犬鍋のヨロマル漫談

ヨロマルとは韓国語で諸言語の意。日本語、韓国語、英語、ロシア語などの言葉と酒・食・歴史にまつわるエッセー。

追悼、大江健三郎

2023-03-28 23:08:13 | 日々の暮らし(2021.2~)
 ノーベル文学賞作家の大江健三郎氏が3月3日に亡くなりました。新聞発表は14日でした。

 ご冥福をお祈りします。

 大江健三郎は、私が青春時代の一時期に、読み漁った作家です。最初は、純文学なのに性的描写が多いので興味本位に読み始めたのですが、初期の作品(『奇妙な仕事』、『飼育』など)に、それまで読んでいた作品にない、現代文学の面白さを感じ、作品集を買いそろえて、集中的に読みました。

 私は、中学生の時は、すでに評価の定まった、ちょっと古めの「名作」(漱石、鴎外、芥川龍之介、太宰治など)を中心に読んでいたのですが、同時代(まだ著者が生きている)作家を熱心に読んだのは、安倍公房と大江健三郎が最初でした。

 当時、単行本や文庫になっていなかった『政治少年死す』を、文芸雑誌のコピーを持っていた高校の友人に借りて読んだりもしました。

 特に、『個人的な体験』に感銘しましたが、その後、思想的な作品、手法的に特異な作品については、読みかけて途中でやめた作品も多い。それでも、半ば義務的に読んでいました。

 普通に読んでもわからなくなり、わかろうとするために相当な努力が必要になりました。

 ちょうど、ブーレーズのピアノソナタにような難解な現代音楽を聴いているような気分でした。

 そのうち、「わかってもいないのにわかったふりをする」のが面倒くさくなり、新刊が出ても買わなかったり、買っても読まなかったりするようになりました。



 社会人になり、特にソルジェニーツィンの作品に影響されて、自身の思想が「反共」に寄っていくようになると、大江氏の、反核、反天皇といった政治的主張にも疑問を持つようになりました。

 大江健三郎がノーベル賞をとった(1994年)のは、私が韓国にかかわるようになってからのことでした。

 職場で雇っていた韓国人アルバイト(大学院生)が、日本で二人目の文学賞受賞なんて、「本当にうらやましい」と言っていました。

「どんな作品を読んだの?」

「いや、読んでないですけど…」

「…」


 この女性は、大学院では日本の近代文学を専攻していました。

 私も最新作の『燃え上がる緑の木』を読んでいませんでした。

 韓国でノーベル文学賞が待望されながら、その実、作品を読んだ人は少ない、高銀(コ・ウン)という詩人について、書いたことがありますが、ノーベル文学賞作家は必ずしもベストセラー作家ではないということかもしれません。

韓国がノーベル文学賞をとれないわけ

 2010年に和田春樹氏が主導した「「韓国併合」100年日韓知識人共同声明」に、大江健三郎氏が名を連ねていたのは残念でした。

進歩的知識人のアナクロニズム(1)
進歩的知識人のアナクロニズム(2)

 ただ、『帝国の慰安婦』の著者、朴裕河教授が韓国で起訴され、日本の学者、作家、ジャーナリストが連名で抗議声明を発表したときに、大江健三郎の名前もありました。

朴教授起訴に「良心的」日本人が抗議

 日本糾弾には賛成だが、言論の自由に対する圧迫には反対ということでしょう。

 若いころの作品『政治少年死す』が、右翼の脅迫で単行本として出せなかったという経験もありました。

 大江氏の死をきっかけに、「積読」の作品をあらためて読んでみようかという気もしますが、読むべき本はあまりにも多い。

 たぶん順番は回ってこないでしょう。


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