犬鍋のヨロマル漫談

ヨロマルとは韓国語で諸言語の意。日本語、韓国語、英語、ロシア語などの言葉と酒・食・歴史にまつわるエッセー。

韓国便り~馬場洞デバクチプ

2009-03-05 00:00:33 | 韓国便り(帰任以後)

 一カ月ぶりのソウルです。

 二日目の夜,

「さて,夕食はどこに行くかな」

「犬鍋さんがいちばん詳しいからお任せしますよ」

 駐在員,出張者,韓国人職員が口を合わせるので,私が決める。

 第一候補はコムチャンオ。新村は遠いので,近くにいい店がないかと聞くと,すぐそばに人気店があるらしい。しかし電話してみると現在20人待ちだという。

 それで,第二候補漢南洞イチョウの木のファントオリクイ(黄土家鴨焼き)に電話してみる。しかし,こっちも満員で,オリはあと一羽しか残っていない。一行は8人なので3羽は必要です。

 ということで,馬場洞の焼き肉屋さんに行くことにしました。ここについては,以前書いたことがあります(→リンク)。

 3台のタクシーに分乗して馬場に向かいます。

「馬場洞の畜産市場の隣だよ。有名だからタクシーの運ちゃんが知ってるはず」

 ところが,われわれが着いたあと,あとの2台がなかなか来ない。携帯電話が鳴ります。

「どうしたの?」

「畜産市場で降りたんですけど。なんか目印ありますか?」

「そうね。上のほうに30年伝統モクチャコルモク(食べよう通り)って看板が出てるよ」

 韓国では,「30年」続けば伝統を名乗る資格充分です。

「あ,それから市場の出口に北門て書いてあるね」

「あ,こっちは西門だ」

 かなり大きい市場の端と端だったようです。夜なので大方の市場は閉まっています。血なまぐさい市場の中を通って残りの面々が表れたのは10分後。血の臭いががまんできない女性職員は鼻にハンカチを当てています。

「30年伝統 モクチャコルモク」にはおよそ30軒の焼き肉屋が集まっている。路地に入ると,客引きアジュンマがかまびすしい。

「席空いてますよ。サービスしますよ…」

 どこという目当てはないのですが,ガラガラの店はあまりよくないような気がしたので,中程のそこそこ混んでいる店に入る。

 いっしょに来た韓国人職員も,メニューに並ぶ専門的な肉の部位についてはチンプンカンプン。とりあえずユッケ(牛肉の生肉)とアンチャンサル(ハラミ=横隔膜)を注文します。

「ここは市場の隣なんで,普通の店では食べられない,いろんな部位があるんです。ホルモンもありますよ」

「いいですね」

ということでコプチャン(牛の小腸)を追加。

「この店でいちばん旨い肉はなんですか」

とアジュンマに聞くとコッチマサルコッチェクッサルという答えが返ってきた。どちらもこの店では最高額の2人前5万ウォン。

 コッは花,チマはスカートなのでコッチマサルとは

花柄スカート肉…

 
一方,チェは牛車の前につきだした二本の棒。クッはその先っぽ。

花牛車棒端肉…

 なんのことだかわかりません。

 ともに牛肉の部位名で,チマサルは牛の前脚上方の肉。チェクッは背の後ろのほうの肉。日本では脂が入った部分を「霜降り」と言いますが韓国語では「花」と表現します。

 結局,「花柄スカート肉」にすることに。

 そして,狂牛病で最も危険な脊髄を生でいただくという恐怖の一品,ドゥンコルを,「サービス」で少しだけ出してくれるように交渉。

 最初に運ばれてきたのが大盛りのユッケです。

「店の感じは鶴橋のコリアンタウンに似てますけど,肉は断然こっちがいいですね。量も多いし」

と,大阪から来た出張者。
 サービスとして出てきたドゥンコルは,手をつける人がいないので私が率先垂範して,塩入れごま油でいただく。

「味というより食感を味わうものですね」

 アンチャンサルはいかにも良質で厚切り。いままで食べたアンチャンサルの中でも上位に属します。

 コプチャンがまたすごい。牛を解剖してそのまま取り出してきたような小腸を,とぐろが巻いたまま網の上へ。日本からの出張者は息を飲んで見守ります。焼けるにしたがって,腸の内容物が漏れだし,炭火に焼かれて香ばしいけむりが立ちのぼります。

「大阪でもこんなふうに出てくるところはないなあ」

 最後に出てきた,コッチマサルが絶品でした。最上級和牛のように一面に霜降りのあるチマサルを焼くと,実に柔らかい。

 総額はけっして安くはありませんが,全員,充分満足しました。

 店を出るときに店名を確認すると,チョンジュデバクチプ(全州大バク家)。デバクとは大成功すること。パクはふくべで,フンブとノルブという韓国の昔話が語源になっています。

 フンブとノルブについて簡単に解説しておくと,

 正直者のフンブと意地悪なノルブという兄弟がいて,いじめられながら貧しく暮らしていたフンブが,怪我をしたツバメを助けたことから,ツバメにふくべの種をもらい,フクベを育てると小判がざくざく湧いて大金持ちになる。それをまねしたノルブがツバメを捕まえてわざと怪我をさせて治療してやり,もらったふくべの種をまくと,中から糞尿や鬼が出てきて散々な目に合う

という勧善懲悪物語です。

 高級焼肉屋にあきたら,行ってみる価値のあるお店です。


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