1990年代の前半のこと、学部生か院生であった頃のことと記憶しています。六本木WAVEの4階の南側にあったジャズのコーナーで、チコ・ハミルトン・クインテットの「ゴングズ・イースト!」のLPを見ました。当時もドルフィーの音楽を聴いていた私は、買おうかと思ったのですが、見送ったのでした。翌月に再びWAVEに行ったら、もう売り切れていました。
それから20年ほど経ち、ようやく、CDで入手しました。
ドルフィーがフルート、バス・クラリネット、アルト・サックスを演奏しているのは、このチコ・ハミルトンのバンドにいた頃からです。ピアノがなく、ギターとチェロが入っていることに注目していました。さらにギターを抜けばドルフィーの「アウト・ゼア(Out There)」になるのです。もっとも、後のドルフィーのアルバムとは似ても似つかないサウンドです。
あの有名な映画「真夏の夜のジャズ」にも登場し、「ブルー・サンド」という曲を演奏していることを思い出される方もいらっしゃるでしょう。今でこそYouTubeでドルフィーの演奏シーンを動画で見ることも簡単にできますが、それでもチコ・ハミルトン・クインテットのドルフィーの演奏シーンは、映画以外では難しいでしょう。この「ブルー・サンド」は「ゴングズ・イースト」に収録されていません。
アメリカ西海岸のジャズに詳しい訳ではなく、それほど持ってもいないのですが、「ゴングズ・イースト」はかなり独特な、不思議なジャズです。岡崎正道氏のライナー・ノーツにも「室内楽的ともいえる編成の面白さ」と書かれているように、ジャズでありながらジャズとは違う音楽の雰囲気を漂わせています。おそらく、チェロの存在が大きいのでしょう。ドルフィーの演奏も、全般的に保守的と言ってよいもので、後のソロ・アルバムで聴かれる、馬の嘶きにもたとえられたソロは聴かれません。
また、このアルバムではフルートの演奏が多いのですが、それが一番合っていると感じられます。後の、遺作と言ってもよい「ラスト・デイト(Last Date)」で聴かれる名演奏の片鱗がわずかに見られる程度ですが、オブリガードの美しさは一貫していたようです。
チコ・ハミルトンのアルバムでありながらドルフィーのことばかり書いてきましたが、ドルフィーの死までの過程を見るためには必聴のアルバムと言えます。
なお、チコ・ハミルトンは1921年生まれですから既に92歳になっていますが、まだ現役です。