初日の夜、会社の人たちとの会食の後、私は旧知の韓国人男性と約束をしていました。
彼は提携先の社員で、私と知り合ったのは、1995年。30年近くのつきあいになります。
彼が2年ほど前に退職したという話を、風のうわさに聞きました。SNSで連絡をしても応答がない。心配していたところ、出張の2週間ほど前にやっと連絡がつき、出張時にソウルで飲もうということになったのです。
ホテルのロビーで待ち合わせ、再会を喜びました。
「退職したって?」
「はい、名誉退職です。退職金が上増しされるというんで」
名誉退職というのは、早期退職の韓国語。
韓国の会社は、人件費の上がったベテラン社員を減らすために、早期退職を推奨します。それに応じるのが「名誉退職」。名誉退職しない場合は、「解雇」もありうるので、応じる人が多いのです。
「今は何してるの? 日本語とか映像関係?」
彼は日本語学科を卒業し、日本で映像関係の専門学校を出た「専門職」。前の会社では、韓国社員を連れて日本に行き、通訳をしたり、研修の様子をビデオに収めたりしていました。
「どっちも関係ありません。化粧品関係の小さな会社です。契約社員で、気楽な身分ですよ。ハハハ」
「5年振りぐらいかな」
「いえ、前に会ったのは2016年11月ですから、7年振りです。ちょうど父が倒れた直後でした。そのあとすぐに亡くなったので、覚えているんです」
「そのときはたいへんだったね」
後で調べると、ブログに残っていました。
韓国便り~魚市場移転
「どこに行きましょうか。もう食事は済まされたんですよね」
「補身湯が食べたいなあ」
「ポシンタン! 最近、店が少ないですよ。ぼくも10年ぐらい食べていません。ムギョドン(武橋洞)あたりにはあるかもしれません。行ってみましょう」
武橋洞というのは、私が韓国に駐在を始めた27年前に事務所があった場所で、「ナクチ」という激辛料理が有名な場所ですが、確かに補身湯の店も何軒かありました。
行ってみると、そこは別の居酒屋になっていました。
「残念!」
「スンデはどうですか?」
「いいね」
スンデは韓国式腸詰で、中身は豚の血、春雨、香味野菜、もち米など。汁物にして食事にしたり、おやつに食べたり。酒のつまみにもします。
うらぶれたスンデの店に入り、スンデとビールを注文。
「アバイスンデがうまいんです」
「アバイってどういう意味」
「北朝鮮の方言で「アボジ(お父さん)」のことです。こっちは、血が入っていないんですよ」
冷蔵庫を見ると見慣れない瓶がありました。「セロ(새로)」と書いてあります。(冒頭写真)
「あれ、焼酎?」
「はい、最近出たんです。だからセロかな」
セロは韓国語で「新たに」という意味。
スンデをつまみに、テラ(ビール)とセロ(焼酎)の混合酒(ソメク)を飲みながら、昔話に花が咲きました。
「不動産の仕事をやっていると思ったよ」
「ああ、韓国の不動産はもう上がりません。下がる一方でしょう」
彼については、過去、ブログで取り上げたことがあります。
人生いろいろ~日本の恩人
夢(クム)
「犬鍋さん、明日仕事でしょう。そろそろお開きにしたほうがいいんじゃないですか」
「さっき、なつかしい看板を見つけたんだよ。もう一軒、つきあって」
古びた建物の階段を上がっていくと、客のいない店にアジュンマ(おばさん)が一人で座っていました。
「あら、だれかと思ったら、犬鍋さんじゃない! なつかしい」
「まだお店、やってたんですね」
事務所が武橋洞にあったこと、通っていたカフェです。ここでも別の「再会」がありました。
ただ、ここには2019年の夏にも来ているので、4年振り。
韓国便り~バニー
マルンアンジュ(乾きもの)とメクチュ(ビール)を頼み、小一時間談笑。
ホテルに着いたのは23:30。その日は朝4時に家を出たので、朝まで爆睡しました。
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