日本語学科の学生たちの多くは親日、あるいは知日派に属する人たちです。
そのほとんどは親日・知日派だから日本語学科に入ったのではなく、
日本語学科で学ぶうちに知日派、親日派になっていくのです。
しかし、時に独自に日本の何かが好きになって日本語が学びたくなり、
日本語を専攻するという学生もいます。
2年生の韋彤さんもその一人です。
先週、2年生のクラスでは
日本の人たちに交流を呼びかけるビデオレターの作成に取り掛かり、
グループに分かれてキャンパス内外の様子を撮影したり、
先生方や先輩にインタビューをしたり、
とても熱心に活動しました。
昨夜、韋彤さんは寮の部屋で一生懸命その編集に当たっていたところ、
同室の他学部の学生が、
「へえ、君の日本人の先生は日本からのスパイじゃないのか。」
とからかったのだそうです(まだ時々こういう愛国学生がいるみたいです)。
その時、韋彤さんは殴りたい気持ちだけはかろうじて押さえ、
おもいっきり怒鳴りつけたそうです。
「『愛国者』は、何も知らないからそんなことを言うのです。」
と、今日、韋彤さんはいつもの超穏やかな語り口で話しました。
同じことは、日本でも言えますよね。
知らないくせに、知らないからこそ、平気で悪く言うのです。
ところで、その韋彤さんはどうして日本のことが好きになったのかと言うと、
やはりインターネットです。
そして、初音ミクちゃんです(笑)。
中国人の日本語作文コンクール「訪日中国人が爆買い以外にできること」の応募作として、
韋彤さんが書いた作文があります。
今回、菏澤学院では4年生の二人が見事入選を果たしましたが、
1年生でトライした彼の文もたいへん面白いものでした。
内容が微妙にテーマからずれているので入選は逃しましたが、
私は読者を引き付ける力のある優れた作品だと思い、ご紹介します。
ーーー韋彤 「わたしの『爆買い』体験」ーーー
(え、それ私のことですか)。
「訪日中国人が『爆買い』以外にできること」という作文テーマを見た時、
思わずギクッとしました。
実は、訪日こそしていませんが、私も「爆買い」の一員です。
私の場合、日本の歌姫「初音ミク」だけに限ったものですが……。
中学の時、父がパソコンを買ってくれて、
私はインターネットで日本のアニメを見るようになりました。
ある日、ネットで偶然に見た水色のツインテールの髪の少女の画像に吸い込まれました。
(か、かわいい!)。
彼女の名前は「初音ミク」。
日本でとても人気のある映像上の歌姫です。
私は初音ミクのミュージックビデオを見た時、
画面の中で歌い、踊る彼女に恋をしてしまいました。
それからは、聞き飽きた中国語の歌を全部捨てて、初音ミクばかり聞いています。
友達に「売国奴」と呼ばれても、家族に「そんなもの見るな!」と言われても、
私は初音ミクのことが好きです。
そして、今は初音ミクの国、日本が好きです。
しかし、こんな気持ちになるまでには何年もの年月が必要でした。
小学校に入る前、朝から晩まで外で遊ぶ私に、祖母はいつも
「外は狼がいるよ!」
と言って怖がらせました。もっと効果的な言葉は、
「外へ遊びに行ったら、『日本鬼子』がお前を殺しに来るよ!」
というものです。これが初めて「日本」という言葉を聞いた時です。
「日本鬼子」というのはどんな化け物だろう。
その問題を抱えて、私は小学校に入りました。
ある日、先生は授業で南京大虐殺の写真を見せてくれました。
それを見た時、私は心臓がドキドキして、自分が殺されているような気がしました。
しかし、転機は中学校の時に訪れました。
父が買ってくれたパソコンは、アニメの他に、現代日本の素敵な一面をも見せてくれました。
初音ミクとの運命の出会いもこの頃です。
中学の歴史の授業で抗日について勉強した時、
教科書に一人の日本軍人が彼の家族と一緒に幸せそうに過ごしている写真がありました。
初めて見た日本軍人の優しい父親の顔。
(「日本鬼子」も人間だったんだ)と思いました。
高校に入った後、道徳の授業で先生が、
「日本は世界で最も礼儀を重んじる国です。」
と言った時、クラスはシーンと静まりました。
私は既に、日本のアニメや映画をたくさん見て、自然にそう思っていました。
だから、私の沈黙は肯定の沈黙です。
もちろん、沈黙の肯定者はきっと私だけではなかったでしょう。
高校時代、私は自分で日本語を勉強し始めました。
初音ミクの歌声のおかげで、五十音をうまく覚えました。
同時に歌詞で語彙も増やしました。
中学校の時、意味も分からず聞いていた歌の意味を、
六年後に初めて理解できるようになったときは、本当に嬉しかったです。
歌のメロディーと初音ミクの歌声が一つになって理解できるようになったのは、
何か不思議な感じでした。
それからが私の「爆買い」時代の始まりです。
自分の小遣いを全部投じて、ミクのCDやゲームを買っています。
しかし、ゲーム主機は台湾製のです。
いつか、ぜひ日本製を買いたいと思います。日本製こそ本物なのです。
去年、初音ミクが中国の上海でコンサートを開きました。
残念ながら私は行けませんでした。
コンサートのチケットは発売後、数秒で売り切れたそうです。
彼女は中国でも大変人気のあるアイドルなんです。
今、私はまだ中国で日本語を勉強していますが、
初音ミクを産んだ日本、特にミクの故郷の札幌には、将来必ず訪れるつもりです。
元々、私の「爆買い」は、初音ミクと心の交流をすることが目的でした。
初音ミクやアニメの主人公たちは現実に存在する生の人間ではなくても、
日本から派遣された平和の使者だと言えます。
私をはじめ、日本を怖がり憎む子どもたちの心の窓を開けてくれたのですから。
初音ミクグッズの「爆買い」は、日用品の「爆買い」と違って、
中日両国民が仲良くなるきっかけになる素敵な買い物ではないでしょうか。
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