英の放電日記

将棋、スポーツ、テレビ等、日々感じること。発信というより放電に近い戯言。

2024王位戦 第1局 藤井王位-渡辺九段 その4

2024-07-11 16:48:10 | 将棋
「その1」「その2」「その3」


 細心の注意を払って▲8七歩を着手。この手に2分使い、残り時間は2分となった。
 ▲8七歩に△8四龍(おそらく最善手)▲6五角成が控室で予想されていた順で、渡辺九段もそう想定して、これで先手が手厚いと考えていたようだ。
 ところが、藤井王位は△4六龍と龍を切る!
 以下▲同歩△3六角と進む。この龍切りを最善手に挙げたAIもあったようだが、多くのAIは評価値を下げていたと記憶する。

 評価値はともかく、この手を指された渡辺九段は動揺。感想戦で、《いきなり、寄せ合いになってしまって…》というような言葉を洩らしていた。

 2日目の夜……二人の消費時間は渡辺8時間8分、藤井8時間9分。(本来は持ち時間は8時間だが、千日手成立時に藤井王位の残り時間が50分で、『千日手の持ち時間補正の規約』により、藤井王位の残り時間を1時間にする為、両者に10分足した。(渡辺九段の残り時間も2時間10分→2時間20分) 
 消費時間は8時間強だが、60秒未満は切り捨てになるので、実際は千日手局に渡辺九段だけで40手、指し直し局には43手指しているので、機械的に1手30秒切り捨てと仮定すると、30秒×86=43分。なので、これを加えると、ここまで9時間近く考えていることになる。
 実際は、相手の藤井王位の考慮中もフル稼働ではないにせよ、局面について考えているので、2日目の夜までに18時間将棋に浸かっている。食事や就寝前にも考えているかもしれない。

 ………千日手局は隙を与えないよう指し続け千日手に持ち込んでいるし、指し直し局は自分の策戦範囲に持ち込んだとはいえ、54手目に防戦一方に打たせたつもりの角に直後の△6四歩で角筋を自陣に利かされたショック
 56手目に藤井王位の残り時間が9分になってから、70手目の△7六同龍まで60秒未満の指し手を続けられ1分も残り時間が減らない……難解な局面をビシビシ指され続ける圧力は相当なモノであろう。実際の形勢は渡辺九段に傾いていったが、渡辺九段の実感としては「あまり前進している気がしなかった」という。
 その上、細心の注意を払ったにも拘らず、いきなり寄せ合いの局面に持ち込まれてしまった……かなり優位に立っていた残り時間も「2分対3分」と逆転。残り2分で藤井王位相手に勝ち切らなければならない……実際の評価値は「渡辺大優勢」でも本人は分からない。それどころか、感触としては《ギリギリの寄せ合いに持ち込まれてしまった!こんなはずでは……》

 とは言え、流石は渡辺九段!
 藤井王位の猛攻に正確に対応

 "然しもの”(さしもの)藤井王位も矢が尽きて、△6一歩と自玉に手を戻す(自玉の詰めろを受ける)。

続く
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2024王位戦 第1局 藤井王位-渡辺九段 その3

2024-07-10 15:04:43 | 将棋
「その1」「その2」


 互角で難解な局面。
 図以下、△3七歩成▲同銀△2七飛成▲2八金△2五龍▲3三歩成△同金▲2六歩△7五龍▲7六歩△同龍▲5六桂△5五角▲4六銀打△8六歩と進み第6図。
 上記手順で△3七歩成や△2七飛成に対し手抜きで▲3三歩成と切り合う手も有力だったが、渡辺九段は自陣に禍根を残さないよう▲3七同銀△2七飛成▲2八金と応じる(最善の手順)。
 対して龍の引き場所や▲3三歩成の取り方が最善ではなかったようだ。
 この後の▲2六歩△7五龍▲7六歩△同龍▲5六桂△5五角▲4六銀打と渡辺九段は最善手を続ける。対する藤井王位の△7六同龍は△8四龍が正着だったらしく、"渡辺有利”がはっきりしてきた
 しかし、形勢とは逆に残り時間は、56手目△6四歩(考慮時間1分で残り9分)から、藤井王位は時間を消費せず、72手目△5五角に1分消費しただけで残り時間は8分と減らない。対する渡辺九段はこの間、残り61分から残り25分(△8六歩の局面)までに減らしている。
 藤井王位は残り時間を減らさないよう60秒未満で頭脳をフル回転し形勢を大きく損なわない指し手を続けた。この1分以内でビシビシ指してくる藤井王位に渡辺九段は大きな圧力を感じていたのではないだろうか?形勢は有利を拡大していたが、「あまり前進している気がしなかった」と局後の感想戦で漏らしていた(by棋譜中継)

 ▲4六銀打に藤井王位は2分消費して△8六歩。

 この△8六歩は利かしておきたい歩の合わせ。「△4六同角▲同銀△8六歩だと▲8五角で間に合わないが、先に歩を合わせて▲8六同歩を強要しておけば、以下△4六角▲同銀に△8六竜で間に合う」(by棋譜中継)。しかし、手抜きで▲5五銀と角を取られてしまう心配がある(実際、手抜きで▲5五銀が正着)。勝負を懸けた一着だ。
 渡辺九段は1分で▲8六同歩。以下△4六角▲同銀△8六龍となり、藤井王位の意が通った。ただし、渡辺九段は優勢を拡大するチャンスを逃しただけで、"有利”状態はその前の▲4六銀打の時とほとんど同じ。


 ここで▲8七歩△8三龍▲同馬△同角と進めるのが普通で、それが最善だった。
 しかし、先に8筋の歩の合わせを利かされ、△8六龍とされてしまった流れから、そう進めるのは藤井王位の意図した流れとなってしまう。そこで、▲6四桂△6三角を利かせ、さらに▲3四歩(第8図)△3二金も利かせる。

 ▲3四歩の利かしの損得は微妙。この手に渡辺九段は15分を消費し、残り時間が5分となってしまった(藤井王位は6分)。
 局後の感想によると、《利かしが得か損か》で悩んだのではなく、《△3四同金と応じられる手を心配した》らしい。「△3四同金には▲8三角△5一金に▲5六角成が手厚く大丈夫だと気がつくのに15分を要してしまった。△3二金と引いてくれるのなら、すぐ打つんだった。時間を損してしまった」(←解説の鈴木九段の伝聞)
 とにかく、細心の注意を払い、さらに▲8三角△5一金を利かせて、懸案の▲8七歩を打ったが……

続く
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2024王位戦 第1局 藤井王位-渡辺九段 その2

2024-07-09 17:42:40 | 将棋
「2024王位戦 第1局 藤井王位-渡辺九段 午後8時35分」を「その1」とします。

 ……「その1」をアップした時は、まだ、勝利確率が78%でかなり優勢とは言え、残り時間切迫の中、渡辺九段が勝ち切るのはまだまだ大変だと思っていた。
 しかし、それから、暫くして藤井王位が特攻をかけたが足りず、勝利確率は「渡辺99%」となり、あとは詰ますだけという状況。
 解説の鈴木九段も、終局間近(渡辺勝ち)を確信していた。ただし、少し、逆転の伏線があったが、些細な事と思っていたようだ。(詳細は後述)


 千日手指し直し局も、渡辺九段が主導していた気配があり、用意の策戦だった気がする。

 渡辺九段が21手目に▲6六角と飛車取りに覗いたのが趣向で、△7四飛と躱した時点で前例が1局のみ。さらに23手目の▲7七桂で前例がなくなった。
 ▲7七桂以下△3四歩▲2二角成△同銀▲8二角と打ち込み、△9三香▲2六飛で第1図。

 第1図から△5四飛▲6八銀で第2図。
 藤井王位はこの辺り(第1図~第2図)で△8四飛▲9一角成△7一金と先手の角(馬)の働きを封じておくべきだったという感想を述べており、その後はずっと苦しいと思っていたそうだ。

 とは言え、実際は微差で、角打ちから飛車をふわりと中段に泳がせ、2筋に回し飛車成りを見せ、▲3九金を強要(先手は歩切れで、飛成りを歩で防げない)するなど、藤井王位の反撃も迫力十分。以下、10手ほど進み、第3図。

 先手の渡辺九段も飛車を8筋に転回。互いに飛車を軸に敵陣突破を目指す。
 これに対し、△8三歩と受けるのが読みの入った手で、以下▲8三同馬△同銀▲同飛成△7二角▲9二龍と、「角銀交換」「飛車の成り込み」「駒得した角を自陣の受けに投入させられる」と損得勘定が難しいが、おそらく最善の応酬。ただし、最後の▲9二龍では▲8二龍の方が良かったようだ。(後に▲8四桂と絡む筋が出てくるが、この時、龍の紐が付いている方が得)
 ▲9二龍に△6四歩で第4図。

 △6四歩と突いて、防戦一方と見られた角が一気に先手の急所に利いてきた。ただし、△6四歩ではなく△3六歩が最善手らしい。
 ▲9二龍で《先手わずかに良し》から《後手やや良し》に。△6四歩がやや疑問で、第4図は、ほぼ互角。ただ、この△6四歩が見えていなかった渡辺九段は少なからず動揺したようだ。
 《局勢は互角》《精神的にやや動揺》の渡辺九段ではあるが、残り時間は渡辺61分、藤井9分と大優勢。
 渡辺九段も腰を落とし、読み直し▲3五歩と最善手。さすがである。
 以下△3六歩▲3四歩と互いに桂頭を攻める。

 第5図は互角。残り時間は先の▲3五歩で20分消費したとは言え、渡辺39分対藤井9分と少し差は縮まったが、時間的にはまだ有利。
続く
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2024王位戦 第1局 藤井王位-渡辺九段 その1「午後8時35分」

2024-07-07 20:40:41 | 将棋
都知事選挙は、投票終了と同時に出口調査の結果から、即、小池氏の"当選確実”が出ちゃうし、懇意にさせていただいている(一方通行?)コウジさんには不快な思いさせちゃうし…
無茶苦茶暑いし……、仕事は面倒くさいし(いえ、一般的に、仕事が"面倒”なのは当たり前です)……

 ……そんな中で、王位戦の藤井王位vs渡辺九段戦は大白熱!
 後手番の渡辺九段が千日手局面に誘導し、指し直し局は先手番(先手番がやや有利)で、残り時間も藤井王位1時間に対し渡辺九段2時間20分と優位。
 指し直し局も、▲8二角と打ち込む用意の戦法?で主導権を握る。残り時間も、42手時点で渡辺1時間29分、藤井28分と優位を維持。
 しかし、藤井王位も時間切迫の中、指し手を誤らず、渡辺王位も少考を繰り返すようになっていった。
 渡辺九段は、時間を消費するも勝率5割以上を維持。徐々に形勢は渡辺九段に傾く。しかし、それと反比例するかのように、持ち時間の優位は減っていく。
 時間は両者数分、勝利確率は渡辺九段の60~70%で推移。

 午後8時35分、指し手95手、渡辺九段の勝率は78%(by ABEMA中継)。しかし、両者の残り時間はわずか2分。
 こうなると、勝利確率(評価値)は渡辺九段が勝利に近づいているのを示しているが、将棋は間違えるゲームで、しかも、形勢の反転度合いが大きい。残り2分で藤井王位相手に勝ち切るのは、なかなか難易度が高い。
 さて、どうなるか……中継視聴に専念します。
「その2」
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2024年度NHK杯将棋トーナメント1回戦 西山女流三冠-木村九段 その7

2024-07-05 11:21:38 | 将棋
「その1」「その2」「その3」「その4」「その5」「その6」………大概、「その3」ぐらいで疲れてくる……)


 図の▲3一金には少し驚いた。
 金ではなく▲3一銀が通常だろう。解説の藤井九段も銀打ちが一感だった。
 おそらく▲3一銀が最善手だが、1三へ玉を追うことになりそうなのが気になる(実際は1三に逃がしても大丈夫)。
 ▲3一金は持駒が増えると後手玉に即詰めが生じるし、次に▲3六龍と歩を払う手が詰めろになる。
 以下、木村九段は△3五桂や2筋での竜頭への歩の叩きで凌ぐが、手順に先手玉の嫌味が解消されてしまった。
 途中、どこかで△5一歩と先手飛車の利きを緩和する手があり(▲同飛成なら王手飛車がある)、そう指せば、若干勝負のアヤもあったが、木村九段は観念していたのだろう。
 最後に△4七桂成りと銀を取り、収束を待った。


 投了図以下は、△2一同金▲同龍△同玉▲3一成桂以下詰み。

 解説の藤井九段は、序盤の時に「西山さんの終盤はトップクラスだ」と述べていた。
 確かに、プロ棋士としての寄せの感覚、詰み手順の読みなどは体に染みついているように感じる。
 福間女流五冠も同様に感じるが、両者の質は違う。
 西山女流は敵防御を正面から破壊する。敵玉を頭からねじ伏せる。寄せが見えたら躊躇なく突き進む。
 福間女流は、寄せの網を絞っていき、機が熟したらスパートをかける。やや曲線的だが、一気に受けなしに持っていく瞬発力もある。



 終局直後、木村九段は西山女流の顔を見やり、にっこり微笑んだ。
《強くなったね》と言っているように感じた。


 昨日(7月4日)に「朝日杯将棋オープン戦」の1次予選で阿部光瑠七段に勝利
 この結果、直近のプロ公式戦で13勝7敗となり、「10勝以上」かつ「勝率が6割5分以上」などの条件を満たして、プロ棋士への「編入試験」を受験する資格を得た。
 西山女流は編入受験の意思を表明。

 "西山四段”と表記する日が来るかもしれない。
 
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2024年度NHK杯将棋トーナメント1回戦 西山女流三冠-木村九段 その6

2024-07-03 17:46:18 | 将棋
「その1」「その2」「その3」「その4」「その5」………大概、「その3」ぐらいで疲れてくる……)


 ▲5五角の好所の角打ちに、木村九段は△6八馬。
 この手は▲2五歩△同歩▲2四歩△同銀▲2三歩以下の開き王手と▲7七銀の馬の捕獲を防いだ手だが、直前の△8六角成を自ら否定したような手だ。この△6八馬では△4三歩と▲2五歩以下の攻めが来る前に動いてもらう方が良かった。
 △4三歩以下▲7七銀△同馬▲同角△4四歩▲7一角△6一飛▲4四角成が想定される。先手有利だとは思うが、これからの将棋であろう。
 実戦の△6八馬に西山女流三冠は▲7四歩。最善手は▲7三桂成で、この方が勝ちが早いと思われるが、玉頭に不安がある先手にとっては、後手に桂馬を渡すのはためらいを感じる。歩で攻めて間に合うのなら、その方が良い。
 以下、西山女流三冠は歩を成って、そのと金を敵玉に寄せていく。その間、木村九段は飛車を3三まで移動させ、2筋の歩を伸ばして先手玉にプレッシャーをかける。

 第13図は、そのと金で3一金を取り、後手が△3一同金と応じたところ。
 ここで西山女流三冠の手が止まる。
 先手が勝ちに近づいているのは間違いないが、注意しなければならないのは、①△2七歩成▲同玉に△3九銀などと打たれて、上下挟撃されること。②△3九銀(角)▲同玉△2七歩成とされ、5八の馬と2七のと金による挟撃。③玉が2六や2五までおびき出されて2筋に飛車を回られたり、香を打たれて頓死(頓必至)を食らうこと。
 いずれも、実現は困難だとは思うが、後手玉は穴熊なので「ゼの形」(絶対詰まない状態)」で一発食らう危険性がある。

 ここで西山女流三冠は▲3三角成!
 もし羽生九段が解説していたら「ギョエ~」と叫びそうだ。
 わざわざ角を渡さなくても、▲5三歩成で充分に思えた。(おそらく最善手)
 テレビ画面の評価値(勝率)グラフも少し縮んだ。
 おそらく、▲5三歩成だと△3四銀▲4二と△2七歩成▲同玉△2三飛が嫌だったのではないだろうか。

 以下▲2六歩に△2五歩(変化図5)や△3五馬(変化図6)が相当な迫力。

 △2五歩(変化図5)には、一例として▲1八玉△2六歩▲2八歩(変化図5-2)で大丈夫。

 また、△3五馬(変化図6)にはガッチリ▲1七金と受けておく。さらに重ねて△2五歩と打ってくる手には、そこで▲3一ととする手が間に合う。(△2六歩と取り込まれても▲2八玉と引いて大丈夫。図面省略)

 "大丈夫”と言っても、実戦的にはいろいろ危険。
 ここは、自玉の安全と、寄せのスピードを重視して▲3三角成の方が良いと判断したのだろう。"実戦的好手”と評価できる。
 ▲3三角成に木村九段は△同金と応じたが、△3三同桂の方が良かったかもしれない。一瞬、玉の腹が空くので弱体化が強いように感じるが、▲6一飛には△2一金寄で2二の金との連携が良く、抵抗力が強い。それに、3三の桂が先手玉への足掛かりとなる可能性がある。

 本譜は▲3三角成△同金▲6一飛△2二金▲4二成桂△8四歩と進み、ここで▲3一金!

続く
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2024年度NHK杯将棋トーナメント1回戦 西山女流三冠-木村九段 その5

2024-07-02 17:33:08 | 将棋
「その1」「その2」「その3」「その4」………大概、「その3」ぐらいで疲れてくる……)

風向きが変わったとはいえ、形勢は互角。

 ここで龍の逃げ方に迷う。
 おそらく最善手は▲5八飛で、次いで▲5四龍。
 西山女流三冠の▲5五飛は後手の飛車の捌き(△6四飛)を防ぎも見た手だが、△8八角と打たれる手があり、やや損だった。
 この△8八角に気が進まないが▲6六銀と投入し、△8六角成にも▲6五角と中央から後手陣に対して支配力を強める方が良かったようだ。本譜は▲5六龍と躱したが、これだと0手で△7七角と打てたことになる。(▲6六銀は気が進まないが……)
 しかし、この後、木村九段も飛車の引き場所を間違えたらしく、後手有利→互角に。
 ただし、時間切迫の中、最善手を追及するのはナンセンスで、勘(大局観)を基に、指し手の方向性を見極めることが肝要。評価値や最善手という要素は、考慮時間がたっぷりある時に意味を成すのであって、時間切迫時は指し手(指し方)の分かりやすさの重要度が高くなる。第一感を信じ、読み進め、貫けることが勝利につながることが多いような気がする。もちろん、相手の読み筋(狙い筋)にもアンテナを張り、読み抜け、錯覚をなくすことも大事なので、30秒の秒読みは大変である。

 そんな均衡状態を崩す手を木村九段が指してしまう。それが、△8六角成。
 直後、▲5五角(第11図)と西山女流三冠が天王山に角を打つ。
 角にとって5五の地点は最も利き数が多い(16マス。隅にいる場合は8マス)。尤も、角は頭が丸いので5五に居ても負われることが多く、一歩譲って4六とか6四に位置して存在感を示すことの方が多い。
 とにかく、第11図の5五の角は光り輝いている。▲2五歩△同歩▲2四歩△同銀▲2三歩△同金▲3二桂成(▲5二桂成)のあき王手の狙いがあり、場合によっては▲7七銀と打ち馬の捕獲。さらに、▲7三桂成や▲7四歩と後手飛車のコビンを攻める手も見ている。その上、先手玉の弱点の3七もカバーしている。

 この角打ちは△8六角成として角の利きをそらしてしまったため生じた。代えて△8八角成とする方が良かった。ただし、△8八角成は▲5五角打に対し△同馬とする手を残したのではなく、△8九馬▲3六馬△9八馬と指す含みらしい。すぐに香を取らずに△8九馬(飛車取り)▲3六飛と後手の攻めの拠点の3六の歩を取り払わせて、△9八馬と香を取る。3八に歩があるので、次に△3三香(△3四香)が厳しいという仕組みなのだろう。
続く
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2024年度NHK杯将棋トーナメント1回戦 西山女流三冠-木村九段 その4

2024-07-01 10:38:52 | 将棋
「その1」「その2」「その3」………大概、「その3」ぐらいで疲れてくる……)

 木村九段はここで△3一金と金を逃げたが、この手が問題だった。
 ここは、△6四飛と遊び駒の飛車を世に出すのが急所だった。
 この手に対し、飛車成りを防ぐ▲6五歩は△4四飛と切ってしまうのが決め手となる。何しろ先手の期待の4四の桂と遊び飛車の交換は、単純な駒の価値を逆転させる働きの差がある。しかも、先手は切ってくださいと、一手をかけて▲6五歩とお願いしたことになる。▲6五歩△4四飛に先手は▲同歩と応じるしかなく、そこで△4五桂が痛すぎる!この桂打ちの場所は飛車切りによって生じているのが、先手にはなんとも悔しい。
 そこで△6四飛には先に▲3二桂成と金を取る。
 以下△3二同銀▲3一銀△6九飛成▲4二金(変化図1)と後手玉に絡みつく。

 後手としては穴熊玉が引っ張り出され、守備は銀1枚で、しかも4二に金と絡みつかれ、嫌な展開だ。
 しかし、図で△6四角の王手角取りが好手。これには▲5五角と打ち返す手があるが、△同角▲同飛に再度△6四角(変化図2)と打って、ほぼ後手勝勢。

 変化図2から、先手も▲3二金△同玉▲4三銀△同玉▲4四歩△同玉▲5四金(変化図3)と強引に6四の先手の角を排除する頑張りがあるが、

 △3三玉▲6四金に△2九金▲2七玉(▲2九同玉は△4九龍▲3九合駒△1七桂以下詰み)と足場を作っておいて、△6四龍と手を戻して後手勝勢。
 上記の手順の△3三玉に▲6四金と角を取る前に▲4四角と足掛かりを作っておいて角を取る手も考えられるが、▲4四角には△3四玉と角にプレッシャーを掛けて逃げる手が巧手で、やはり後手勝勢。


 木村九段は変化図1以下の絡みつきの嫌味が気になり、△3一金と金取りを受けたが、その金は浮き駒状態で、▲5一飛成と金当たりの先手で飛車を成り込まれてしまう。上記の変化とでは、彼我の飛車の働き具合のプラスマイナスが大きく、後手"ほぼ勝勢”から"互角”に戻ってしまった。

 大きく棋勢を損じたとは言え、金取りを△4一金打と龍をはじき返した形勢は、まだ互角で、《これでも指せる》という木村九段の判断は間違いとは言い切れない。ただ、彼我の飛車の勢いの差もあり、将棋の流れは悪い。それに、こういう指し方は木村九段らしくないなあ……と。
続く
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2024年度NHK杯将棋トーナメント1回戦 西山女流三冠-木村九段 その3

2024-06-29 09:27:15 | 将棋
「その1」「その2」

 後手から角馬交換を迫られたところ。
 先手としては、せっかくの馬なので交換は避けたいが、▲6三馬や▲7二馬だと△6六とと引かれて後手が盤石となる(△6六とは銀取りであるが、それよりも次の△5六とが無茶苦茶大きい)
 なので、西山女流は▲4四同馬と応じ、△同銀に▲6七飛とと金を消去する。
 これで、中央の折衝は一応一段落。先手の主張点は3歩得と飛車の働きだが、7六の銀が遊び駒か標的になる可能性が大。さらに、後手の穴熊に対して先手の"桂なし高美濃”と玉の薄さが気になる。しかも、手番は後手。
 ここで後手に有効な手がなければいいのだが……

 △4五銀!▲同歩△5五桂!

 一瞬、駒損になるが、飛車金両取り!これが痛そう。藤井九段もこの両取りをずっと懸念していた。
 以下、▲5七飛△4七桂成▲同銀で第8図。

 いいように先手がやられたようだが、この図になってみると後手が良いのは間違いないが、思いのほか難しい。
 ▲4七同銀と銀で取ったのが、形は乱れるがしぶとい手だった。
 上記の手順で、厳密に言うと△4七桂成と金を取る前に△5九歩成を利かせておく方が良かった。これに▲同飛なら△7七角と打つ手が入りそう(ゼロ手で7七に角が設置)。▲5九同金と取るのは大きな利かされとなる(第8図で△5九歩成に▲同金としたのと同じ)
 とは言え、第8図以下、△3五歩と突いた手が急所にを突いたように見え(実際は"やや後手よし”程度)木村九段が勝ちそうな気配。
 対して西山女流三冠は▲4四桂。局後、西山女流は「▲4四桂と打てて手ごたえを感じた」旨の言葉を発していたが、おそらく、悪手(▲5三飛成または▲3五同歩が良かった)。
 ▲4四桂に木村九段は△3六歩と取り込み▲3八歩と西山女流三冠が受けた第9図。


 木村九段の次の一手が問題だった。(続く
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【追記】……国会欠席にも係わらず、ボーナスや給与(歳費)などを支給

2024-06-28 16:23:54 | 将棋
「事件で起訴され、国会欠席でもボーナス319万円……根本的な政治改革は?」の追記です)
国会に出席しなかったのに、議員給与(歳費)などが支給された議員と言えば……

①河井案里氏……2019年に参議院議員に初当選したが……
2020年7月8日、公職選挙法違反(買収)の罪で克行と共に東京地裁に起訴される。
2021年1月21日、東京地裁は懲役1年4か月、執行猶予5年の判決。
2021年2月3日、公選法違反の罪で有罪判決を受けたことを受け、案里は政策秘書を通して参議院に議員辞職願を提出。同日の本会議で辞職が許可される。
被告、検察ともに控訴しなかったため、翌日5日の0時に有罪が確定。当選無効となり、2026年2月まで5年間の公民権停止となった。

 議員活動中に河井氏に支払われた「歳費」「期末手当」「文書通信交通滞在費」は合計4942万円あまりであり、当選無効になってもこれを返納する義務はない

②ガーシー氏(東谷義和氏)……2022年、ガーシーはNHK党から参議院選挙に比例区で立候補。党名簿登載者第1位の得票数で当選したが……
当選以降も正当な理由なくドバイに滞在し続け、一度も日本に帰国せず登院することはなく、2023年3月15日、参議院はガーシー議員の「除名」処分を決定し、これにより、この日限りで参議院議員を失職。
2023年3月16日、3人の著名人を自身の動画で常習的に中傷、脅迫したとして暴力行為法違反(常習的脅迫)や名誉毀損などの疑いで、動画撮影に携わった知人の男性とともに警視庁捜査2課より逮捕状請求がなされる。
同年4月14日、国際刑事警察機構よりガーシーは国際手配された。
同年6月4日、ドバイから成田国際空港に帰国し逮捕。

 初当選のあと、一度も国会に登院しなかったガーシー氏には、議員の給与にあたる歳費やボーナスにあたる期末手当など、あわせて2013万円余りが支給されている
 除名され議員の資格を失ったことから、3月分の歳費と「調査研究広報滞在費」は在職日数に応じた日割りとなり、参議院はすでに支給された今月分のうち68万円余りを返納するようガーシー氏に求めたとされている。
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