この際、TPPについてのおさらいもしよう。
どう考えても参加しないほうがいいと、私は思う。
ダイヤモンドオンラインの「2012衆院選 日本再生の論点」12月13日から抜粋。
http://diamond.jp/articles/-/29366?page=2
____________________________
かねこ・まさる
1952年生まれ、東京大学大学院経済学研究科博士課程単位取得修了。専門は財政学、地方財政論、制度経済学。著書に『新・反グローバリズム』(岩波書店)『失われた30年 逆転への最後の提言』(NHK出版)など
TPPは国の根幹を揺るがす
大きな変化を伴うものだ
TPPの経緯をもう一度思い出してほしい。始めは農業問題だった。都内でも大規模なデモが起きた。
しかし、徐々にTPPは農業だけの問題ではないという事が交渉分野を見ていくと分かってきた。あの当時は、TPPの全体像を掴んでいなかったのだろう。徐々に、農業以外のものが出てきた。例えば、自動車や医療などだ。
TPPはアメリカが積極的で、オバマ政権の通商政策の目玉だ。日本に大胆な規制緩和を迫ってくるだろう。アメリカ大使館のホームページに対日要望書があるが、このなかの何が出てきてもおかしくない。
TPP交渉に参加したときに、農業以外で日本の国に大きな影響を与えそうな分野として医療の問題が出てくるだろう。非関税障壁の撤廃を旗印に、日本の医療制度の変更を迫ってくると見ている。なぜなら、アメリカの産業界にとって、残された数少ない成長分野だからだ。
何がおこるのか。まず、薬の認可の仕組みが変わっていくだろう。アメリカの製薬業界にとって日本市場に参入しやすいようなルールにかわる。そうなれば、大量の安い薬、また日本で認可されていないような高額な薬等が日本に入ってくる。それは良い薬が入ってくるというプラスの側面もあるが、日本の製薬業界は大きな打撃を受けるだろう。
また、最先端の医療器械などでも同じことが起きうるだろう。それは国民健康保険の適用外の治療になる。じつは、この状況は日本の医療制度の根幹を揺るがすことにつながる。
最先端の医療技術は、最初は保険外であることが多く、普及すれば国民保険適用されるのが一般的だ。昔、CTスキャンは日本に入ってきたときに、国民健康保険適用外だったがいまは保険診療の適用内だ。
しかし、今回はもし最先端の医療が入ってきて、保険適用外になったとき、民間の保険会社がその医療をカバーするような商品を開発し売り出すはずだ。そして、普及したとき、今まで行なわれてきたように国民健康保険の適用内にしようとした場合、民間の保険会社から、「自分たちの商売の領域を侵した」として、TPPにあるISDS条項(投資家対国家の紛争処理手続き)によって、日本政府を訴えてくるかもしれない。
そうなれば、国民健康保険によって日本の医療制度が保たれていたのだが、漸進的に変わり、高い民間の保険料を払える金持ちの人は先端医療を受けて長生きできて、貧乏人は国民健康保険で受けられる治療のみで、早死にするということにもなる。
交渉を途中で抜けるなど
日本にできるはずがない
日本政府に、途中で交渉から抜ける決断ができるのか。イラク戦争だって、アメリカに見捨てられるのが怖いからといって、欧州各国やカナダなど世界中の国が反対しているにもかかわらず、アメリカの言いなりになって戦争に参加した。
オスプレイも、ハワイ州が反対しているのに、日本は受け入れた。最近では沖縄でアメリカ軍関係者による犯罪が多発しているが、日本政府からは日米地位協定の改定等の発言が、まったく聞こえてこない。
アメリカが強く推し進めているTPPに、日本が交渉参加して、途中で抜けるなんていう事ができると、本気で思っているのだろうか。
いまの日本に規制緩和を迫るのは
風邪っぴきに乾布摩擦と同じこと
11月にバリで行なわれたASEAN会合で、アジアの包括的な経済連携を進めようと言う事が合意された。TPPに対抗する形でRCEP※も本格的に話が進み始めた。アメリカ主導での貿易ルールを嫌って、ASEAN・中国が中心になって動いている。
私はTPPよりも日中韓FTAを早期に進めるべきだと思うし、RCEPでアジアの国々主導でルールを作るべきだと思う。そこにアメリカが入ってくるなら、アメリカ側がアジア諸国のルールにあわせてくださいよ、というのが正しい道筋だろう。
TPPをきっかけに規制緩和し、農業や産業のイノベーションを呼び起こそうという声もあるが、TPP云々の話ではなく、いま日本に求められているのは日本の産業構造をどう変化させて、活力を戻すかということだ。アメリカのルールに従って、規制を緩和し、ある意味ショックを日本経済に与えるということをTPP賛成派は言う。
しかし、それは風邪をひいた人に、乾布摩擦して直してこいと言っているようなものだ。ショックを与えれば、何かが出てくるというものではないことは、小泉「構造改革」で証明済みである。
もしアメリカから学ぶべきことがあるとすれば、むしろ90年代の情報スーパーハイウェイ構想のような戦略的思考ではないのか。TPPなどのように、単純な抽象化した市場モデルから考えるのではなく、具体的な産業や経済の実態に即して、現実の日本経済の問題点を洗い出して、そこから成長戦略を練り上げていくのが、日本がやらなければならないことだ。
※RCEP……東アジア地域包括的経済連携。日中韓印豪NZの6ヵ国がASEANと結んでいる5つのFTAを束ねる広域的な包括的経済連携構想。
どう考えても参加しないほうがいいと、私は思う。
ダイヤモンドオンラインの「2012衆院選 日本再生の論点」12月13日から抜粋。
http://diamond.jp/articles/-/29366?page=2
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かねこ・まさる
1952年生まれ、東京大学大学院経済学研究科博士課程単位取得修了。専門は財政学、地方財政論、制度経済学。著書に『新・反グローバリズム』(岩波書店)『失われた30年 逆転への最後の提言』(NHK出版)など
TPPは国の根幹を揺るがす
大きな変化を伴うものだ
TPPの経緯をもう一度思い出してほしい。始めは農業問題だった。都内でも大規模なデモが起きた。
しかし、徐々にTPPは農業だけの問題ではないという事が交渉分野を見ていくと分かってきた。あの当時は、TPPの全体像を掴んでいなかったのだろう。徐々に、農業以外のものが出てきた。例えば、自動車や医療などだ。
TPPはアメリカが積極的で、オバマ政権の通商政策の目玉だ。日本に大胆な規制緩和を迫ってくるだろう。アメリカ大使館のホームページに対日要望書があるが、このなかの何が出てきてもおかしくない。
TPP交渉に参加したときに、農業以外で日本の国に大きな影響を与えそうな分野として医療の問題が出てくるだろう。非関税障壁の撤廃を旗印に、日本の医療制度の変更を迫ってくると見ている。なぜなら、アメリカの産業界にとって、残された数少ない成長分野だからだ。
何がおこるのか。まず、薬の認可の仕組みが変わっていくだろう。アメリカの製薬業界にとって日本市場に参入しやすいようなルールにかわる。そうなれば、大量の安い薬、また日本で認可されていないような高額な薬等が日本に入ってくる。それは良い薬が入ってくるというプラスの側面もあるが、日本の製薬業界は大きな打撃を受けるだろう。
また、最先端の医療器械などでも同じことが起きうるだろう。それは国民健康保険の適用外の治療になる。じつは、この状況は日本の医療制度の根幹を揺るがすことにつながる。
最先端の医療技術は、最初は保険外であることが多く、普及すれば国民保険適用されるのが一般的だ。昔、CTスキャンは日本に入ってきたときに、国民健康保険適用外だったがいまは保険診療の適用内だ。
しかし、今回はもし最先端の医療が入ってきて、保険適用外になったとき、民間の保険会社がその医療をカバーするような商品を開発し売り出すはずだ。そして、普及したとき、今まで行なわれてきたように国民健康保険の適用内にしようとした場合、民間の保険会社から、「自分たちの商売の領域を侵した」として、TPPにあるISDS条項(投資家対国家の紛争処理手続き)によって、日本政府を訴えてくるかもしれない。
そうなれば、国民健康保険によって日本の医療制度が保たれていたのだが、漸進的に変わり、高い民間の保険料を払える金持ちの人は先端医療を受けて長生きできて、貧乏人は国民健康保険で受けられる治療のみで、早死にするということにもなる。
交渉を途中で抜けるなど
日本にできるはずがない
日本政府に、途中で交渉から抜ける決断ができるのか。イラク戦争だって、アメリカに見捨てられるのが怖いからといって、欧州各国やカナダなど世界中の国が反対しているにもかかわらず、アメリカの言いなりになって戦争に参加した。
オスプレイも、ハワイ州が反対しているのに、日本は受け入れた。最近では沖縄でアメリカ軍関係者による犯罪が多発しているが、日本政府からは日米地位協定の改定等の発言が、まったく聞こえてこない。
アメリカが強く推し進めているTPPに、日本が交渉参加して、途中で抜けるなんていう事ができると、本気で思っているのだろうか。
いまの日本に規制緩和を迫るのは
風邪っぴきに乾布摩擦と同じこと
11月にバリで行なわれたASEAN会合で、アジアの包括的な経済連携を進めようと言う事が合意された。TPPに対抗する形でRCEP※も本格的に話が進み始めた。アメリカ主導での貿易ルールを嫌って、ASEAN・中国が中心になって動いている。
私はTPPよりも日中韓FTAを早期に進めるべきだと思うし、RCEPでアジアの国々主導でルールを作るべきだと思う。そこにアメリカが入ってくるなら、アメリカ側がアジア諸国のルールにあわせてくださいよ、というのが正しい道筋だろう。
TPPをきっかけに規制緩和し、農業や産業のイノベーションを呼び起こそうという声もあるが、TPP云々の話ではなく、いま日本に求められているのは日本の産業構造をどう変化させて、活力を戻すかということだ。アメリカのルールに従って、規制を緩和し、ある意味ショックを日本経済に与えるということをTPP賛成派は言う。
しかし、それは風邪をひいた人に、乾布摩擦して直してこいと言っているようなものだ。ショックを与えれば、何かが出てくるというものではないことは、小泉「構造改革」で証明済みである。
もしアメリカから学ぶべきことがあるとすれば、むしろ90年代の情報スーパーハイウェイ構想のような戦略的思考ではないのか。TPPなどのように、単純な抽象化した市場モデルから考えるのではなく、具体的な産業や経済の実態に即して、現実の日本経済の問題点を洗い出して、そこから成長戦略を練り上げていくのが、日本がやらなければならないことだ。
※RCEP……東アジア地域包括的経済連携。日中韓印豪NZの6ヵ国がASEANと結んでいる5つのFTAを束ねる広域的な包括的経済連携構想。