今年の2月8日付で「バス高速輸送システム(BRT)で震災復興(地域復活)はどこまで可能か?」という記事を掲載しました。私は、そこで次のように書いています。
「たしかに、東日本大震災では、地震に対する鉄道の弱さを改めて知らしめることとなりました。首都圏でも、一般の路線バスは夕方までに運行を再開していましたが、地下鉄は、一番早く運行を再開したところでも夜の8時半頃、私鉄が運行を再開したのは9時台から11時台にかけてです。しかし、JR東日本、東武など、早々運行中止を決めたところも少なくありません。JRは3月12日の午前中まで運休していました。当然、バスの出番となります。
勿論、バスには渋滞という問題があります。私も、震災当日、国際興業バスと都営バスに乗って渋滞に巻き込まれました。しかし、全く動かないよりはマシです。
東北地方でも事情は同じでしょう。しかも鉄道の利用率があまりよくないのです。山田線は盛岡~釜石の路線ですが、とくに盛岡~宮古の状況がよくありません。この区間を通しで運行するのは一日4往復しかなく、平時からバスに負けていました。大船渡線の状況はわかりませんが、おそらく営業係数は悪いでしょう。」
不思議なことに、私が見ている限りのことではありますが、昨日まで「鉄道は地震に弱い」という趣旨の発言を見たことがなかったのでした。何故なのかはわかりませんが、このところ流行している鉄道復権論、ローカル線の廃止が地域の衰退に拍車をかけるという議論などのためなのでしょう。私も、こうした議論に正面から反対するという訳ではありません。
しかし、赤字ローカル線活性化論などを読んでいると、根底から賛成できるとは思えないものもあります。鉄道が定点間の大量輸送に適しているという事実を前提とすると、これからの少子高齢化、さらに人口減少という時代に、鉄道を存続させるという議論は根本的な矛盾を抱えています。ローカル線活性化論は、バリアフリー、交通弱者などの問題をあげて、ローカル線の存続などを訴えています。これはこれで理解できます。私自身、7年間も大分県に住んでいましたから、自動車社会の弊害は身にしみてわかっています。それでも、人口が減少しているのに大量交通機関が必要であるという議論には、前提に矛盾があるとしか思えません。
昨日、告別式に出席し、その帰途に渋谷のブックファーストで福井義高『鉄道は生き残れるか 「鉄道復権」の幻想』(中央経済社)を購入しました。奥付を見ると今年の8月20日が発行日となっていますので、まだ発売されて間もない本ということになります。
福井教授の立場は明確で、貨物輸送に関しては鉄道の役割は完全に終わっている(存在意義そのものが失われている)、旅客輸送に関しては鉄道の市場が狭くなる一方である、というものです。或る意味で多くの人々に冷や水を浴びせるような内容ですが、冷徹に考えるならば核心を突いているとしか言えないでしょう。少なくとも、感傷的な赤字ローカル線反対論はせいぜい、よいところでただの話の先送りというものであることが、この本でよく示されています。
これまた最近日本で流行しているLRTについては全く触れられていませんが、おそらく、触れる必要がないからでしょう。LRTも鉄道であることに変わりはないからです。
私がこの本でとくに注目したのが、ローカル線をBRTに変換すべきであるとする内容です。170頁以下をお読みください。BRTはバス高速輸送システムのことです。東日本大震災の影響で不通となった山田線の宮古~釜石と大船渡線の気仙沼~盛について、JR東日本がBRT化を打ち出していますが、福井教授はBRT化を被災地に限定すべきでないという立場です。被災地に話を限れば、教授は三陸鉄道の復旧にも疑問を提起されています。しかも、採算度外視という点以外の問題を記しています。少し長くなりますが、173頁から引用させていただきます。なお、太字は、引用者の私が強調する部分です。
「まず、震災で大きな被害を受けた三陸沿岸部の再生に役立つとは思えません。今まで同様、この地域は今後も圧倒的な車社会であり、運行再開しても利用者は減り続けるでしょう。そもそも、復旧を強く求めた知事や市長をはじめ自治体職員自身、震災前、鉄道を利用していたでしょうか。
鉄道復旧は復興のシンボルになるという意見にも賛成できません。鉄道はいつから高価な観賞用モニュメントになったのでしょうか。学校や住宅など、復興のための予算にはもっと有効な使い道がいくらでもあります。人的物的資源に限りがあることを考えれば、地元自治体も、利用されない鉄道を復旧する提案など断って、それにかかる額と同額の復興予算を要求すべきでしょう。
さらに、今回の震災で明らかになったのは、鉄道は災害に弱いということです。道路や空港なら、乗り心地はともかく、多少デコボコでも使うのに支障はありません。実際、今回の震災後もすぐ使えるようになりました。それに対し、線路は切断されればもちろんのこと、少しでも曲がっていれば使うことはできません。鉄道復旧には時間も費用も桁違いにかかるのです。
かりに交通関連分野におカネをかけるのであれば、住民にとっての便利さや災害への耐性を考えると、まず道路に投資すべきです。そもそも、以前から、独自に頑張ってきた地方私鉄より、元国鉄の三セク路線は補助金等で優遇され過ぎではないでしょうか。」
東北地方には豪雪地帯が多く、自動車は雪に弱いという問題点を忘れてはなりませんが、昨年の経験からすれば、鉄道よりバスなどのほうが災害に強いということは言えるのではないでしょうか。
災害とは違いますが、首都圏でも、昨年の9月21日、台風15号が上陸して関東地方を暴風域に巻き込んだ時のことが思い出されます。鉄道は15時過ぎから17時過ぎにかけて、次々と運転を見合わせてしまいました。私は田園都市線駒沢大学駅で足止めを食いました。ずぶぬれになることを覚悟で地上に出てみたら、東急バスは動いていました。さすがに本数が少なくなるか、徐行でダイヤが乱れるか、というところでしょうが、動いていたのです。高津営業所行きのバスに乗ろうとしたらあまりに混んでいて乗れなかったのは残念でした。すぐに3月11日の夜、池袋駅や渋谷駅などでのことを思い出しました。その時もバスは動いていたのです。高速バスなどは運転を中止していたようですが、それは高速道路を通るからです(3月11日、地震直後から首都高速が全線で通行止めとなりました)。
勿論、バスにも様々な問題はあります。その一つが定時性でしょう。私も普段は鉄道を使って通勤をします。それは、ひとえに普段の定時性(および営業区間)です。しかし、定時性については記すならば、最近の首都圏の鉄道各線の状況を見るとわかりますが、鉄道がバスに対して持つ優位性の一つとされた定時性は徐々に失われつつあります。普段でもこうであれば、異常時にはまして、ということにならないでしょうか。
福井教授も指摘されていますが、現在、鉄道事業が何とか採算に乗っているのは首都圏など一部の地域のみです。かつて私鉄王国と言われた京阪神地区では、国鉄分割民営化の結果として誕生したJR西日本が大幅にシェアを伸ばし、阪急や阪神などの大手私鉄は利用客を大幅に減らしています。中京地区の名鉄も同様の状況に追い込まれています(大手私鉄で最も輸送密度が低いのが名鉄です。逆に最も高いのが東急で、福井教授は東急の輸送密度は日本一どころか世界一高いのではないかとも書かれています)。
あれこれと記してまいりましたが、まだ福井教授の論説の全てを紹介してはおりません。御一読いただくのが最善でしょう。私も、全てに納得したという訳ではないのです。ただ、今後の交通問題を考える際には必読と言えます。