4月からの新しい朝ドラ「らんまん」は、植物学者、牧野富太郎が主人公。
私が最初に働いていた出版社の資料室に、『牧野植物図鑑』が並んでいました。
私の担当は、『ニュートン』という科学雑誌。
『ニュートン』は、アメリカの『ナショナルジオグラフィック』を愛読していた故竹内均を編集長として、「科学を、『ナショグラ』のような豊富な写真とイラストで、わかりやすく伝えたい」という趣旨で創刊された月刊誌です。
テーマは、天体、動物、植物、さらに素粒子論など多岐に及びます。素粒子の世界は、写真に撮れるものではないので、イラストを多用しますが、動物・植物は写真が中心。
イラストで描かれた「牧野の図鑑」を、私はあまり見ることがありませんでした。
編集部には、もと教科書会社で長年生物を担当していた老編集者がいました。彼の専門は虫、なかでも蜘蛛でした。
「写真集より、イラスト図鑑のほうが価値が高いんだよ」
「どうしてですか」
「写真は、細かいところまで撮り切れないけど、イラストは表現できるからね」
たしかに、植物や昆虫の細かい構造を1枚で表現した細密イラストは、写真よりも情報量が多いといえます。
牧野富太郎は、植物学における細密イラストの草分けで、その「図譜」は、出版界では古典的名著でありつづけていました。
私はその編集者から、編集のイロハを教えていただきました。
私がその出版社を辞め、今の会社に入って数年したとき、日本酒の一升瓶を持って、その老編集者の家に挨拶に行ったことがあります。すでに退職していて、趣味で昆虫の研究や植物の栽培をしており、帰るとき、エビネの鉢植えをいただきました。
「これは野生種で、地植えしておけば手間はかからないよ」
老編集者は、私が韓国に駐在中に亡くなりましたが、そのときいただいたエビネは、今も私の庭の片隅にひっそりと息づいており、5月ごろになると、地味だけれども可憐な花を咲かせます。
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