成に向かって進んでいること、いつか人間はすべて人間として生きなければおさまりのつかないことを信じています。そこに人類の意志がある。そして人類の完成のためには、一人の人間がいつまでも生きているよりは、いろいろの人が死んだり、生まれたりする方がいい。自分が地上でなすべきことをした人は、もう休息していいことになる。。休息が死です。だからこの世で生きられるだけ生き、するだけのことをした人は安心して死ねるのが自然だと思う。多くの人はこの世でしなければならないことをしないうちに死ぬ。だから死を割り切れないものに感じるのです。するだけのことをしたものにとって死は完成です。僕はこういう死を願って、働いているわけです」
-戦争はなぜやまないのです-
「人間の内に野蛮さがまだぬけ切らないからです。人肉を喰うということは野蛮であるということは誰にもわかっています。しかし人を殺すことの野蛮さはまだ誰も本当には知っていないのです。ごく少数の例外を除いては、戦争の種を自分の内に持っているのです。憎悪の念を内に燃やす者は、その種を内に持っているものです」
-敵を愛せよという言葉は真理ですか-
「真理です。敵も人間です。人間を愛することが真理です。この真理を知らないものは、戦争の種を自分の内にもっているものです」
-先生の考えは実に平凡ですね-
「ありがとう」「僕はあたりまえのこときり言いたくない。今の人はあたりまえのことを知らなさすぎる。何でも一つひねくらないと承知しない。糸巻から糸を出すように喋るのでは我慢が出来ない。わざと糸をこんがらかして、その糸をほどく競争をしているようなものだ。あたりまえでないことをもっともらしく言うと、わけがわからないので感心する。こういう人間が今は多すぎる。僕はそんな面倒なことをする興味はもっていない」
-引用/武者小路実篤「真理先生」より-