日本にいて、日本の状況だけを見ているとわからない、あるいは気付かないことですが、実のところ、日本の鉄道は世界的に見るとかなり特殊です。その一つが、機関車が牽引する客車列車が非常に少なく、しかもますます少なくなっていることです(他に、JRでターミナル方式の駅が少ないこと、乗り越し精算ができることなどもあります)。
たとえば、ヨーロッパに行くと、長距離列車の多くは機関車が牽引する客車列車です。私も、ミュンヘン中央駅などで何度も見かけました。また、ドイツのICEのうち、初期のものが典型的ですが、先頭と末尾に機関車を配置し、中間に客車を連結するプッシュプル方式が採用されることも多いのです。あるいは、ペンテルツークという、最後尾の客車に運転席を設けて機関車を遠隔操作するという方法も採られます(日本では嵯峨野観光鉄道や大井川鉄道井川線で見られますが、他に例があるのかどうかは知りません)。勿論、ヨーロッパ諸国などでも日本と同様の電車は多く走っていますし、地下鉄や路面電車で機関車が牽引する客車列車というのはほとんど存在していません。それにしても、日本の客車列車の少なさが目立つのです。
こんなことを記すのは、昨日(2023年1月22日)付の朝日新聞夕刊7面4版に「機関車『鉄路の主役』降りる時 複雑な操縦・整備ネック 世代交代」という記事が掲載されており、それを読んだからです。
私が小学生であった1970年代の後半、当時は国鉄の路線であった南武線には石灰石輸送や石油輸送の貨物列車がよく走っていました。当時で既に古豪であった電気機関車、ED16が貨車を牽引し、最後尾には車掌車が連結されていました。1980年代のいつからか、電気機関車はEF64に変わり、車掌車は省略されましたが、貨物列車がよく通っていたのです。ちなみに、川崎市には武蔵野線も通っており、宮前区には梶ヶ谷貨物ターミナルがあります。同線の鶴見駅から府中本町駅までの区間は貨物輸送専用といってよいところです。
しかし、客車列車は非効率です。プッシュプル方式を採用するのでなければ、終点に到着して進行方向を変える際に機関車を付け替えなければなりません。尾久車両センターから上野駅までの推進運転という有名な例外もありますが、これは上野駅に機回し線がないからで、通常の列車よりもだいぶ速度を落として運転していたそうです。東京駅には機回し線があり、私も小学生時代に寝台特急の機関車付け替えを何度か見ていましたが、相当に時間と手間のかかる作業であるということはよくわかりました。
上記朝日新聞社記事は、「寝台特急『ブルートレイン(ブルトレ)』をはじめ、かつて多くの客車を引っ張って全国を駆け回った機関車が次々と姿を消している。最多両数を抱えるJR東日本も、操縦や整備方法が電車と変わらない新型車両への世代交代を急いでいる」という文章で始まります。
この記事に登場する電気機関車、EF65、EF81のいずれも、国鉄時代に登場したものであり、製造から相当の年月が経っています。どちらも寝台特急の客車を牽引しましたが、現在は貨物列車か入れ替え作業のための機関車となっています。しかし、貨物運送用であれば、既にEF210、EH200などの電気機関車、DF200などのディーゼル機関車が登場しています(そのほとんどはJR貨物が保有しているはずです)。
国鉄の分割民営化に伴い、電気機関車やディーゼル機関車はJRグループ各社に引き継がれました。やはり上記記事に書かれているところを引用すると、「鉄道博物館(さいたま市)によると、JR旅客6社は国鉄から電気440両、ディーゼル703両、蒸気(SL)6両の計1149両の機関車を引き継いだ。だが、電車や気動車への置き換えが進み、機関車が客車を牽引する定期列車は2016年にJR線から消滅。根強い人気を持つSLを除き、今や残るのは計約120両で、JR東海は10年に、JR四国は昨年9月に全廃に踏みきった」とのことです。
その大きな理由が、運転方法の違いです。電気機関車、ディーゼル機関車のいずれも、基本的にブレーキが2つあります。機関車単独のブレーキと、牽引する客車または貨車を含めた編成全体のブレーキです。また、主幹制御器(マスターコントローラー、略してマスコン)とブレーキ弁が別々になっているものが圧倒的に多く、最近の電車や気動車で多く採用されているワンハンドルマスコンは、電気機関車やディーゼル機関車ではほとんど採用されていないはずです。
〔なお、「動力車操縦者運転免許に関する省令」(昭和31年運輸省令第43号)第4条第1項および別表第一には運転免許の種類と操縦できる動力車の種類が定められており、それを見る限りでは「甲種電気車運転免許」を保持していれば「鉄道事業(新幹線鉄道及び磁気誘導式鉄道を除く。)及び軌道事業(軌道運転規則第3条第1項の規定の適用を受けるものに限る。)の用に供する電気車」を操縦できることとなっており、同第2条によれば「電気車」は「電気機関車、電車、蓄電池機関車及び蓄電池電車をいう。」とされています(ディーゼル機関車や気動車は「内燃車」のために全く別の免許になります。ちなみに、新幹線も全く別の免許です)。省令だけを見ると電気機関車も電車も同じ免許の保持で操縦できることになります。しかし、実際には操縦方法が違いますし、機関車の場合には何両もの客車や貨車を牽引する訳ですから、加減速の操作方法などが異なるはずです。〕
機関車を減らしている以上、機関車と同じ役割を電車や気動車に担わせようとするのは自然な流れです。また、操縦方法などが異なるというのは、メンテナンスなどの面においても合理的・効率的であるとは言えません。そこで、ということなのでしょう。事業用車という、営業用でない車両がクローズアップされてきます。事業用車自体は国鉄時代からありますが、上記朝日新聞社記事に取り上げられているのがE493系です。2021年に登場しており、入れ替え作業用として、また配給列車として使用されることとなっているようです。おそらく、JR東日本の多くの電車と同じタイプのワンハンドルマスコンが採用されているようなので、合理化・効率化は進むでしょう。上記朝日新聞記事には「JR東は国鉄から計467両の電気、ディーゼル機関車を引き継いだが、現在残るのは電気25両、ディーゼル26両のみ。これらもE493系などへの置き換えが進められ、同社は『機関車でなければできない作業は、もう存在しない』と話す」と書かれています。
勿論、JR貨物が多くの電気機関車やディーゼル機関車を保有しており、今後もこうした機関車が残り、更新されていくことでしょう。ただ、JR貨物にもM250系という貨物電車があります(電車と言ってもプッシュプル方式の電気機関車+貨車のような編成らしいのですが)。この電車は直流区間のみを走行できるものなので、交流区間には入れませんし、勿論非電化区間にも入れません。しかし、貨物の内容にもよりますが列車のスピードアップには貢献するでしょうから、場合によっては貨物電車や貨物気動車が増えるかもしれません。
ただ、機関車牽引列車にもよいところはいくつもあると思われます。その一つが編成の自由度でしょう。
また、貨物列車であると、電気機関車やディーゼル機関車の力を強く感じることができますね。
その感じがなんとも好きです。