11月25日付で「夕刊のベタ記事だけど」という題の下、法科大学院のことを書きました。私自身、2009年度から、前期だけですが大東文化大学大学院法務研究科の「租税法Ⅰ」という講義を担当してきましたので、あれこれと思うことはあります。先の記事を書いた日、國學院大学生協で「ロースクール研究」という雑誌を買い、第6回新司法試験の解説などを読んでいましたが、法学部以外の学部(または法律学科以外の学科)の出身者にはかなり難しい、高度な解答を求める出題なのではないかと思うのです。
それとともに、法律学を勉強する際に必要となる用語(専門用語)や言葉(専門用語ではないのですが、法律の条文で用いられる言い回しには一定の決まりがあります)の理解が確固としたものとならなければ、合格答案など到底書けないということも、改めてわかります。法科大学院でこの辺りの学習をしっかり行っているところがあるかどうかわかりませんが、法科大学院の学生の中にも用語や言葉の理解が十分でないと見受けられる人もいるのです(勿論、法学部の学生ならもっとたくさんいます)。
私の大学院時代の指導教授である新井隆一先生は、日頃「法律学は、言葉の学問である」と言われていました。最初、「何となく理解できるが」というのが正直なところでもあったのですが、1997年から大学の教員として法学教育に携わるようになると、新井先生のお言葉の意味がよくわかってきたのです。法律学は、言語学とは違う意味で言葉の学問です。しかも、法律の場合、言葉が社会を動かします。また、我々の行動を規制します。それだけに、法律学は、或る意味で言語の純粋な機能を追究する学問であるとも言えます。一つだけ例をあげますと、「時」と「とき」では意味が異なります。「時」は或る時点を指し、「とき」は「もし誰々が何々をしたら」というような仮定の意味が含まれます。これは法律の条文で用いられる使い方で、法律学も立法実務も当然の前提として使っています。おそらく、日本語を純粋の方向に分析していくとこのような使い方となるでしょう。学校の国語教育や文学などでは全く身に付かないものです。このようなことを理解しなければ、条文を読むことはできません。法学部では一年生の段階で学ぶはずですから、法学部を卒業した法科大学院生なら理解していて当たり前なのですが、法学部以外の出身者は慣れていないでしょう。答案で使い分けをしなければ「基本的なところが理解できていない」として大きく減点の対象となりえます(文章の意味が変わるか通らなくなるかのどちらかになるからです)。
法科大学院では、先の記事でも記しましたように判例中心、ケーススタディ中心というのが一般的でしょう。しかし、これには大きな落とし穴があります。判例は一つの題材にすぎません。日本は判例法の国ではないですし、判例は重要ですが判例だけで動くものでもありません。それに、学部のゼミで痛感していますが、一定の前提知識がなければ、判決を読解することなどできませんから、ケーススタディは、基礎的な部分の学習を終えてからでないと効果がありません。算数や数学の勉強と同じで、いきなり文章題を解くのは難しいのです。それでは、基礎的な部分の学習とは何かと言えば、結局は言葉の意味、用語の正確な理解ということになります。それから、法律学で多用される概念の理解です。行政法で言うならば、行政行為、法規命令、行政規則などの概念の定義、機能などです。
おそらく、いかなる学問でもそうでしょうが、言葉、とくにその厳密な使い方は非常に重要です。単純なわかりやすさとは程遠いところにありますが、正確さのために不可欠です。まして、社会を動かすような機能を有する法律を対象とする学問の場合は、いっそう必要となります。
もし、法科大学院で、とくに未修者のための「法律学」などの科目を置いていないところがあれば(いや、そのほうが多いかもしれませんが)、これはかなり大きな問題です。法曹や公務員(言うまでもなく、裁判官および検察官も公務員です)に必要な前提知識がないままに法律学を身につける訳です。土台があやふやな所に高層ビルを建てるようなもので、使い物になりません。
同じことは、法学部についても言えます。実は、私が中央大学法学部法律学科の学生であった頃、「法(律)学入門」あるいは「法学」というような講義がなかったのです。そのために非常に苦労しました。しかも、当時売られていた「法学」の本は、著者によって中身がバラバラで、あまり役に立たなかったような気がします。後に大学教員となって、法学の講義を担当することとなり、大いに慌てたくらいです。その頃にようやく法制執務の入門書を手に入れ、理解などに非常に役立ったことを思い出します。
今回は、肝心の中身にあまり入らずに終わります。この先、「法律学の勉強の仕方」として、あれやこれやのことを記していきたいと思います。1997年度から2003年度まで大分大学教育学部(教育福祉科学部)で、2004年からは大東文化大学法学部で法学教育に携わり、2011年度から「現代社会と法」という1年生向けの必修科目を担当する私の、まさに私的な雑文としてお読みいただければ幸いです。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます