3月22日付の朝日新聞朝刊37面13版に「日大法科大学院、不適合の評価」という小さな記事が掲載されています。
大学を評価する機関として、大学基準協会があります。この評価そのものなどの意義についても様々な問題があるものと思われますが、それは今回、とりあえず脇においておきます。同協会は、毎年、幾つかの大学について評価を下しています(余談ですが、2010年度に大東文化大学も評価の対象となりました)。2011年度も、40校(大学、短期大学、専門職大学院、法科大学院)が評価の対象となっていますが、そのうちの7校が「過去に不適合や評価保留などとされたことを受けた再評価・追評価で」あったということです。
2008年度の評価で、同協会は日本大学の法科大学院に対して「不適合」という評価を下しました。再評価などは3年後に行われることとなっており、2011年度、同法科大学院に対する再評価が行われたのですが、再び不適合と評価されました。
その理由は、上記朝日新聞の記事によると、カリキュラムに占める「法律基本科目」の割合が高く、「実務的な科目」が少ないという趣旨のようです。そのため、司法試験対策に偏った科目編成となっている、というのです。
ここにいう「法律基本科目」とは、憲法、行政法、民法、商法、会社法、民事訴訟法、刑法、刑事訴訟法のことです。いずれも司法試験の必須科目になっています。この他、法科大学院では「法律実務基礎科目」、「基礎法学・隣接科目」、「展開・先端科目」という分野があり、それぞれに様々な科目が置かれています。たとえば、租税法や労働法などは「展開・先端科目」に置かれることが多いでしょう。
日本大学法科大学院のサイトで公表されているカリキュラムを見ると、たしかに「法律基本科目」の修了要件単位数が多くなっています。しかし、これは多くの法科大学院に共通することではないでしょうか。別に司法試験と関係がなくとも「法律基本科目」に力点が置かれるのは、法学系の大学院である以上、当然のことです。法科大学院は、大学院とは言っても法学研究科とは全く異なり、むしろ法学部に近い存在ですので、憲法、民法、刑法の三大基礎科目を中心とするカリキュラムになるのが理にかなうことではないでしょうか。また、日本大学法科大学院における設置科目は、(少なくとも大東の法務研究科よりは)かなり多く、「基礎法学・隣接科目」の多さには驚かされました。
他の法科大学院がどのようなカリキュラムを組んでいるのか、比較検討した訳ではありませんのでよくわかりません。ただ、実際の問題として「法律実務基礎科目」は、本来であれば司法修習所が行うべきと考えられるものでもありますし、司法試験の科目に入っているものはありません。
大学基準協会の評価を受けるためには、非常に分厚い報告書を提出しなければなりません。また、その報告書に対する評価も量の多いものです。従って、いかなる基準の下に同協会が大学に対する評価を下したかについては、最低限、評価そのものを読まなければなりません。今、読みうる状況ではないのでここまでとしておきますが、「適合」と判断された法科大学院と「不適合」と判断された法科大学院との差異がさほど大きいものとは思われません。
法科大学院が司法試験対策に走っているという批判は、以前から存在します。これは半分ほど当たっており、半分ほど的外れです。そもそも、法科大学院を修了した者だけが司法試験の受験資格を取得するという原則の下に制度が組み立てられています。従って、試験のことを全く考えない大学院など、存在意義はありません。試験科目が定められている以上、対応するカリキュラムを編成しなければなりません。とくに「法律基礎科目」は、民法など、膨大な範囲を扱わなければならないので、どうしても修了要件の単位数は増えます。
一方、現在の司法試験には、法科大学院に設置される「法律実務基礎科目」および「基礎法学・隣接科目」に対応する試験科目が全く存在しません。これでは、修了要件単位数が少なくなるのも当然でしょう。また、担当可能な者に限りがあるという問題も忘れてはいけません。
今後、法科大学院に対して大学基準協会がいかなる判断を示すのか。2012年度にも幾つかの法科大学院が評価対象となりますから、注意しておく必要があります。「不適合」が今後も出されるようであれば、もはや個別の法科大学院の問題ではありません。司法試験制度と合わせて、全体を見直すべきでしょう。
21世紀に入ってから進められた司法改革で、裁判員制度と新司法試験・法科大学院制度が誕生しました。色々な問題はあるとはいえ、素人に事件の判断をさせる裁判員制度はとりあえずのところ成功しており、法律の玄人を作り出そうとする新司法試験・法科大学院制度は失敗でしょうか。そもそも、この双方は方向性として全く相容れないものであり、それが現在の司法制度に並存していること自体がおかしな話です。
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