ひろば 川崎高津公法研究室別室

川崎から、徒然なるままに。 行政法、租税法、財政法、政治、経済、鉄道などを論じ、ジャズ、クラシック、街歩きを愛する。

錦川鉄道錦川清流線の存廃論議はどうなるか

2024年12月06日 20時30分00秒 | 社会・経済

 1980年代の国鉄改革で特定地方交通線が指定され、廃止が議論されました。この時は、住民などの意見に流されず、比較的に徹底して廃止が行われました。ただ、少し甘いとも考えられました。第三セクター化による存続の方法が残されていた上に、除外要件もあったからです。俎上に上がった路線の全てを完全に廃止していれば、現在も再び存廃論議になることはなかったでしょう。もとより、日本全体で人口が減少しているので他の鉄道路線の多くについても存廃論議の対象になったでしょうが、今ほど少なくはなかったはずです。

 このブログで錦川鉄道錦川清流線の話題を取り上げたのは、2023年9月9日7時0分0秒のことです。それから1年以上が経過し、2024年11月29日10時30分付でに朝日新聞社が「岩国・三セク錦川鉄道の清流線 存廃どうなる 沿線住民は『存続を』」(https://digital.asahi.com/articles/ASSCX3R1XSCXTZNB019M.html)として報じていました。月が変わってから気付きました。

 さて、2023年9月の時点においては、錦川鉄道錦川清流線の存廃を2024年度中に岩国市長が決定する旨が報じられていましたが、1年延びたのでしょうか。上記朝日新聞社記事によると、2024年度末に報告書がまとまり、2025年度に結論を出すとのことです。

 岩国市は、2023年5月から錦川鉄道錦川清流線の在り方を見直すことにして検討プロジェクトチームを設置しました(副市長がトップに立っているとのことです)。また、有識者会議も設置しており、2024年11月14日の有識者会議(第3回)において市が具体案を示したのでした。

 その具体案は、一部を上記朝日新聞社記事の表現を借りるならば、①現状維持、②「鉄道の運行・管理方法を見直して全線を存続させる」、③「路線の一部をバスに代替させて存続させる」、④完全バス路線化です。

 岩国市は、廃線ありきではないという立場を採ると言っていますが、これは表面的な態度なのでしょうか。錦川鉄道の経営状況も悪いでしょうし、岩国市の財政状況も悪いはずで、第三セクターが地方公共団体の懐に悪影響を及ぼしかねないことは、いくつかの住民訴訟が提起されたことからしても明らかです。1988年度の輸送人員が584,170人であったのに対し、2023年度の輸送人員は130,643人でした。つまり、2023年度の輸送人員は1988年の輸送人員の約22.4%でしかないということです。過疎化、少子化、自家用車社会化という御馴染みのセットで、一度も黒字になったことがなく、鉄道経営対策事業基金の取り崩しで何とか維持されているという状況ですが、その基金の残高も錦川鉄道設立時には6億6190万円であったのが、2023年度には3378万9千円にまで減りました。つまり、2023年度の残高は当初残高の5.1%にまで減った訳です。赤字額も2017年度に1億円を超えており、さらに岩国市が過疎債を起債しています。これでは廃止が検討されてもおかしくありません。

 上記朝日新聞社記事には、住民アンケートのことが書かれています。中学生以上4500人を対象としており、回答は2086人、率は46.4%でした。

 このような記事を読む度に思うのですが、住民アンケートにどの程度の意味があるのでしょうか。むしろ有害にしか思えません。

 理由は簡単です。存続を求めることが多数となるからです。また、設問の仕方によって回答は変わりうるものですし、回答者の住所などにも左右されます。例えば駅から半径500メートル以内に住む人と、半径3キロメートル超に住む人とでは、利用の頻度なども変わってきます。

 アンケートで存続を求める意見が多かったとしても、実際に利用する人が一定の水準を超えなければ、存続する意味はありません。

 よくあることで、私が最も憤りを感じるのが、次のような住民の意見あるいは態度です。

 自分は乗らない(利用しない)けれど、鉄道路線は必要である。

 無責任以外の何物でもありません。自分にとって要らないのであれば、素直に廃止を選択しなさい。

 こと鉄道路線の存廃については、住民アンケートを行わず、客観的なデータだけで決定する。住民や鉄道ファンの意見に流されず、むしろ存続を求める意見ほど当てにならないものはないことを常に念頭に置く。

 これこそ基本線にすべきことです。

 また、上記のアンケートでは、回答率が半数に達していないことにも注意を向ける必要があります。

 アンケートの回答では、存続を求めるとする人が50.8%、廃止もやむをえないとする人が49.2%だったそうです。拮抗しているとしか言いようがないのですが、46.4%の中の50.8%と49.2%であるということを忘れてはなりません。結局、アンケート対象者全体からすれば、存続を求める意見は23.5%、廃止もやむをえないとする意見は22.8%、その他は無回答なのです。せいぜい参考意見程度にすぎないことがわかります。

 そして、岩国市には、全体的な交通政策の見通しを立てることが求められるでしょう。その際、錦川清流線を抜きにして検討することも必要になります。大正時代の鉄道敷設法、赤字83線、特定地方交通線。この三つの要件が錦川鉄道錦川清流線に揃っています。『鉄道ほとんど不要論』(中央経済社)という本において、福井義高教授は、1980年代の時点で赤字ローカル線は全て廃止すべきであったと記しています。2023年には極論と考えていましたが、2024年12月においては極論ではなく、全ての路線に妥当する訳ではないものの、多くの路線について正論であると認めざるをえません。


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