月の岩戸

世界はキラキラおもちゃ箱・別館
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プルケリマ・10

2015-07-18 04:18:06 | 詩集・瑠璃の籠

星空の中を
リュウグウノツカイが泳いでいる
光のような声を発しながら
ゆったりと
鉄の都市の上を泳いでいる

もう終わりだ
やめなさい
もう終わりだ
やめなさい

胸に重くこたえるその声に
ふと上空を見上げると
リュウグウノツカイは
透き通った絹のようなひれを風になびかせながら
わたしの目の中に玉を落とすように
わたしの顔の前で点滅しているのだ

わたしは言った
やあ おひさしぶりです
乙姫さまは
まめでいらっしゃいますか

そう聞くと
リュウグウノツカイは
悲しそうに微かに顔をゆがめて
言うのだった

あなたに心配をかけぬよう
まめと言いたいところだが

ああ わかりました
それ以上は 何も

わたしが言うと
リュウグウノツカイは挨拶もせず
くるりと向こうを向いて
また夜も眠らぬ都市の上を泳ぎだす

もう終わりだ
やめなさい
もう終わりだ

ここは
地上だと思っていたが
すでに深海なのだ
大陸はもう沈んだのだ
これはアトランティスよりもひどいな
人間よ いつ気づく

さっき買ったばかりの新刊本が
もうすでにその手の中で
うす汚れた古書店の
書棚の隅に忘れられた
古本になっていることに

人間よ いつ気づくのだ



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