ひろば 川崎高津公法研究室別室

川崎から、徒然なるままに。 行政法、租税法、財政法、政治、経済、鉄道などを論じ、ジャズ、クラシック、街歩きを愛する。

講義内容を公開します 酒税その2

2020年06月26日 00時00分00秒 | 法律学

 4.酒類の製造、販売に関する免許制度

 酒税法は、酒類等(酒類、酒母またはもろみ)を製造しようとする者、販売しようとする者に対し、製造場または販売場ごとに所轄税務署長の免許〈行政法学における許可に該当する〉を受けなければならない旨を規定する。この免許制度は酒税の徴収確保のためであり、「酒税の円滑な転嫁及び検査取締り上の要請等を目的として採用された」〈富川泰敬『令和元年版図解酒税』(2019年、大蔵財務協会)151頁〉

 〔1〕酒類製造免許

 酒税法第7条第1項は、「酒類を製造しようとする者は、政令で定める手続により、製造しようとする酒類の品目(第3条第7号から第23号までに掲げる酒類の区分をいう。以下同じ。)別に製造場ごとに、その製造場の所在地の所轄税務署長の免許(以下「製造免許」という。)を受けなければならない。ただし、酒類の製造免許を受けた者(以下「酒類製造者」という。)が、その製造免許を受けた製造場において当該酒類の原料とするため製造する酒類については、この限りでない」と定める。免許の効力が対象(物)および場所の面において制約を受けていることに注意されたい。

 また、同第2項は、1つの製造場における1年間の製造見込数量を、種類ごとに定めている。製造免許を受ける際には、この製造見込数量を超えることが求められる。

 酒類製造免許を受けずに酒類を製造した者には刑事罰が科される(同第54条)。

 〔2〕酒母またはもろみの製造免許

 酒母またはもろみを製造しようとする者についても、やはり製造場ごとに製造免許を受けなければならない(同第8条)。但し、酒類製造業者が製造場において酒類の製造のように供するために酒母またはもろみを製造する場合など、除外事由もある(同第1号〜第3号)。

 酒母またはもろみの製造免許を受けずに酒母またはもろみを製造した者には刑事罰が科される(同第54条)。

 〔3〕酒類販売業免許

 酒類販売業、酒類販売代理業、酒類販売媒介業のいずれかを営もうとする者は、販売場ごとにその販売場の所在地(販売場を設けない場合には住所地)を所轄する税務署長の免許を受けなければならない。但し、酒類製造業者が製造場において酒類の販売業を営む場合、および「酒場、料理店その他酒類をもつぱら自己の営業場において飲用に供する業」については酒類販売業免許が不要である(同第9条第1項。同第2項および同第3項も参照)。

 なお、酒類販売業免許は大きく酒類小売業免許および酒類卸売業免許に大別され、さらに酒類小売業免許は3種類、酒類卸売業免許は8種類に分けられる〈富川・前掲書153頁〉

 酒類販売業免許を受けないで酒類を販売した者には刑事罰が科される(同第56条第1項第1号)。

 〔4〕上記各種免許の要件

 上記各種免許の申請者が酒税法第10条各号のいずれかに該当する場合には、税務署長は申請者に対して免許を与えないことができる。列挙事由をみると、酒税法の規定に違反したことによって免許等を「取り消され」てから一定の期間を経過していない者、滞納処分を受けてから一定の期間を経過していない者、一定の事由による刑の執行が終わってから一定の期間を経過していない者などが多いが、「正当な理由がないのに取締り上不適当と認められる場所に製造場又は販売場を設けようとする場合」(同第9号)、「酒類の製造免許又は酒類の販売業免許の申請者が破産手続開始の決定を受けて復権を得ていない場合その他その経営の基礎が薄弱であると認められる場合」(同第10号)、「酒税の保全上酒類の需給の均衡を維持する必要があるため酒類の製造免許又は酒類の販売業免許を与えることが適当でないと認められる場合」(同第11号)、「酒類の製造免許の申請者が酒類の製造について必要な技術的能力を備えていないと認められる場合又は製造場の設備が不十分と認められる場合」(同第12条)があげられている。

 この他、上記各種免許の「取消し」については同第12条ないし第14条を、製造場または販売場の移転の許可については同第16条を、製造業または販売業の廃止については同第17条を、販売場を設けていない酒類販売業者の住所の移転については同第18条を、酒類製造業または酒類販売業の相続については同第19条を参照していただきたい。

 〔5〕免許制度と憲法

 ●最一小判平成元年12月14日刑集43巻13号841頁(「どぶろく裁判上告審判決」)

 事案:千葉県の某町に居住するX(被告人)は、所轄税務署長から清酒製造免許を受けることなく、自宅で清酒を製造した。これが酒税法第7条に違反するとして、原料を収税官吏に差し押さえられた上、起訴された。Xは、酒類製造免許制度が酒の自己消費を規制するものであって憲法第13条に違反するなどと主張したが、千葉地判昭和61年3月26日判時1187号157頁はXを罰金刑に処す旨の判決を下し、東京高判昭和61年9月29日高刑集39巻4号357頁はXの控訴を棄却した。最高裁判所第一小法廷もXの上告を棄却した。

 判旨:酒税法第7条第1項および同第54条第1項は「自己消費を目的とする酒類製造であっても、これを放任するときは酒税収入の減少など酒税の徴収確保に支障を生じる事態が予想されるところから、国の重要な財政収入である酒税の徴収を確保するため、製造目的のいかんを問わず、酒類製造を一律に免許の対象とした上、免許を受けないで酒類を製造した者を処罰することとしたものであり」(最二小判昭和30年7月29日刑集9巻9号1972頁を参照)、「これにより自己消費目的の酒類製造の自由が制約されるとしても、そのような規制が立法府の裁量権を逸脱し、著しく不合理であることが明白であるとはいえず、憲法31条、13条に違反するものでない」(最大判昭和60年3月27日民集39巻2号247頁、最一小判昭和35年2月11日集刑132号219頁を参照)。

 ●最三小判平成4年12月15日民集46巻9号2829頁

 事案:東京都内のX株式会社は、昭和49年7月30日に所轄税務署長に対して酒類販売業免許の申請をしたが、所轄税務署長は昭和51年11月24日付で免許拒否処分を行った。これは、X株式会社が酒税法第10条第10号(「酒類の製造免許又は酒類の販売業免許の申請者が破産者で復権を得ていない場合その他その経営の基礎が薄弱であると認められる場合」)に該当することが理由とされたものである。X株式会社は免許拒否処分の取消を求めて出訴した。東京地判昭和54年4月12日税資105号46頁はX株式会社の請求を認容したが、東京高判昭和62年11月26日判時1259号30頁は所轄税務署長の控訴を容れてX株式会社の請求を棄却したため、X株式会社が上告した。最高裁判所第三小法廷は上告を棄却した。

 判旨:①「酒税が、沿革的に見て、国税全体に占める割合が高く、これを確実に徴収する必要性が高い税目であるとともに、酒類の販売代金に占める割合も高率であったことにかんがみると、酒税法が昭和13年法律第48号による改正により、酒税の適正かつ確実な賦課徴収を図るという国家の財政目的のために、このような制度を採用したことは、当初は、その必要性と合理性があったというべきであり、酒税の納税義務者とされた酒類製造者のため、酒類の販売代金の回収を確実にさせることによって消費者への酒税の負担の円滑な転嫁を実現する目的で、これを阻害するおそれのある酒類販売業者を免許制によって酒類の流通過程から排除することとしたのも、酒税の適正かつ確実な賦課徴収を図るという重要な公共の利益のために採られた合理的な措置であったということができる。その後の社会状況の変化と租税法体系の変遷に伴い、酒税の国税全体に占める割合等が相対的に低下するに至った本件処分当時の時点においてもなお、酒類販売業について免許制度を存置しておくことの必要性及び合理性については、議論の余地があることは否定できないとしても、前記のような酒税の賦課徴収に関する仕組みがいまだ合理性を失うに至っているとはいえないと考えられることに加えて、酒税は、本来、消費者にその負担が転嫁されるべき性質の税目であること、酒類の販売業免許制度によって規制されるのが、そもそも、致酔性を有する嗜好品である性質上、販売秩序維持等の観点からもその販売について何らかの規制が行われてもやむを得ないと考えられる商品である酒類の販売の自由にとどまることをも考慮すると、当時においてなお酒類販売業免許制度を存置すべきものとした立法府の判断が、前記のような政策的、技術的な裁量の範囲を逸脱するもので、著しく不合理であるとまでは断定し難い。」

 ②酒税法第10条第10号は「免許の申請者が破産者で復権を得ていない場合その他その経営の基礎が薄弱であると認められる場合に、酒類販売業の免許を与えないことができる旨を定めるものであって、酒類製造者において酒類販売代金の回収に困難を来すおそれがあると考えられる最も典型的な場合を規定したものということができ、右基準は、酒類の販売免許制度を採用した前記のような立法目的からして合理的なものということができる。また、同号の規定が不明確で行政庁のし意的判断を許すようなものであるとも認め難い。そうすると、酒税法9条、10条10号の規定が、立法府の裁量の範囲を逸脱するもので、著しく不合理であるということはできず、右規定が憲法22条1項に違反するものということはできない。」

 同旨の判決として、最一小判平成10年3月26日判時1639号36頁、最三小判平成14年6月4日判時1788号160頁などがある。

 

 5.酒税の課税標準および税率

 酒税の課税標準は、酒税法第22条第1項により、酒類の製造場から移出された、または保税地域から引き取られた酒類の数量であるとされる。但し、「粉末酒に係る数量の計算は、その重量を基礎として政令で定める方法により行う」(同第2項)。このことから、酒税は従量税である。

 そのため、税率も数量を単位として定められる。同第23条第1項は、酒類の種類に応じて1キロリットルあたりの税率を次のように定める。

 「一 発泡性酒類 22万円

 二 醸造酒類 14万円

 三 蒸留酒類 20万円(アルコール分が21度以上のものにあつては、20万円にアルコール分が20度を超える1度ごとに1万円を加えた金額)

 四 混成酒類 22万円(アルコール分が21度以上のものにあつては、22万円にアルコール分が20度を超える1度ごとに1万1円を加えた金額)」

 但し、同第2項は、発泡性酒類について次のように定める。

 「発泡性酒類のうち次の各号に掲げるものに係る酒税の税率は、前項の規定にかかわらず、1キロリットルにつき、当該各号に定める金額とする。

 一 発泡酒(原料中麦芽の重量が水以外の原料の重量の100分の50未満25以上のものでアルコール分が10度未満のものに限る。) 17万8千125円

 二 発泡酒(原料中麦芽の重量が水以外の原料の重量の100分の25未満のものでアルコール分が10度未満のものに限る。) 13万4千250円

 三 その他の発泡性酒類(ホップ又は財務省令で定める苦味料を原料の一部とした酒類で次に掲げるもの以外のものを除く。) 8万円

  イ 糖類、ホップ、水及び政令で定める物品を原料として発酵させたもの(エキス分が2度以上のものに限る。)

  ロ 発泡酒(政令で定めるものに限る。)にスピリッツ(政令で定めるものに限る。)を加えたもの(エキス分が2度以上のものに限る。)」

 また、同第3項は、醸造種類のうちの清酒は1キロリットルにつき12万円、果実酒は1キロリットルにつき8万円と定める。

 同第4項は、「蒸留酒類のうちウイスキー、ブランデー及びスピリッツであつてアルコール分が37度未満のものに係る酒税の税率は、第1項の規定にかかわらず、1キロリットルにつき37万円とする」と定める。

 そして、同第5項は、混成酒類のうちの合成清酒は1キロリットルにつき10万円、みりんおよび雑酒(みりんに類似するもの)は1キロリットルにつき2万円、甘味果実酒およびリキュールは1キロリットルにつき12万円(アルコール分が13度以上のものは12万円にアルコール分が12度を超える1度ごとに1万円を加えた額)、粉末酒が1キロリットルにつき39万円と定める。

 ●平成29年度税制改正による税率〈「平成29年度税制改正の大綱(平成28年12月22日閣議決定)」77頁以下による。〉

 ①発泡性酒類、醸造酒類および混成酒類の税率

種類

改正前

改正後

発泡性酒類

220,000 円/㎘

155,000 円/㎘

発泡酒(アルコール分)

(10 度未満)

( ― )

(麦芽比率25%以上50%未満)

178,125 円/㎘

(麦芽比率25%未満)

134,250 円/㎘

その他の発泡性酒類(アルコール分)

(10 度未満)

(11 度未満)

(ホップを原料の一部とした酒類で一定のもの)

80,000 円/㎘

(ホップ及び一定の苦味料を原料としない酒類)

80,000 円/㎘

100,000 円/㎘

醸造酒類

140,000 円/㎘

100,000 円/㎘

清酒

120,000 円/㎘

果実酒

80,000 円/㎘

混成酒類(アルコール分20 度)

220,000 円/㎘

200,000 円/㎘

[アルコール分1度当たりの加算額]

[11,000 円/㎘]

[10,000 円/㎘]

 発泡性酒類の税率改正 第1段階;2020年10月1日/第2段階;2023年10月1日/第3段階;2026年10月1日

 醸造種類の税率改正  第1段階;2020年10月1日/第2段階;2023年10月1日

 ②各段階ごとの税率の変更

種類

改正前

改正後

第1段階

第2段階

第3段階

発泡性酒類

220,000 円

200,000 円

181,000 円

155,000 円

発泡酒(アルコール分)

(10 度未満)

(10 度未満)

(10 度未満)

( ― )

(麦芽比率25%以上50%未満)

178,125 円

167,125 円

155,000 円

(麦芽比率25%未満)

134,250 円

134,250 円

134,250 円

(いわゆる「新ジャンル」)

134,250 円

その他の発泡性酒類

 

 

 

 

(アルコール分)

(10 度未満)

(10 度未満)

(10 度未満)

(11 度未満)

(いわゆる「新ジャンル」)

80,000 円

108,000 円

(ホップ及び一定の苦味料を原料としない酒類)

80,000 円

80,000 円

80,000 円

100,000 円

醸造酒類

140,000 円

120,000 円

100,000 円

100,000 円

清酒

120,000円

110,000円

果実酒

80,000円

90,000円

混成酒類

(アルコール分20度)

220,000円

200,000円

200,000円

200,000円

[アルコール分1度当たりの加算額]

[11,000円]

[10,000円]

[10,000円]

[10,000円]

 


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