写真:ハンギョレより
尹大統領の弾劾訴追案が賛成204票で可決され、進歩系のマスコミが勢いづいています。「ハンギョレ」がその代表。
日本語版に、面白い記事がありました。
「私はいわゆる酒場の女ですが」…弾劾集会に立った女性に、韓国市民ら拍手と歓声
記事によれば、12月11日に釜山で開かれた尹大統領弾劾集会で、自分のことを「あの温泉でカラオケのコンパニオンとして働いている、いわゆる酒場の女です」と紹介し、政権批判を行ったそうです。
カラオケのコンパニオン(노래방 도우미)というのは、カラオケ(ノレバン)で、性的サービス(売春)目的に呼ぶ女性のこと。
彼女は、次のような内容の演説をしました。
「多くの人たちが偏見を持って、私を軽蔑したり後ろ指を差したりしていることを知っているが、今日私は、民主社会の市民としてその権利と義務をつくそうと、この場に勇気を出して来た」
「一つお願いしたいことがあります。私たちがこの苦難を乗り越えた後も、引き続き疎外された市民に関心を持ってほしい」
「私たちは朴槿恵(パク・クネ)を弾劾し、今度は尹錫悦を弾劾することになったが、同時に韓国国民の半分は朴槿恵と尹錫悦を選んだ人たち」
「自分の家の値段が上がるから、北朝鮮をけん制しなければならないから、自分が属するコミュニティの人たちがそう煽ったから、国民の半分が与党『国民の力』を支持していた」
「その人たちはなぜそうするのでしょうか。江南(カンナム)に土地を持つ連中はともかく、何の財もない20~30代男性や老人たちは、なぜ国民の力を支持するのでしょうか」
「市民教育の不在と彼らが所属する適切な共同体がないから」
「私たちの周りの疎外された人たちに関心を持ってほしい。一緒に民主主義に関心を持ってほしい。ただ皆さんの関心だけが、弱者を生かすことができる」
「クーパンでは労働者たちが死につつある。坡州(パジュ)のヨンジュコルでは、再開発の名目で娼女たちの生活の基盤が破壊されている」
「同徳女子大では大学の民主主義が脅かされており、ソウルの地下鉄では今でも障害者の移動の権利が保障されておらず、女性に対するDVが、性的マイノリティのための差別禁止法(の不備)が、移住労働者の子どもたちが受ける差別が、そして全羅道に向けられた地域嫌悪などが(依然として)ある」
「これらすべてが解決されないのであれば、私たちの民主主義はいまだ完ぺきではない」
女性の発言を収めた動画はSNSのXで共有され、13日午前10時までに388万回の再生回数を記録した。
発言中、「クーパン」というのは、韓国ネット通販最大手企業で、急成長の過程で相次ぐ配送労働者の過労死がニュースになりました。
「ヨンジュコル」というのは、京畿道北西部にある基地村。朝鮮戦争後に設置された官営の売春施設で、90年代に民営化されたあと、現在まで売春街として存続していましたが、近年、再開発で施設が強制的に撤去され、そこで働く女性たちが追い出されつつあります。
「同徳女子大」は、近年の少子化で入学者数が減り、大学側が「共学化計画」を発表すると、在校生が反対運動を繰り広げ、一部が過激化して大学施設に大きな被害を出した学校。
与野党対立が戒厳令にまで突き進んでしまう韓国、その国民性を象徴していた女子大の共学化反対デモ
ソウルの地下鉄は、エレベーターの設備のない駅が多く、車いすの障がい者が利用しにくい。
「女性に対するDV、性的マイノリティのための差別禁止法不備、移住(外国人)労働者の子どもたちへの差別、全羅道への地域嫌悪」は、現在も続く社会問題です。
これらは、必ずしも尹政権になってから出てきた問題ではありません。
この女性自身に最も関わりの強い問題は、「売春女性への偏見、軽蔑、後ろ指」のはずです。
いわゆる元従軍慰安婦支援運動がその最たるもの。
運動団体は、「日本軍慰安婦を売春婦呼ばわりする」ことに抗議をしていましたが、これは現代でも売春を余儀なくされている多くの女性たち(この集会の発言者を含む)に対する「差別」の裏返しです。
そしてこの記事を載せているハンギョレは、支援団体を強く支持していました。
正義連(旧挺対協)の代表だった尹美香は、国会議員に昇りつめましたが、先月、最高裁で「元慰安婦支援団体の寄付金を私的に流用した罪」で二審判決の懲役1年6月、執行猶予3年が確定しました。
ただ、判決は総選挙の後に出たので、尹美香は4年間の間、国会議員としての報酬とさまざまな特別待遇を受け続けました。
慰安婦団体前トップの有罪確定 寄付金を私的流用―韓国最高裁
慰安婦関連でいうと、延世大学での講義中に「旧日本軍の慰安婦は売春の一種」などと発言して名誉毀損の罪に問われた柳錫春(リュ・ソクチュン)元延世大教授は、一審に続いて控訴審でも無罪判決が下されました。
元大学教授の「慰安婦は売春」発言 控訴審でも無罪=韓国
軍慰安婦は、生活苦から売春を余儀なくされた女性であり、現代の売春婦と本質的な違いはありませんが、韓国の多くの人々は「慰安婦は日本軍に強制連行された無垢の女性」と信じたがっており、現在の売春婦とは違うといいます。その現代の売春婦の顧客の大部分は韓国人男性なのに。
尹政権は大統領選挙に薄氷の勝利を収めましたが、就任直後から支持率が低かった。
低支持率の一因となったのは、与党「国民の力」代表の李俊錫(イ・ジュンソク)が「性接待・証拠隠滅」疑惑で党から懲戒処分を受けたことでした。
ただ、この疑惑は今年9月、検察が「嫌疑不十分」として不起訴処分になりましたが…。(リンク)
「性接待」は、政界・財界・芸能界に蔓延している韓国の悪弊の一つ。野党議員も他人事にできることではない。
尹大統領の戒厳令宣布に端を発した今回の騒動は、韓国社会のさまざまな問題点をえぐり出すきっかけとなっています。
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