ひろば 川崎高津公法研究室別室

川崎から、徒然なるままに。 行政法、租税法、財政法、政治、経済、鉄道などを論じ、ジャズ、クラシック、街歩きを愛する。

基礎的財政収支(PB)の黒字化は無理

2020年01月19日 00時00分00秒 | 国際・政治

 このブログでも何度か基礎的財政収支の話を取り上げてきました〔「基礎的財政収支の黒字化が後退、いや、もう実現不可能」(2018年1月24日0時22分15秒付)、「やはり! 日本お得意の先送り」(2017年9月20日12時42分53秒付)など〕。どう考えても甘い前提で、それでも基礎的財政収支の健全化は難しいのですが、さらに状況が悪くなっていることが明らかになりました。

 昨日(2020年1月18日)付の朝日新聞朝刊9面14版に掲載された記事「25年度PB試算 赤字拡大3.6兆円 高成長 前提 税収減が響く」と日本経済新聞朝刊5面12版に掲載された記事「内閣府試算、増税でも悪化 財政健全化、議論空虚に 社会保障改革の歩み遅く」によります。

 基礎的財政収支についての最新の見通しは、今月17日、内閣府による試算として経済財政諮問会議で示されました。それによると、2020年代の前半に実質成長率が2%程度という前提の通りに現実が進んだとしても、2025年度(黒字化の目標年度)に3.6兆円の赤字が残る、というのです。2019年夏には、同じ前提のもとで2025年度の赤字が2.3兆円と試算されていましたので、悪化したことになリます。

 しかし、この前提はかなり甘いものです。第二次安倍内閣が成立した2012年12月から現在までを見ると、実質経済成長率が2%を超えたのは2013年度だけでした。2014年4月1日の消費税・地方消費税の税率引き上げ後、2回にわたって両税の税率引き上げが延期され、その理由の一つとしてリーマン・ショック級の云々があげられたことは、実質経済成長率の低さを実証していると言えるでしょう。夢がそのまま試算の前提となっているのでは、真っ当な政策など期待できません。

 そして、今年の東京オリンピックが終われば(否、始まる前からかもしれません)景気が悪化する可能性は非常に高いのです。お祭り騒ぎというよりは馬鹿騒ぎという表現が妥当な現在の状況のもとで忘れられていますが、東京オリンピックが行われた1964年の秋から1965年にかけて証券不況とも言われる不況がありました。日本国有鉄道が赤字に転落したのも1964年度のことで(しかも東海道新幹線が開業した年度でした)、以後、破滅への道を突き進みます。日本に話を限らなくとも、2004年のアテネオリンピックの後にギリシャがどうなったか、2016年のリオデジャネイロオリンピックの後にブラジルがどうなったかを思い起こせばよいでしょう。当初言われていたコンパクトなオリンピックはどこへやら、金食い虫は肥満化する一方です。2024年のオリンピック招致から、ハンブルク、ローマ、ブダペストはオリンピックから手を引いているのです。その理由を見ると、これらの都市の住民は賢明であると認めざるをえません。考えてみてください。たった二週間のお祭りなのです。それに一体いくらのお金をかけているのでしょう。

 内閣府による試算に戻ると、2027年度に黒字化するという前提も変えられていません。企業業績が頭打ちとなって税収も下ぶれているにもかかわらず、です。もっとも、内閣府は実質経済成長率が1%程度という前提(これが現実的であるかどうかは評価が分かれるでしょう)でも試算をしており、この場合であれば2025年度には8.2兆円であり、2029年度(試算の最終年度です)にも黒字化はできないということです。

 余程のことがなければ、またはかなり大胆な政策を採らなければ、基礎的財政収支の黒字化は無理でしょう。政府は楽観的な見通しを変えていないようですが、既に報じられている通り、2020年度予算は過去最大級の規模ですし、2019年度補正予算も4.5兆円の追加支出という内容です。歳出改革の方向性は見えません。大体、消費税・地方消費税の税率を引き上げた2019年10月に、ポイント還元だの何だのという経済政策で増税分の税収を超えるのではないかという支出を行っています(このように記す私も、今月、PASMOのキャッシュレスポイント還元を受けましたし、au payなども使っています)。

 財政が全てであるとは思いませんが、財政が国の根幹であることは否定できません。ドイツではFinanzbremse、直訳すれば財政のブレーキという言葉があり、これが基本法(Grundgesetz.ドイツの憲法)にも取り入れられました(この辺りについては上代庸平氏の論文を読まれることをおすすめします)。日本国憲法には同様の条文がありませんが、憲法を改正するまでもなく、財政の健全性は憲法が想定している事柄です(どこの国の憲法もそうでしょう)。ドイツ租税法学の父と称えられるアルベルト・ヘンゼルが財政調整法理論を打ち立てたのも、財政の健全化ヘの強い意識によるものでした。

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