『イラク・チグリスに浮かぶ平和』(綿井健陽監督)
……イラク戦争とその後の混乱に翻弄される家族を10年間にわたり
追い続けたドキュメンタリー映画について、
そして今、政府やメディアが当然のように語っている『対テロ戦争』について、
ピーター・バラカンさんが話しているのを偶然聞いた。
いつもの音楽番組のように静かで穏やかな口調だが、
この間の安倍首相の中東訪問を、池内さおり議員とほぼ同じ内容で批判していた。
マル激トーク・オン・ディマンド[5金スペシャル]―映画が描くテロとの戦い―
http://www.videonews.com/marugeki-talk/721/でのことだ。
きっとネトウヨはバラカンさんをも非難の意味を込めて「在日」というだろう。
「在日○○人」はもともと、事実を示す言葉なのに、
その事実を非難してどうするんだろう、と私は思う。
どこで生まれるかは誰も選ぶことができない。
「自分が日本で生まれた日本人だから、
日本で暮らす外国人をそのことで憎む」なんて、
どこから見ても馬鹿丸出しだ。
とにかく誰かを憎みたいから、
その対象を在日外国人になすり付けているとしか思えない。
人間の心のよさ、立派さは、どこの国の人かには関係ない。
バラカンさんの選曲から私はとても多くを学んだが、
バラカンさんの深い感受性は、音楽にのみならず全てを網羅し、
何が正義なのかをも簡単に掴む力を持っていると思う。
バラカンさん:
「『対テロ戦争』、こんなに意味のないものはないと僕は思うんですよ。
最初から勝てるはずのないことは普通、論理的に考えれば分かるはずなのに、
アメリカはオバマの時代になっても続いているし、また、
イラク戦争の時はイギリスもいっしょになってやっていた。
あれほど、イギリス人であることを恥じたことはないですよ。
結局、日本も支持しましたよね。
だから、責任がないとは言えないと思うんですよ。
(戦いの後)また、何か大きな事件があったらメディアはそれしか報道しないし、
それ以外のことをみんな忘れてしまうんですよ。
映画『イラク・チグリスに浮かぶ平和』の中で綿井監督が、
[日本がイラク戦争を支持していたことを覚えていますか?]
と問いかけていますね。
この映画はどんどん上映されるといい映画だと思います。
・・・・・・・・・・・・
僕が慎重になるのは‘テロ’という言葉の使い方なんです。
今から26,7年前、アメリカのニュース番組を日本に紹介する仕事をしたことがあるんですが、
当時、イスラエルはパレスチナ側をいつもテロリストと呼ぶんです。
当時(パレスチナ側の)彼らは石を持っていたか、
場合によっては火炎瓶ぐらいは持っていたかも知れない、その程度のことでした。
かたやイスラエルはものすごい軍事力でもってそれを弾圧しているわけだから、
どっちがテロリストなのか?!って。
これはイスラエル国家による国家テロだとプロデューサーも言っていたんです。
あのころから、‘テロ’という言葉を使っていいかどうか、すごく慎重になっています。」
神保:「正当性がどっちにあるか、どう見るかによって変わってきますよね。」
バラカン:「アメリカは自分の言うことをきかないやつのことをテロと平気で呼ぶことが多いと思うんですよ。」
神保:「イスラム国を国と呼ぶな、という話はよく出てくるけど、テロという言葉も気をつけて使わなければならないですよね。テロと言った時、実は自分のポジションをとっているんだと。」
宮台:「テロ、あるいはテロリストと言った瞬間に、『敵と味方』という区分プラス『善悪』が入り、テロリストは悪に決まっているという当り前さが僕たちを包んでしまうんですね。」
神保:「『イスラム国』の話ですけど、もともと、フセイン政権、これがアメリカの加護を受けてできた政権で、それというのは、イランのパーレビとアメリカがよろしくやっていたんだけど、ホメイニ革命がおきてヤバくなったんで、じゃあ、こっちはフセインを擁立するという形で、まあ『ペット国家』みたいなもの作ったということで、スンニー派のバース党を優遇する政策をとったので、今度それがひっくり返ったときに、シーア派の大統領を立てて、スンニー派を迫害した。そうしたら、『イスラム国』がそれを吸収して強くなってきた。単純に言えば、こういうことだと思う。やっぱり、アメリカがいろいろ手を突っ込んでやった結果生まれたモンスターが『イスラム国』なんだけど、あまりそういう話題をメディアは取り上げていないようだけど。」
宮台:「アフガン戦争、ソビエトとアフガンの戦争にアメリカが首を突っ込んでアルカイダを養成したというということは、ビンラディン問題のときに、ちゃんとマスメディアに出ていましたよね。イラクのフセイン政権も、イランの抑え込み、あるいは、中東でのアメリカの利権を守るための一連の工作の延長線上にあって、イランと闘うしかなかったということは、ちゃんとメディアで言われていたはずなんですよね。ただ、バラカンさんがおっしゃったように、その事実を、どのくらいの人が、どのくらいの間覚えていられるかということなんですよね。 さらに最近の問題は、以前はそういうことが報じられていたのに、この人質事件を巡っての報道の中には一切、中東の歴史は出てきていないですね。今、そんなことを言ったら、敵に塩を送ることになる、という感じで。かろうじて池上さんは言っていますけどね。」
――――――――――とまあ、ごく一部をご紹介しました。
マル激トーク・オン・ディマンドの語りはまだ続くそうです。
神保哲生:ビデオジャーナリスト ビデオニュース・ドットコム代表
1961年東京生まれ。15歳で渡米。コロンビア大学ジャーナリズム大学院修士課程修了。AP通信など米国報道機関の記者を経て独立。99年、日本初のニュース専門インターネット放送局『ビデオニュース・ドットコム』を設立。主なテーマは地球環境、国際政治、メディア倫理など。
宮台真司:社会学者 首都大学東京教授
1959年仙台生まれ。東京大学大学院博士課程修了。社会学博士。東京都立大学助教授、首都大学東京准教授を経て現職。専門は社会システム論。(博士論文は『権力の予期理論』。)
ピーター・バラカン:ブロードキャスター
VIDEO NEWS[5金スペシャル]映画が描くテロとの戦い
http://www.videonews.com/marugeki-talk/721/