犬鍋のヨロマル漫談

ヨロマルとは韓国語で諸言語の意。日本語、韓国語、英語、ロシア語などの言葉と酒・食・歴史にまつわるエッセー。

人生いろいろ~バーのママのその後

2007-10-13 00:57:06 | 人生いろいろ
 帰国の直前にあいさつを兼ねて飲みにいって以来,ロケーションが悪いので行けなかったバー。夜到着の金浦空港から,地下鉄5号線で通り道だったので,ちょっと寄ってみました。

 場所はオモッキョ(梧木橋)駅から徒歩2分。スーツケースを引きずって訪ねると,店は健在でした。

「あーら,犬鍋さん。お久しぶり。どうして連絡くれなかったの?」

「えっ,電話したけど,出なかったじゃない?」

「うそ。私,必ず電話とるわよ」

「前回の出張のとき,電話したはずだけどなあ」

「あっ,もしかして国際電話? そういえば,一度,わざととらなかったことがあったわ」

「ソウルからかけたけど,この電話,日本のだから,国際電話になるかもね」

「ごめんなさい。別の人かと思って」

「日本人?」

「いや,韓国人なんだけど,大韓航空のパイロット」

「なんでとらなかったの?」

「ちょっとわけありでね。あとで話したげる」

 しばらくして,ウイスキーのセットを持って隣に座ったアガシ,これまでのことを話してくれました。

「ほら,前に私が騙されたってこと話したでしょう? お店の権利金,全部持ち逃げされて。あのときはほんとうに困ったわ。それで,あるお客さんにこぼしたの。それが,そのパイロットでね」

「お馴染みさん?」

「いえ,そうじゃないのよ。そのときが3回目ぐらいだったかしら。そしたらね,お金を貸してくれたのよ」

「いくら?」

「3000万ウォン」

(!!! ローソンの店長の上を行くなあ)

「それで,このお店,続けられたの」

「で,返したの?」

「当たり前でしょ! 私,1000ウォンだって,借りたお金を返さなかったことないわ。でも,利子なしだけど…」

「よくがんばったね」

「その人も驚いていたわ。戻って来ないだろうと思っていたって」

「恩人じゃない」

「ええ。でもね,それからいろいろ誘ってきて…。その人,既婚者で,家庭もあるのに。だから,言ってやったの。『お金のことは本当に感謝してる。でも,あなたは浮気するような人じゃないし,私もそんな関係は望んでいない』って。で,一時,その人からの電話をわざととらなかったのよ」

「ふーん。でも,お金持ちなんだね,3000万もぽんと貸してくれるなんて」

「そうね。それにちょうどそのとき,私にも好きな人がいたし」

「へぇ。どんな人?」

「その人はお金はあんまりない。ずいぶん苦労してるみたいで,私もお金はないけれど,なんとかしてあげたいと思っちゃうような人」

「前は,男なんてみんな嫌って言っていたじゃない」

「そうね。私,サラン(愛)なんて信じなかった。若いときに結婚して,失敗して,子育てで苦労したでしょう。ずっと恋愛なんて考えたことがなかった。今回が初めてよ。まるで20代のときのように,燃えちゃったのは」

「で,別れたの?」

「ええ,つい二週間ほど前。嫌いになったわけじゃないけど,やっぱり経済的な問題があるから無理なのよ。嫌いじゃないのにわかれるってとても悲しいわ」

「娘さんたち,もう大きくなった?」

「今,高2と中3。上の子は来年受験よ。勉強ができなくて困っちゃう」

「なら働けばいいじゃない」

「だめよ。韓国は大学行かなくちゃ生きていけないわ」

「いい人見つけて結婚しちゃうとか」

「アイゴー。子どもには結婚なんてさせたくない。一人で生きていくほうがよっぽどましよ」

「そんな。年取ってからさびしいよ」

「でも,子どもを責任もって育てるのは大変よ」

「そりゃそうだけど…。で,娘さん,ボーイフレンドいるの?」

「ネー,マナヨ(ええ,たくさん)。とてもかわいいから」

「やっぱり,ママの子だから」

「ハハハ。下の子は,あんまりかわいくないと思っていたけど,年頃になって,ずいぶんかわいくなった。上のは,とってもきれいよ」

「じゃ,幸せになるよ。韓国では容貌が重要だから」

 こんな話をしているうちに,お客さんが続々と入ってくる。ママ以外の二人のアガシは大忙し。長居しても迷惑そうなので,きりあげることに。お店が順調なようなので,ひと安心です。

 彼女の幸せを祈ります。

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