ひろば 川崎高津公法研究室別室

川崎から、徒然なるままに。 行政法、租税法、財政法、政治、経済、鉄道などを論じ、ジャズ、クラシック、街歩きを愛する。

法律学の勉強の仕方(その5) 六法の話

2012年04月06日 08時56分27秒 | 法律学

 昨年の12月3日付で「法律学の勉強の仕方(その2) まずは条文を読む」という記事を掲載しました。今回は、その続編のような内容です。

 今年度も1年生の講義を担当します。教科書はもちろん、六法も持参するように言います。小テストでは、六法を持参していないと解けないような問題も出します。そうでなくとも、必ず六法を持参し、講義が始まる前に机の上に出し、開いておくくらいの心構えが必要です。

 さて、その六法ですが、元々、憲法、民法、刑法、商法、民事訴訟法、刑事訴訟法の六つが日本の法体系の基本であることから名づけられています。従って、一般的な六法であれば、必ずこの六つが掲載されています。

 そうは言っても、六法をどこで入手すればよいのかわからない、あるいは、どのような六法を入手すればよいのかわからない、という方もおられることでしょう。実際、六法が置かれていない、つまり売られていない書店も少なくありません。町の小さな書店では置かれていないことのほうが多いでしょう。大学生であれば、大学生協の書籍コーナーで購入すればよいということになりますが、法学部のない大学の生協には、もしかしたら置かれていないかもしれません。置かれているとしてもすぐに売り切れることも少なくないでしょう。生協のない大学などでは入手することが難しいかもしれません。

 大学生協や最寄の書店に置かれていない場合は、大きめの書店に行ってみてください。田園都市線を通勤路線として利用している私が例を示しますと、渋谷のジュンク堂、ブックファースト、紀伊国屋、二子玉川の文教堂、紀伊国屋、溝口の文教堂本店、たまプラーザの有隣堂、青葉台のブックファースト、そして半蔵門線神保町の三省堂書店、書泉グランデ、東京堂書店、といったところです。

 さて、こうした書店に行くと、今度は、六法と一口に言っても様々なタイプのものが売られていることに驚かされるかもしれません。小型のものもあれば大型のものもあり、特殊な分野の六法もあります。私も、そのようなものを何種類か持っていますが、学生の場合、特殊な分野を学んだりするのでない限り、必要はありません(但し、講義や演習を担当する教員の指示に従ってください)。

 まず、大学に入ったばかりの学生、つまり1年生の場合です。法学部であっても他の学部であっても同じことですので、注意して読んでください。

 大学によってカリキュラムが異なりますが、おそらく、どの大学であっても1年生で法学(これにも様々な名称があります)や憲法の講義はあるでしょう。法学部であれば民法総則や刑法総論の講義があるはずですし、教育学部であれば憲法の講義は必修となっているはずです。私が大分大学教育福祉科学部に勤務していた時には、1年生向けとして日本国憲法と法律学概論(社会科教員免許取得のための科目)、法学(社会福祉コースなどの科目)を担当しており、憲法は勿論、民法と刑法、場合によっては刑事訴訟法、内閣法、国会法などの参照も指示しておりました。おそらく、多少の違いはあれ、憲法、民法および刑法は、憲法や法学の講義で参照する必要が出てくるでしょう。

 そのために、1冊の六法が必要となります。1年生ですから、いきなり大型の六法(たとえば有斐閣から刊行されている『六法全書』)など使いこなすことなどできません。分厚くて重く、持ち歩けませんし、条文を探すのも一苦労です。どうかすると分冊になっているので面倒です。こういうものは勉学が進んでから選ぶものです。また、中型の六法(かつて有斐閣から刊行されていた『小六法』、現在刊行されている『判例六法Professinal』、三省堂から刊行されている『模範六法』、岩波書店の『岩波基本六法』)も、書籍としてはかなり分厚いものですから、或る程度は学習が進んだ人向けです。法学部で言えば3年生以上に向いています。従って1年生では無理です(但し、法科大学院の場合は別です。後に述べます)。

 以上から、1年生の場合は小型の六法ということになります。実はこのタイプでも様々なものが刊行されており、非常に薄いものもあれば横書きのものもあります。判例の要旨を示す六法(これを判例六法と言っています)もあれば解説が付されているものもあります。最近ではiPadやIPhoneなどで利用できるように電子データによる六法も発売されています。

 しかし、法律学を基礎から習得するという観点からすると、私を初めとして法学部の教員の多くは、有斐閣の『ポケット六法』、岩波書店の『セレクト六法』、三省堂の『デイリー六法』のいずれかを選ぶように指示するはずです。この三点の中のどれかを選んでいただきたいものです。書店で一読して(これは必要なことです)、読みやすい六法を選んでください。

 何故、この三点を推薦するかと言えば、長い間の実績や評価による部分もあります。しかし、それだけではありません。収録されている法律の数が、1年生や2年生の段階にとって適切であるというのが大きなところですが、その他にも理由はあります。

 まず、あまりに薄い六法では学習に支障を来します。憲法、民法、刑法を学習するとは言っても、講義では、先程も記したように国会法などの法律を参照することもあります。内閣法、国家公務員法、地方自治法、不動産登記法、軽犯罪法、刑事訴訟法、民事訴訟法、などです。薄いということは、収録されている法律の数が少ないということですから、肝心の条文を参照することができないということにもなりかねません。同じような理由で、あまりに小さなサイズの六法もお勧めできません。

 次に、横書きの六法もお勧めできません。最近では横書きの書籍も多いですし、パソコンなどでは横書き表示なので、そちらのほうが読みやすくなっていることは事実です。裁判所の判決ですら横書きになっています。しかし、講義の場では、六法は縦書きのものを選べと強調しています。

 そもそも、日本語は本来、縦書きの言語です。漢数字を使ってみればすぐにわかります。これを受けて、日本の法律は、正式な表記としては現在も縦書きであり、漢数字を使います。将来、法律も横書きになれば話は別ですが、縦書きが正式である以上、慣れていただかなくてはならないのです。1年生の段階から横書きの六法しか使っていないのでは、いつまでたっても正式な表記の条文を読めないということになりかねません。

 さて、前に示した三点は、いずれも判例六法ではなく、解説も付されていません。1年生の段階では、判例六法を選ばないように指導している教員も多いはずです。その理由の一つは法律の収録数にあります。判例の要旨や解説がついているということは、それだけ収録数が少なくなるということを意味します。もう一つの理由は、試験で六法の参照を可としている科目が多いことで、判例の要旨や解説がついていたのでは最初からカンニングを許しているようなものであるからです。さらに、もっと重要な理由をあげれば、法律学の学習の第一歩は条文を読むことであって、何が書かれているのかということを条文そのものから情報として得る能力を養わなければなりません。そのためには、始めに文理解釈が求められます。判例の要旨も解説も、解釈の一つにすぎません。他にも解釈があり得るから判例などがある訳です。素読には判例の要旨も解説も不要なのです。判例六法は非常に便利で、私も使っているのですが、これは学習が進み、或る程度は判例や学説のことがわかるようになる2年生以上になってからでよいでしょう。

 最後に、電子データによる六法は、1年生の段階では絶対に避けてください。法令を示すサイトの利用についても同様です。これについては、少し詳しく記すこととします。

 理由のその一は、電子データの場合、CDーROMであれサイトであれ、横書きであることです。先程記したように、日本の法令は縦書きを大原則としておりますので、横書きでは学習の意味が弱まります。

 その二は、内容が正確でない可能性が高いという点です。実は私自身も電子データを利用することがありまして、よく使うのはぎょうせいから刊行されている税務六法や自治六法のCD-ROM(データはPDF版です)、e-govの法令検索ですが、出版社から発行されるCD-ROMは信頼性が高いとしても、とくにサイトの場合は不正確なものが多く含まれているということです。この点については、e-govの法令検索サイトにも次のように記されています。

 「本システムで提供する法令データは、総務省行政管理局が官報を基に、施行期日を迎えた一部改正法令等を被改正法令へ溶け込ます等により整備を行い、データ内容の正確性については、万全を期しておりますが、官報で掲載された内容と異なる場合は、官報が優先します。

 総務省は、本システムの利用に伴って発生した不利益や問題について、何ら責任を負いません。」

 官庁のサイトは、比較的信頼性の高いものです。PDFファイルを活用することが多いためです。しかし、法令を所管する官庁のサイトですら官報優先ですから、その他のサイトについては推して知るべしです。実際、私的なサイトなどをみていると、スキャナで読み取ったものを使っているためか、誤記や誤表示が目立ちますし、改正に対応していないものもあります。校閲が徹底していないものは、利用しないほうがよいのです。あくまで、最近改正された法律の条文を確認する程度に留めておくのが無難でしょう。

 理由のその三は、クロスレファレンスなどのしにくさです。条文が多い、あるいは一つの条文が長いというような法律の場合、書物であればせいぜい頁をめくる程度で、一目で見ることができるのに対し、電子データの場合は、どのような機械を使うにせよ、スクロールなどをしなければなりません。これでは内容の理解に時間がかかります。また、同じ法律の他の条文を参照する場合は楽であるとしても、他の法律の条文を探すのには時間がかかります。多少の慣れは必要であるとしても書物の六法のほうが楽に素早く参照できます。

 理由の第四は、紙データのほうが電子データより目に優しいという点です。これは当然のことでしょう。また、充電する必要もなければ、スイッチを入れたりする必要もありません。一時期、電子メモ帳(たとえば、10年ほど前に大流行した、シャープのザウルス)がもてはやされ、あっという間に廃れましたが、私は便利というよりかなり不便であることがわかっていましたので、買ったことがありません。それで大正解でした。メモは紙のほうが楽で使い勝手がよいのです。

 理由の第五は、紙ならば書き込みが簡単にできるということです。逆に、電子データでは書き込みなどを楽に行うことができません。教員によって指示が異なるので何とも言えない部分もあるのですが、六法であれ教科書であれ、紙の冊子の場合であれば書き込みをしたり付箋を貼ったりして、自分だけのものにすることができます。これが重要なのです。私は、講義の際に、「ここは重要であるから、下線を引くなりマーカーで塗るなりしておきなさい」と言うことがあります。紙ならば簡単にできます。最近では消しゴムで消せるボールペンなども発売されていますし(私も愛用しています)、ただ電子データを見るより、教科書や六法を読んで下線を引いたり書き込みを加えたりするほうが、記憶に良いという訳です。こうしておくと、後で読み返す際にチェックをすることもできます。学習の際には手を動かすこと、字を記すことが大切なのです。

 以上は、主に学部の1年生を念頭に置いて記しました。法科大学院の学生の場合も、基本的な部分は同じです。但し、六法については若干異なります。私自身は大東文化大学の法務研究科の講義のみを担当しているので(しかも前期だけですので)、詳しいことはわかりませんが、大東の法科大学院の期末試験では司法試験六法が貸与されますし、講義でもその六法を参照することが多いでしょう。従って、司法試験六法を用意すれば十分です。但し、科目によっては税務六法など、特殊な分野の六法を参照する必要がありますので、講義担当者の指示に従ってください。

 講義時期の開始に合わせて、六法に関して長く記しました。参考になれば幸いです。


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