昨日(2022年3月5日)、横浜市は青葉台にあるフィリアホールに行きました。ハープ奏者の吉野直子さんとヴァイオリン奏者の白井圭さんのコンサートです。
フィリアホールで行われる吉野さんのコンサートには何度も行きましたが、前回は2019年11月23日、フルート奏者のエマニュエル・パユさんとのコンサートでした。それから2年以上が経過しています。
そもそも、COVID-19の影響でコンサートそのものの回数が激減しました。私も、2020年度に行くつもりで予約していたコンサートに行くことができず、キャンセルの手続をしています。延期、再延期を重ねたコンサートもありましたが、こうなると都合がつかなくなることもあるので、泣く泣くキャンセルしたという訳です。
今回はハープとヴァイオリンということで期待していました。また、購入以来何度となく聴いている「ハープ・リサイタル6」の冒頭に収録されている「ハープのためのソナチネ」(マルセル・トゥルニエ作曲)がプログラムの中に入っていたので、「これは行くしかない」と思ったのでした。
イッツコムのカメラなどが客席にありました。収録されたようなので、ケーブルテレビで放送されるのでしょう。
演奏された曲を記しておきます。
〈前半〉
ヘンデル作曲、ヴァイオリン・ソナタイ長調Op.1-3, HWV361
テレマン作曲、12のファンタジアより第⒈曲:変ロ長調TWV40:14(ヴァイオリンのみの演奏)
モーツァルト作曲、ヴァイオリン・ソナタ第21番イ長調ホ短調K.304
シュポーア作曲、モーツァルトの『魔笛』の主題によるポプリ(ソナタ・コンチェルタンテニ長調Op.114より)
〈後半〉
トゥルニエ作曲、ハープのためのソナチネOp.30(ハープのみの演奏)
ドビュッシー作曲、美しき夕暮れ
ドビュッシー作曲、レントより遅く
サン=サーンス作曲、ヴァイオリンとハープのための幻想曲Op.124
〈アンコール〉
ラヴェル作曲、ハバネラ形式の小品
ドビュッシー作曲、小組曲より小舟
前半はドイツ・オーストリア系、後半はフランス系という点も興味深いものです。
開始早々に、妻も私も驚いたのが、白井圭さんのヴァイオリンの音でした。ヘンデルとテレマンの曲を耳にして「バロックに合う音だ」と思ったのです。後半と比べて、あまりヴィブラートをかけていないかのような音でもあり、それがよく響いていました。現在、彼はNHK交響楽団のゲスト・コンサートマスターであるとのことですが「なるほど」と思いました。白井さんの音という点では前半のほうが深い印象を受けたのです。彼の生演奏でヘンデル、テレマンなどのバロック系や古典派を聴いてみたいと思っています。
これまで、数は決して多くないもののコンサートで色々なヴァイオリン奏者の生演奏を見てきましたし、フィリアホールでもそうだったのですが、白井さんの音は非常に印象的でした。このように感じたのは、フィリアホールで聴いた中では2020年2月15日の木嶋真優さんの音と昨日の白井さんの音でした。木嶋さんの音は「ここまで、ピアノにかき消されず、客席に直線的に届く音もない」と感じたのですが、白井さんの場合はヴァイオリン全体が豊かに、会場に響きわたるという感じです。「ボウイングのおかげなのかな」と思ったのですが、いかがでしょうか。ボウイングは、右手で持つ弓の使い方のことで、ヴァイオリンなどの弦楽器の演奏には必須で、かつ基本的な、あるいは基礎的なことでもあるのですが、それだけに難しいものでもあります。どんなに良い楽器、例えばストラディヴァリウス、グァルネリ・デル・ジェス、ニコロ・アマティなどで演奏するにしても、ボウイングができていなければ良い音は出ません。
前半では、とくにシュポーアの曲に対する反応がよかったようです(私も、この曲は面白いと感じました。何処へ行くのかわからないような感じがしたからでしょう)。
トゥルニエのソナチネは、うちで何度も聴いている曲ですが、やはり生で聴くと違います。どのような楽器でも、録音だけ聴くのと生演奏を見て聴くのとでは印象が違うものですが、その差の大きさという点ではハープが一番であるような気がします。
昨日演奏されたドビュッシーの曲のうち、「美しき夕暮れ」は歌曲です。原曲を聴いたことがないのですが、探して見ようかと思っています。また、「レントより遅く」は原曲であるピアノ独奏でも生で聴いたことがありますが、原曲は変ト長調で書かれているのに対し、ヴァイオリン版は「亜麻色の髪の乙女」と同じく、原曲より半音高いト長調となっています。白井さんの音は、前半とは違っていました。曲調に合わせたものでしょう。ドビュッシーなどの曲をバロック調で演奏しても似合わないからです。
アンコールで演奏されたラヴェルの「ハバネラ形式の小品」には「選択がいいな」と思いました。この曲はラヴェルの曲としては初期のものですし、後期の「ボレロ」などに隠れてしまっていますが、「ボレロ」とは格段に違う名曲であると思っています。簡単に記せば、「ハバネラ形式の小品」は粋あるいは御洒落、「ボレロ」は野暮です。私は、「ハバネラ形式の小品」も含めて、ラヴェルは1910年代までに書かれた曲のほうがよいと常に思っています。これは無根拠な話でもありません。ラヴェルは、最後のピアノ独奏曲集となった「クープランの墓」以降、極端なほどに作曲のペースが遅くなります。1927年には記憶障害などに悩まされていたといいます。「ボレロ」はその後に書かれた曲です。
少し脱線しましたが、ドビュッシーの「小舟」はピアノ連弾版(これが原曲)、管弦楽版があり、ドビュッシーらしさと「らしからぬ」部分とが混在していますが、ヴァイオリンとハープでの演奏もよいものだと思って聴いていました。ヴァイオリンの低音がよく利いています。
終わって、CDを2枚買いました。吉野さんの新作「ハープ・リサイタル〜Intermezzo〜」と白井さんの「シューマン:ヴァイオリンとピアノのための作品集」です。白井さんのCDはまだ聴いていませんが、「ハープ・リサイタル〜Intermezzo〜」は、これから何度も聴くことになりそうです。以前、このブログに「もりでねてた 環境音楽:クラシック・ヒーリング・エレクトロニカ すべてを包み込む森林音浴」というCDのことを書きましたが、やはり加工をしすぎないハープの演奏のほうが、ヒーリングには適しています。
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