私が大東文化大学法学部で担当している「法学特殊講義2A(消費税)」の講義内容の一部を公開します。酒も立派な講義の対象物です。
1.酒税の概要
〈以下、説明の都合により、これまで講義で扱ってきた消費税については「消費税」と記す。〉
酒税は国税であり、間接税の一種である消費税(消費課税)のうちの間接消費税に属する。但し、名称が示すように個別消費税であり、この点において「消費税」および地方消費税と異なる。
課税の根拠となる法律は酒税法(昭和28年2月28日法律第6号)である。この法律も度々改正されているが、この講義の趣旨に従い、消費税法(昭和63年12月30日法律第108号)施行以後に限定して特に重要な改正について述べておく。
まず、消費税法の施行に伴う1989(平成元)年度税制改正である。消費税法の施行により、国税・地方税を問わず、物品税など多くの税目が廃止されたが、酒税、たばこ税などは残された。酒類やたばこには「消費税」も課されるため、二重課税ではないかという疑問が根強い。
また、1989年度税制改正における酒税法の改正の背景には、1986年7月に、酒税法に規定される税率の格差について当時のヨーロッパ共同体(EC)諸国から関税及び貿易に関する一般協定(GATT)第23条に基づく協議の要請がなされ、翌年11月10日採択のパネル報告でGATT第3条に違反すると判断された事実がある。そこで、従価税制度および級別制度の廃止など、大きな改正が行われた。但し、焼酎とその他の蒸留酒との税率の格差などの問題は残された。
従価税とは、消費税などのように課税物件の価額を課税標準とする租税をいう。
級別制度とは、清酒やウイスキーにおいて採用されていたもので、アルコール度数に応じて酒類を特級、一級などと分類し、その分類に応じた税率を設定するものである。
次に2006(平成18)年度税制改正である。改正前の酒類は10種類とされていたが、改正後は4種類にまとめられた。
そして2017(平成29)年度税制改正である。この改正においては、後に述べるように酒類間の税負担の公平という観点から税率が見直された。
ちなみに、2020(令和2)年度税制改正においては次のような趣旨の改正が行われた。
「酒類の製造免許に係る最低製造数量基準について、輸出するために清酒を製造しようとする者が清酒の製造免許を申請した場合には、最低製造数量基準(現行:60 ㎘)を適用しない。」〈「令和2年度税制改正の大綱(令和元年12月20日閣議決定)」(以下、令和2年度政府税制改正大綱)70頁。2021年4月1日以後の申請に係る免許につき適用される。〉
「酒類の製造免許等の承継制度について、酒類の製造免許等を承継することができる者の範囲に、事業譲渡によりその事業の全部を承継した者を加える。」〈令和2年度政府税制改正大綱70頁。2020年4月1日以後に行われる事業譲渡につき適用される。〉
「酒類の製造免許等の申請書について、住民票の写しの添付を不要とする。」〈令和2年度政府税制改正大綱70頁。2021年1月1日以後に提出される申請書につき適用される。〉
「酒類の品目等の表示義務について、一定の原料用アルコールについては、品目の表示を泡盛とすることを可能とする。」〈令和2年度政府税制改正大綱70頁。〉
〔1〕酒類の定義および種類
酒税法第1条は、酒税の課税物件が酒類であることを明定する。その上で、同第2条第1項は、酒類を「アルコール分1度以上の飲料(薄めてアルコール分1度以上の飲料とすることができるもの(アルコール分が90度以上のアルコールのうち、第7条第1項の規定による酒類の製造免許を受けた者が酒類の原料として当該製造免許を受けた製造場において製造するもの以外のものを除く。)又は溶解してアルコール分1度以上の飲料とすることができる粉末状のものを含む。)をいう」と定義する。この定義から、アルコール分が1%以上の飲料であれば酒類とされることがわかる。
但し、アルコール分が90%以上であるものは、酒類の原料として製造されるものを除き、酒税法ではなくアルコール事業法の適用対象となる。
また、同第2項は酒類を発泡性酒類、醸造酒類、蒸留酒類および混成酒類に分類する。
〔2〕四種の酒類
(1)発泡性酒類(酒税法第3条第3号)
発泡性酒類はビール(同イ)、発泡酒(同ロ)、その他の発泡性酒類(アルコール分が10度未満のもの。同ハ)とされる。
(2)醸造酒類(同第4号)
醸造酒類は、清酒(同イ)、果実酒(同ロ)、その他の醸造酒(同ハ)とされる。
(3)蒸留酒類(同第5号)
蒸留酒類は、連続式蒸留焼酎(同イ)、単式蒸留焼酎(同ロ)、ウイスキー(同ハ)、ブランデー(同ニ)、原料用アルコール(同ホ)、スピリッツ(同ヘ)とされる。
(4)混成酒類(同第6号)
混成酒類は、合成清酒(同イ)、みりん(同ロ)、甘味果実酒(同ハ)、リキュール(同ニ)、粉末酒(同ホ)、雑種(同ヘ)とされる。
〔3〕それぞれの品目の定義
酒税法第3条第7号以下において定義されている(第27号は便宜上取り上げている)。
清酒(第7号):「次に掲げる酒類でアルコール分が22度未満のものをいう。
イ 米、米こうじ及び水を原料として発酵させて、こしたもの
ロ 米、米こうじ、水及び清酒かすその他政令で定める物品を原料として発酵させて、こしたもの(その原料中当該政令で定める物品の重量の合計が米(こうじ米を含む。)の重量の100分の50を超えないものに限る。)
ハ 清酒に清酒かすを加えて、こしたもの」
合成清酒(第8号):「アルコール(次号の規定(アルコール分に関する規定を除く。)に該当する酒類(水以外の物品を加えたものを除く。)でアルコール分が36度以上45度以下のものを含む。第15号ハ及び第16号ロ並びに第8条第3号を除き、以下同じ。)、焼酎(連続式蒸留焼酎又は単式蒸留焼酎をいい、水以外の物品を加えたものを除く。第11号において同じ。)又は清酒とぶどう糖その他政令で定める物品を原料として製造した酒類(当該酒類の原料として米又は米を原料の全部若しくは一部として製造した物品を使用したものについては、米(米を原料の全部又は一部として製造した物品の原料となつた米を含む。)の重量の合計が、アルコール分20度に換算した場合の当該酒類の重量の100分の5を超えないものに限る。)で、その香味、色沢その他の性状が清酒に類似するもの(アルコール分が16度未満でエキス分が5度以上であることその他の政令で定める要件を満たすものに限る。)をいう。」
連続式蒸留焼酎(第9号):「アルコール含有物を連続式蒸留機(連続して供給されるアルコール含有物を蒸留しつつ、フーゼル油、アルデヒドその他の不純物を取り除くことができる蒸留機をいう。次号イ及び第43条第6項において同じ。)により蒸留した酒類(これに水を加えたもの及び政令で定めるところにより砂糖(政令で定めるものに限る。)その他の政令で定める物品を加えたもの(エキス分が2度未満のものに限る。)を含み、次に掲げるものを除く。)で、アルコール分が36度未満のものをいう。
イ 発芽させた穀類又は果実(果実を乾燥させ若しくは煮つめたもの又は濃縮させた果汁を含み、なつめやしの実その他政令で定めるものを除く。以下この条において同じ。)を原料の全部又は一部としたもの 〈製法によってウイスキー、スピリッツ、ブランデーのいずれかに分類される。〉
ロ しらかばの炭その他政令で定めるものでこしたもの 〈スピリッツに分類されるウォッカ〉
ハ 含糖質物(政令で定める砂糖を除く。)を原料の全部又は一部としたもので、そのアルコール含有物の蒸留の際の留出時のアルコール分が95度未満のもの 〈スピリッツに分類されるラム酒やテキーラが該当する。〉
ニ アルコール含有物を蒸留する際、発生するアルコールに他の物品の成分を浸出させたもの 〈スピリッツに分類されるジン〉」
単式蒸留焼酎(第10号):「次に掲げる酒類(これらに水を加えたものを含み、前号イからニまでに掲げるものに該当するものを除く。)でアルコール分が45度以下のものをいう。
イ 穀類又は芋類、これらのこうじ及び水を原料として発酵させたアルコール含有物を連続式蒸留機以外の蒸留機(以下この号及び第43条第7項において「単式蒸留機」という。)により蒸留したもの 〈芋焼酎、麦焼酎、米焼酎。〉
ロ 穀類のこうじ及び水を原料として発酵させたアルコール含有物を単式蒸留機により蒸留したもの 〈泡盛〉
ハ 清酒かす及び水若しくは清酒かす、米、米こうじ及び水を原料として発酵させたアルコール含有物又は清酒かすを単式蒸留機により蒸留したもの
ニ 砂糖(政令で定めるものに限る。)、米こうじ及び水を原料として発酵させたアルコール含有物を単式蒸留機により蒸留したもの 〈黒糖焼酎〉
ホ 穀類又は芋類、これらのこうじ、水及び政令で定める物品を原料として発酵させたアルコール含有物を単式蒸留機により蒸留したもの(その原料中当該政令で定める物品の重量の合計が穀類又は芋類(これらのこうじを含む。)の重量を超えないものに限る。) 〈ごま焼酎、しそ焼酎。〉
ヘ イからホまでに掲げる酒類以外の酒類でアルコール含有物を単式蒸留機により蒸留したもの(これに政令で定めるところにより砂糖(政令で定めるものに限る。)その他の政令で定める物品を加えたもの(エキス分が2度未満のものに限る。)を含む。)」
みりん(第11号):「次に掲げる酒類でアルコール分が15度未満のもの(エキス分が40度以上であることその他の政令で定める要件を満たすものに限る。)をいう。
イ 米及び米こうじに焼酎又はアルコールを加えて、こしたもの
ロ 米、米こうじ及び焼酎又はアルコールにみりんその他政令で定める物品を加えて、こしたもの
ハ みりんに焼酎又はアルコールを加えたもの
ニ みりんにみりんかすを加えて、こしたもの」
ビール(第12号):「次に掲げる酒類でアルコール分が20度未満のものをいう。
イ 麦芽、ホップ及び水を原料として発酵させたもの
ロ 麦芽、ホップ、水及び麦その他の政令で定める物品を原料として発酵させたもの(その原料中麦芽の重量がホップ及び水以外の原料の重量の合計の100分の50以上のものであり、かつ、その原料中政令で定める物品の重量の合計が麦芽の重量の100分の5を超えないものに限る。)
ハ イ又はロに掲げる酒類にホップ又は政令で定める物品を加えて発酵させたもの(その原料中麦芽の重量がホップ及び水以外の原料の重量の合計の100分の50以上のものであり、かつ、その原料中政令で定める物品の重量の合計が麦芽の重量の100分の5を超えないものに限る。)」
果実酒(第13号):「次に掲げる酒類でアルコール分が20度未満のもの(ロからニまでに掲げるものについては、アルコール分が15度以上のものその他政令で定めるものを除く。)をいう。
イ 果実又は果実及び水を原料として発酵させたもの 〈ワイン〉
ロ 果実又は果実及び水に糖類(政令で定めるものに限る。ハ及びニにおいて同じ。)を加えて発酵させたもの
ハ イ又はロに掲げる酒類に糖類を加えて発酵させたもの
ニ イからハまでに掲げる酒類にブランデー、アルコール若しくは政令で定めるスピリッツ(以下この号並びに次号ハ及びニにおいて「ブランデー等」という。)又は糖類、香味料若しくは水を加えたもの(ブランデー等を加えたものについては、当該ブランデー等のアルコール分の総量(既に加えたブランデー等があるときは、そのブランデー等のアルコール分の総量を加えた数量。同号ハにおいて同じ。)が当該ブランデー等を加えた後の酒類のアルコール分の総量の100分の10を超えないものに限る。)
ホ イからニまでに掲げる酒類に政令で定める植物を浸してその成分を浸出させたもの」
甘味果実酒(第14号):「次に掲げる酒類で果実酒以外のものをいう。 〈ベルモット、ポートワイン、シェリー酒など。〉
イ 果実又は果実及び水に糖類を加えて発酵させたもの
ロ 前号イ若しくはロに掲げる酒類又はイに掲げる酒類に糖類を加えて発酵させたもの
ハ 前号イからハまでに掲げる酒類又はイ若しくはロに掲げる酒類にブランデー等又は糖類、香味料、色素若しくは水を加えたもの(ブランデー等を加えたものについては、当該ブランデー等のアルコール分の総量が当該ブランデー等を加えた後の酒類のアルコール分の総量の100分の90を超えないものに限る。ニにおいて同じ。)
ニ 果実酒又はイからハまでに掲げる酒類に植物を浸してその成分を浸出させたもの若しくは薬剤を加えたもの又はこれらの酒類にブランデー等、糖類、香味料、色素若しくは水を加えたもの」
ウイスキー(第15号):「次に掲げる酒類(イ又はロに掲げるものについては、第9号ロからニまでに掲げるものに該当するものを除く。)をいう。
イ 発芽させた穀類及び水を原料として糖化させて、発酵させたアルコール含有物を蒸留したもの(当該アルコール含有物の蒸留の際の留出時のアルコール分が95度未満のものに限る。) 〈モルトウイスキー〉
ロ 発芽させた穀類及び水によつて穀類を糖化させて、発酵させたアルコール含有物を蒸留したもの(当該アルコール含有物の蒸留の際の留出時のアルコール分が95度未満のものに限る。) 〈グレーンウイスキー〉
ハ イ又はロに掲げる酒類にアルコール、スピリッツ、香味料、色素又は水を加えたもの(イ又はロに掲げる酒類のアルコール分の総量がアルコール、スピリッツ又は香味料を加えた後の酒類のアルコール分の総量の100分の10以上のものに限る。)」
ブランデー(第16号):「次に掲げる酒類(イに掲げるものについては、第9号ロからニまでに掲げるものに該当するものを除く。)をいう。
イ 果実若しくは果実及び水を原料として発酵させたアルコール含有物又は果実酒(果実酒かすを含む。)を蒸留したもの(当該アルコール含有物又は果実酒の蒸留の際の留出時のアルコール分が95度未満のものに限る。)
ロ イに掲げる酒類にアルコール、スピリッツ、香味料、色素又は水を加えたもの(イに掲げる酒類のアルコール分の総量がアルコール、スピリッツ又は香味料を加えた後の酒類のアルコール分の総量の100分の10以上のものに限る。)」
原料用アルコール(第17号):「第9号又は第10号の規定(アルコール分に関する規定を除く。)に該当する酒類(水以外の物品を加えたものを除く。)でアルコール分が45度を超えるものをいう。」
発泡酒(第18号。2023年9月30日までの定義):「麦芽又は麦を原料の一部とした酒類(第7号から前号までに掲げる酒類及び麦芽又は麦を原料の一部としたアルコール含有物を蒸留したものを原料の一部としたものを除く。)で発泡性を有するもの(アルコール分が20度未満のものに限る。)をいう。」
〈製法はビールと同様であるが、麦芽の重量の比率が50%未満であるか、果実や香味料の使用量が麦芽の重量の5%を超えると発泡酒となる。輸入品の「ビール」の中には、日本の酒税法に照らせば発泡酒として扱われるものも少なくない(とくにベルギーから輸入された「ビール」に多い)。〉
発泡酒(第18号。2023年10月1日からの定義):「次に掲げる酒類(第7号から前号までに掲げる酒類を除く。)で発泡性を有するもの(アルコール分が20度未満のものに限る。)をいう。
イ 麦芽又は麦を原料の一部とした酒類(麦芽又は麦を原料の一部としたアルコール含有物を蒸留したものを原料の一部としたものを除く。)
ロ イに掲げる酒類以外の酒類で、ホップ又は財務省令で定める苦味料を原料の一部としたもの
ハ イ又はロに掲げる酒類以外の酒類で、香味、色沢その他の性状がビールに類似するものとして政令で定めるもの」
【★イは従来通りであり、ロとハが新たに加えられた。これにより、「新ジャンル」は、2023年9月30日まではその他の醸造酒またはリキュールとして扱われるが、2023年10月1日からは発泡酒として扱われることとなる。】
その他の醸造酒(第19号):「穀類、糖類その他の物品を原料として発酵させた酒類(第7号から前号までに掲げる酒類その他政令で定めるものを除く。)でアルコール分が20度未満のもの(エキス分が2度以上のものに限る。)をいう。」 〈どぶろく、マッコリなど。〉
スピリッツ(第20号)「第7号から前号までに掲げる酒類以外の酒類でエキス分が2度未満のものをいう。」
リキュール(第21号):「酒類と糖類その他の物品(酒類を含む。)を原料とした酒類でエキス分が2度以上のもの(第7号から第19号までに掲げる酒類、前条第1項に規定する溶解してアルコール分1度以上の飲料とすることができる粉末状のもの及びその性状がみりんに類似する酒類として政令で定めるものを除く。)をいう。」 〈梅酒はリキュールに分類される。〉
粉末酒(第22号):「前条第1項に規定する溶解してアルコール分1度以上の飲料とすることができる粉末状の酒類をいう。」
雑酒(第23号):「第7号から前号までに掲げる酒類以外の酒類をいう。」
酒母(第24号):「酵母で含糖質物を発酵させることができるもの及び酵母を培養したもので含糖質物を発酵させることができるもの並びにこれらにこうじを混和したもの(製薬用、製パン用、しようゆ製造用その他酒税の保全上支障がないものとして財務省令で定める用途に供せられるものを除く。)をいう。」
もろみ(第25号):「酒類の原料となる物品に発酵させる手段を講じたもの(酒類の製造の用に供することができるものに限る。)で、こし又は蒸留する前のもの(こさない又は蒸留しない酒類に係るものについては、主発酵が終わる前のもの)をいう。」
こうじ(第26号):「でん粉質物その他政令で定める物品にかび類を繁殖させたもの(当該繁殖させたものから分離させた胞子又は浸出させた酵素を含む。)で、でん粉質物を糖化させることができるものをいう。」
保税地域(第27号):「関税法(昭和29年法律第61号)第29条(保税地域の種類)に規定する保税地域をいう。」
3.酒税の納税義務者
酒税の納税義務者は、国内で製造された酒類、輸入酒類のいずれに該当するかに応じて異なる。
国内で製造された酒類については、酒類の製造者が納税義務者である。納税義務の成立時期は、製造者が酒類を製造場から「移出」した時点である(酒税法第6条第1項、国税通則法第15条第2項第7号)。「移出」は、酒類を流通過程に置くために製造場から他の場所へ移すことを意味するので、売買、贈与、交換、占有移転などの別を問わない〈判例とともに、金子宏『租税法』〔第二十三版〕(2019年、弘文堂)830頁を参照〉。
一方、国外で製造された輸入酒類については、酒類引取者(酒類を保税地域から引き取る者)が納税義務者である。納税義務の成立時期は、保税地域から引き取る時点である(酒税法第6条第2項、国税通則法第15条第2項第7号)。
この他、酒税の納税義務については、注意しなければならない規定が存在する。
まず、酒税法第6条の3第1項は、酒類等の移出が行われたものとみなす場合を定める。例えば、酒類が製造場において引用されたとき(同第1号)、酒類等製造免許が取り消された場合などにおいて酒類が製造場に現存するとき(同第2号。同第3号も参照)、酒類が滞納処分や強制執行などの手続により換価されたとき(同第4号)である(以上については同第4項も参照)。また、同第3項は「酒類等が保税地域において飲用される場合には、その飲用者が飲用の時に当該酒類等をその保税地域から引き取るものとみなす」と定める。
次に、同第6条の4は収去酒類について非課税とする旨を定める。
そして、最も注意しなければならない規定ともいえるのが、次に示す同第43条である。
「(みなし製造)
第43条 酒類に水以外の物品(当該酒類と同一の品目の酒類を除く。)を混和した場合において、混和後のものが酒類であるときは、新たに酒類を製造したものとみなす。ただし、次に掲げる場合については、この限りでない。
一 清酒の製造免許を受けた者が、政令で定めるところにより、清酒にアルコールその他政令で定める物品を加えたとき。
二 清酒又は合成清酒の製造免許を受けた者が、当該製造場において清酒と合成清酒とを混和したとき。
三 連続式蒸留焼酎と単式蒸留焼酎との混和をしたとき。
四 ウイスキーとブランデーとの混和をしたとき。
五 酒類製造者が、政令で定めるところにより、その製造免許を受けた品目の酒類(政令で定める品目の酒類に限る。)と糖類その他の政令で定める物品との混和をしたとき(前各号に該当する場合を除く。)。
六 政令で定める手続により、所轄税務署長の承認を受け、酒類の保存のため、酒類にアルコールその他政令で定める物品を混和したとき(前各号に該当する場合を除く。)。
2 前項の場合において、酒類に炭酸ガス(炭酸水を含む。)の混和をした酒類の品目は、この法律で別に定める場合を除き、当該混和前の酒類の品目とする。
3 第1項第1号の規定の適用を受けて、清酒にアルコールその他の物品を加えた酒類は、清酒とみなす。
4 第1項第6号の規定の適用を受けて、酒類にアルコールその他の物品の混和をした酒類は、当該混和前の品目の酒類とみなす。
5 第1項の規定にかかわらず、酒類の製造場以外の場所で酒類と水との混和をしたとき(政令で定める場合を除く。)は、新たに酒類を製造したものとみなす。この場合において、当該混和後の酒類の品目は、この法律で別に定める場合を除き、当該混和前の酒類の品目とする。
6 連続式蒸留機によつて蒸留された原料用アルコールと連続式蒸留焼酎との混和をしてアルコール分が36度未満の酒類としたときは、新たに連続式蒸留焼酎を製造したものとみなす。
7 単式蒸留機によつて蒸留された原料用アルコールと単式蒸留焼酎との混和をしてアルコール分が45度以下の酒類としたときは、新たに単式蒸留焼酎を製造したものとみなす。
8 第1項、第2項及び第5項の規定にかかわらず、リキュールと水又は炭酸水との混和をしてエキス分2度未満の酒類としたときは、新たにスピリッツを製造したものとみなす。
9 前各項に規定する場合を除くほか、酒類と他の物品(酒類を含む。)との混和に関し、必要な事項は、政令で定める。
10 前各項の規定は、消費の直前において酒類と他の物品(酒類を含む。)との混和をする場合で政令で定めるときについては、適用しない。
11 前各項の規定は、政令で定めるところにより、酒類の消費者が自ら消費するため酒類と他の物品(酒類を除く。)との混和をする場合(前項の規定に該当する場合を除く。)については、適用しない。
12 前項の規定の適用を受けた酒類は、販売してはならない。」
例えば、自宅で梅酒を作るとする。梅酒は焼酎に梅などを混和して作るものであるから、焼酎からリキュールに変わることとなり、「新たに酒類を製造した」とみなされることとなるはずであるが、同第11項および酒税法施行令第50条第14項により、自宅で梅酒を作る場合には「新たに酒類を製造した」とみなされない。但し、あくまでも自家消費に留まらなければならず、他人に販売してはならない(酒税法第43条第12項、同第56条第1項第4号)。同様のことは料理店などの経営者が営業場において提供する梅酒についても妥当する(同第10項、租税特別措置法第87条の8)。
次に、自宅でハイボールを作るとする。ハイボールはウイスキーに炭酸水を混和して作るものであるから、酒税法第43条第2項によってウイスキーとして扱われることとなるが、「新たに酒類を製造した」とみなされることとなるはずである。しかし、この場合も同第11項によって「新たに酒類を製造した」とみなされない。自家消費に留まらなければならないことは梅酒の場合と同様である。また、カクテルの種類によっては酒税法第43条および酒税法施行令第50条第14項に違反するおそれもあるので、注意されたい。自家消費であるから何でもよいという訳ではないのである。
一方、ショットバーで提供されるハイボールを店員が作り、客に提供した場合は、酒税法第43条第10項および酒税法施行令第50条第13項が適用されるため、「新たに酒類を製造した」とみなされない。カクテルについても同様である。但し、あくまでも「酒場、料理店その他酒類を専ら自己の営業場において飲用に供することを業とする者がその営業場において消費者の求めに応じ、又は酒類の消費者が自ら消費するため、当該混和をするとき」に限られる。
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