ここ数年、日本の国家政策の基本というべきものとなっているのが、俗に「骨太の方針」という、牛乳みたいな名前のものです。正式には「経済財政運営と改革の基本方針」といい、経済財政諮問会議がまとめています。そのメンバー構成といい、中身といい、非常に気になるのですが、5月18日に同会議は「骨太の方針2016」の素案をまとめました。
まだ素案の段階ですので、正式な発表はまだ先の話(31日に閣議決定される方向)ですが、既に報じられています。私は19日付の朝日新聞朝刊7面14版「成長戦略『分配』が目玉 『骨太の方針』素案 財源あいまい」と、同じ面の「『骨太の方針』素案(要旨)」を読みました。同じ面には「1億総活躍プラン(要旨)」も掲載されており、ますます気になるところです。
18日13時39分には、日本経済新聞社が「骨太方針に『消費増税』盛らず 民間議員提言へ」(http://www.nikkei.com/article/DGXLASFS18H1I_Y6A510C1MM0000/)として報じており、同社は5月14日の朝刊1面14版トップ記事で「首相、消費増税先送り 地震対応・景気に配慮 サミット後に表明へ」として報じているだけに、消費税・地方消費税の税率引き上げを再度先送りする可能性が高いと考えられる訳ですが、最近の傾向からすれば、「骨太の方針」における提言がそのまま翌年度の税制改正大綱に結びつくことが多いのです。その例が法人実効税率の引き下げで、「骨太の方針」で大まかながら引き下げの方向性が示されると、税制改正大綱取りまとめ時までに具体的な内容がまとめられるという訳です。
上記記事「1億総活躍プラン(要旨)」より、気になる点を引用しておきます。
まずは「【現下の日本経済の課題と考え方】」から、「雇用・所得環境は大きく改善しているが、世界経済の不透明感が増している」です。これが基本認識でしょうが、アベノミクスが成功したのか失敗したのかという話につながるはずです。おそらく、評価は「成功」とするか回避するかでしょう。
次に「【成長と分配の好循環の実現】」から。「ツッコミどころ」満載かもしれません。以下、あくまでも暫定的に。
「生産性革命に向け、人材育成、研究開発投資の促進などに取り組む。」
この中身が気になります。私が自治総研2015年6月号の「2015(平成27)年度税制改正の概要と論点~地方税制の重要問題を中心に~」で強調したように、法人実効税率の引き下げなどについては「法人税改革」という言葉を用いて、単に税率引き下げに留まらず外形標準課税の強化など、まさしく「構造改革」を提言した訳ですが、「骨太の方針2016」は「革命」という激しい言葉を使いました。雇用や税制に直結するだけに、「革命」とはいきなり、ラディカルにこれまでの仕組みなどを変えてしまうということでしょうか。もっとも、世界史における「革命」に成功したものがどれだけあるのか、よくわからないところです。産業革命くらいでしょうか。
「建築物の維持管理を行うメンテナンス産業の育成、拡大を図る。」
これ自体は妥当なところでしょう。闇雲に新しい箱物を作ってみても、それを維持し、管理することまで視野に入れていたかどうかが疑わしいからです。インフラの老朽化は喫緊の課題であるとも言われています(水道管などを考えればよいでしょう)。問題は、メインテナンスの話題を出したからにはそれに専念する、とまでは言わないまでも「改主建従」の基本方針を打ち出し、貫くことができるか否かです。「建主改従」では国鉄の赤字ローカル線問題と同じような帰結を繰り返すだけです。ただでさえ、日本人は失敗を繰り返すこと、二の舞が好きな民族ですから。
「環太平洋パートナーシップ(TPP)協定の早期発効や参加国・地域の拡大に取り組む。」
アメリカ合衆国の大統領選挙の行く末によっては、どうなるかわからないことです。そればかりでなく、TPPが日本にとって、世界にとって本当によいものであるのかどうか、という疑問は残るでしょうか。
「国は交付金や税制を活用して地方創生を支援する。」
ふるさと納税制度を活用することも含まれるのでしょうか。地方税制を歪めに歪める制度を活用するのですから、地方創生も歪んだものになるかもしれません。
そして「【経済・財政一体改革の着実な推進】」です。ここもおそらく「ツッコミどころ」満載でしょうが、次の一点のみにしておきます。
「・20年度の財政健全化目標の達成をめざす。」
まだ本文が公表された訳でもなく、項目が記事に掲載されただけのような状態ですから、何とも言えません。しかし、到達は不可能である、とまでは言えなくとも、かなり難しいとは言えます。そこで、「政策効果が乏しい歳出を徹底して削減し、政策効果の高い歳出に転換する」ということになるのですが、既得権益、利権などが絡み、よほど強靱な内閣でなければ転換は難しいでしょう。昔、誰が書いたのか忘れましたが、革命より改革のほうがはるかに難しいという言葉を目にした記憶があります。
歳出の見直しは当然として、歳入の問題も忘れてはなりません。現在、所得税制などの改革によって経済格差を縮小することを目指す税制への変化を望むべきであるとしても、経済財政諮問会議には望むべくもないので、おそらくは消費税・地方消費税の方向性が当面の問題となるでしょうが、これが今の段階では不明確です。準備の面から考えると、早い決断が必要とされるところでしょう。
本日もただの雑感を記しました。
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