ひろば 川崎高津公法研究室別室

川崎から、徒然なるままに。 行政法、租税法、財政法、政治、経済、鉄道などを論じ、ジャズ、クラシック、街歩きを愛する。

大学で対面授業が行われないのは義務の不履行に該当するのか

2021年06月10日 00時00分00秒 | 受験・学校

 Yahoo! Japan Newsでも取り上げられていたので御存知の方も多いことでしょう。今日(2021年6月9日)付の朝日新聞朝刊25面14版に「コロナ 大学授業オンラインのみ 学生、『義務不履行』提訴へ」という記事が掲載されていました。朝日新聞社のサイトには、今日の5時付で「学生、『義務不履行』提訴へ コロナ、大学授業オンラインのみ」(https://digital.asahi.com/articles/DA3S14933239.html)として掲載されています。

 COVID-19の蔓延拡大により、少なくとも首都圏や京阪神の大学の多くでは2020年度にオンライン授業が行われました。私も、大東文化大学(本務校)、國學院大學、中央大学、そして東洋大学大学院の授業をオンラインで行いました(筑波大学法科大学院のみ、教室での講義でしたが、学生はオンライン出席かオンデマンドでした)。いざ行ってみると、教室での授業よりも大変で、疲労が溜まることもわかりました。2021年度は大学によって様々であり、大東文化大学では原則として教室での授業ということで、私は科目に応じて対面授業のみとハイブリッド型を採りましたが、他の大学ではオンラインのライブ型とオンデマンド型とされました。

 さて本題です。上記記事によると、明星大学経営学部の学生であるX氏が、近々、同大学を被告とする訴訟を東京地裁に提起するようです。最終的な請求は合計140万円の損害賠償で、この額には学費の返還分も含まれています。

 同大学の2020年度の態勢がよくわからないのですが、上記記事によると、2020年度の前期は全学部でオンライン授業を行い、後期から一部の科目で対面授業を行ったということですが、経営学部の場合はオンライン授業のみであったようです。そのため、X氏が2020年度に受けた授業は全てオンラインで、記事の内容からすれば主にオンデマンド型、つまり、録画を見てレポートを提出するというものでした。

 X氏は「コロナ渦を理由に対面授業をやらないのは、大学として義務を果たしていない」、「オンライン授業を安易に続ける大学に不安や疑問を感じる学生は多い。誰かが声をあげないといけない」という趣旨を語っていたそうです。2020年中に、インターネットの記事などで時々見かける意見や批判も、おおよそ同じ内容でした。他大学でも、とくに実習などがある科目では教室での授業を再開したところもありますが、科目によっては履修者が多く、感染対策の観点から大教室での授業を避ける学校が多かったのではないでしょうか。

 また、X氏は、おそらく訴状において主張するものと思われるのですが、文部科学省が2020年7月および9月に各大学に求めた「対面授業ができない理由の説明」、「授業の代わりとなる学生同士や教授らとの交流機会の設定」をあげているようです。つまり、「理由の説明」なり「交流機会の設定」なりを行っていなかったということが「施設を利用させるなど学生との契約義務を履行していないと主張する」理由となっているのでしょう。なお、2020年10月時点における文部科学省の調査によると、187の大学や高等専門学校などで「対面授業の実施割合」が「全体の半分未満」であり、「ほぼすべての学生が授業形態などを理解・納得している」と回答した大学などは18に留まったようです。

 一方、明星大学経営学部では2020年9月および2021年3月に交流会を行ったということです(同学部のサイトにはその旨が書かれていなかったのですが、記事が削除されたということでしょうか)。この部分はX氏と大学との間で食い違いがありますが、情報の伝達方法に何らかの問題があったとも考えられますし、どのような状況でもこのようなことは起こりうるとも言えます。

 そして、X氏の主張および請求は認められるのでしょうか。私は五分五分と考えています。裁判は、いかなる主張・立証を原告、被告の両者が行うかによって勝負が付くものですから、今の段階では何とも言えないのですが、2020年2月末日に全国の学校(小学校や中学校など)に対する休校要請が行われ、4月および5月には緊急事態宣言が出されて移動などの自粛が呼び掛けられたという事実は、被告に有利でしょう。問題は緊急事態宣言が解除されてからの状況で、夏以降に新規感染者数が増加し、大学でのクラスター発生が報告され、個々の教職員や学生の感染例も多く見受けられたことからすれば、被告の主張も通るものと思われます。一方、2020年の緊急事態宣言の解除後に、移動の自粛要請も緩和され、GoToキャンペーンまで行われ、文部科学省が対面授業の再開を強く促したということからすれば(但し、法的拘束力があった訳ではありません)、原告に有利と言えます。小学校や中学校などでは6月から教室での授業が再開されましたし、大学入試(一般、推薦のいずれも)が行われたことも、原告の主張に裏づけを与えるものでしょう。

 コロナ渦よりも前からオンライン授業が行われていた国もありますが、日本の大学では例外的な存在であり、オンラインの導入も感染対策も手探りの状況が続いていたということは、理解していただきたいと考えています。

 上記記事を読み、私の身の回りなどと比較すると、なかなか複雑であると感じます。2020年度、既に記したように私はほとんどの科目でオンライン授業を行いましたが、やはり教室で行いたいという気分はかなり強かったのでした。他の多くの大学教員も同じことを考えたのではなかったでしょうか。

 一方、2021年度に入り、ハイブリッド型を採用してみたら、少なくとも私の担当科目には教室での出席者よりもオンラインでの出席者のほうが多いというものもあります。東京都は緊急事態宣言の対象地域ですし(そもそも、今年に入ってから緊急事態宣言の対象でなかった日のほうが少ないでしょう)、通学しなくともよいということにメリットを感じた学生も少なくなかったということです。


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