月の岩戸

世界はキラキラおもちゃ箱・別館
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フォマルハウト・6

2015-07-30 04:51:37 | 詩集・瑠璃の籠

林檎が割れるように
あなたの仮面が割れている
そこから滴る血が
ファンデーションを溶かして
あなたの顔がゆがみはじめる

いつも聞いているあなたの声に
微妙に他人の声が混じっている
ものを言うたびに
こんなことを言う人だったか
こんなに耳に痛い声だったか
何か変だと 周りがだんだん気づき始める

あれはだれだ
あいつなのか
あいつなら
あいつはあんなことをするやつだったのか
だれなのだ あいつは

ああ
失っていく
自分のものだと思っていた人生に
突然黒い穴があいて
そこからどこかへ
吸い込まれそうになる

こ れ は 
な に

何が 起こったのだ

驚いてはいけない
叫んではいけない
とうとう あなたのところに
運命の鬼がやってきたのだ

もう時間は少ししかない
やったことを正直に神に謝り
盗んでいたものを返し
本当の自分の運命の中に
飛び込んで行くのだ
どんなに苦しい道でも
逃げてはならない

忘れていたのではない
覚えているはずがない
生まれる前の約束によって
あなたは悪魔に落ちたのだ
ゆえにあなたの存在すべてが悪となる

恐ろしい運命が来ても
驚いてはならない
だれを責めてもならない
それはあなたにとって
そう 当然の報いなのだ

他人の人生を奪い
他人の不幸と死の上で
他人の血を吸いながら
あなたは生きていたのだ

心に準備をさせなさい
すべてを失うことに
心が慣れていけるように
愛はできるだけのことをしてくれるだろう
だがもう二度と
あの幻の幸福には戻れない

白いうさぎが時計を持って
間に合わない 間に合わないと
叫びながら走って行く
追いかけて行かなくてもいい
向こうからそれはやってくるだろう

さあ もうそろそろ
準備をはじめなさい



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