英の放電日記

将棋、スポーツ、テレビ等、日々感じること。発信というより放電に近い戯言。

バンクーバー五輪雑感⑨ フィギュアスケートその2

2010-03-31 17:58:33 | スポーツ
 今回の五輪(もう1月以上前の話になってしまいましたが)、たぶんたくさんの方が採点について疑問を感じられたことと思います。この採点の妥当性ですが、2つの観点から考えたいと思います。

A採点方式
 採点方式だけに絞っても、いろいろなポイントがあります。技術点と芸術(表現)点の比率や審判の選出の仕方や、採点の採用方法などがありますが、その前に、採点方式の変遷を振り返ってみたいと思います。

 2002年のソルトレイク五輪までは、順位点方式でした。
 選手すべての演技を総合評価して順位を決め、それをポイント化したのが順位点です。ショートプログラムは順位×0.5、フリーは順位がそのまま順位点となります。総合成績はその合計点で決まります。(もっと以前は、規定(3週8の字にすべりその軌跡が綺麗に一致するかなど)があって、確か規定順位×0.6、ショートプログラム順位×0.4、フリー順位×1だったと思います)
 で、ジャッジの際、技術点と芸術点を6点満点で採点します。ただ、これは「あなたの演技を私はこれくらい評価しています」という意味で、順位には全く関係しません。審判が順位をつける上での基準の参考という意味合いはあると思います。

 非常におおざっぱで、順位の基準もあいまいな気がしますが、それはそれで、理にかなった採点方式だったと私は思います。
 料理を例にしますが、料亭の料理にしても家庭の料理にしても、その評価はいろいろな要素がありますが、とどのつまりは「おいしい」か「まずい」かです。その要素として、焼き加減、味付け、ネタの新鮮さ、盛り付け、雰囲気などあり、それらが独立して加点されるのではなく、それらが影響し融合して判断されます。
 フィギュアスケートも同じような気がします。ジャンプ、スピン、ステップ等の難易度、曲との協調や滑らかさやスピードや高さなど、いろいろな要素がすべて統合されて、評価が決まるのではないでしょうか。
 ひとつひとつを点数にして評価して合計するよりも、統合的評価でどの演技が上かを判断する方が、理にかなっているような気がします。
 もちろん欠点があり、その欠点がソルトレイク五輪で顕著に現れてしまいました。(私は欠点が3つあると考えています)



①審判の主観に大きく左右される。また、その審判の主観が正しいものであっても、数値として示されないので納得がいかないことが多い

 ソルトレーク五輪では、ペアの判定でノーミスで演技したカナダペアより一度着氷で乱れたロシアペアの方が順位が上と判定された。9人の審判のうち、ロシアペアを1位としたのが5人、カナダペアを1位としたのが4人。
 イメージ的には、ミスのなかったカナダペアのほうが上のようだが、それぞれの技の難易度やスピンなどのシンクロ性などがロシアペアのほうが上回っていて、着氷の乱れのマイナスをカバーしていたのかもしれない。ジャッジも5対4なので、本当に僅差なのだろう。とにかく、審判の主観によって決められ、その判定のよりどころを示すものはなかった。
 アメリカとカナダのマスコミが不当な判定と騒ぎたて、このジャッジの一人であるフランス人審判が「『アイスダンスでフランスペアがロシアペアに勝たせるかわりに、ペアではロシアペアを勝たせるように』という上からの指示があった」と証言し、両ペアが金メダル扱いとなった。
 この件が起因となり、判定の基準や数値をはっきりするべきと判定方式の変更がなされた。



②最後まで順位が確定しない
 女子シングルでもスルツカヤ(ロシア)の点数(評価)が抑えられたのではないかという疑惑が起こったが、ペアほどは大騒ぎにはならなかった。私個人の印象では、フリーはスルツカヤが2位かどうかは微妙(どちらでも不思議ではないが、どちらかというと1位)だったが、ショートプログラムは1位と思ったのが2位だったという記憶がある。
 それはともかく、この項では、小見出しの「最後まで順位が確定しない」ということのみの焦点を当てます。

 「最後まで順位が確定しない」というのは、現方式においても同じなのだが、順位点方式は「ねじれた不確定さ」という特徴がある。

 この大会にその特徴が絶妙な具合で現れた。

 ショートプログラムの結果は
1位 クワン(米国)    順位点0.5
2位 スルツカヤ(ロシア) 順位点1.0
3位 コーエン(米国)   順位点1.5
4位 ヒューズ(米国)   順位点2.0

 そして、最終演技者のスルツカヤの直前の時点でのフリーの暫定順位が
1位 ヒューズ       順位点1.0
2位 クワン        順位点2.0
3位 コーエン       順位点3.0

 で、暫定の総合順位は
1位 クワン        順位点2.5
2位 ヒューズ       順位点3.0
3位 コーエン       順位点4.5

 であった。

 現行のような普通の総得点方式であれば、スルツカヤの得点が確定し、スルツカヤの下位の選手の順位がひとつずつ押し下げられる。つまり、順位は確定しなくても、スルツカヤ以外の選手の上下関係は変化がない。
 ところが、順位点方式だとスルツカヤのフリーの順位によって、他の選手の順位の上下関
係が逆転する可能性がある。


★スルツカヤのフリーが1位の場合
 フリーの順位点は
1位 スルツカヤ      順位点1.0
2位 ヒューズ       順位点2.0
3位 クワン        順位点3.0
4位 コーエン       順位点4.0

 となり、総合順位は
1位 スルツカヤ      順位点2.0
2位 クワン        順位点3.5
3位 ヒューズ       順位点4.0
4位 コーエン       順位点5.5



★スルツカヤのフリーが2位の場合
 フリーの順位点は
1位 ヒューズ       順位点1.0
2位 スルツカヤ      順位点2.0
3位 クワン        順位点3.0
4位 コーエン       順位点4.0

 となり、総合順位は
1位 ヒューズ       順位点3.0
2位 スルツカヤ      順位点3.0
3位 クワン        順位点3.5
4位 コーエン       順位点5.5

 ヒューズとスルツカヤは順位点が同じだが、フリーの成績が優先される


★スルツカヤのフリーが3位の場合
 フリーの順位点は
1位 ヒューズ       順位点1.0
2位 クワン        順位点2.0
3位 スルツカヤ      順位点3.0
4位 コーエン       順位点4.0

 となり、、総合順位は
1位 クワン        順位点2.5
2位 ヒューズ       順位点3.0
3位 スルツカヤ      順位点4.0
4位 コーエン       順位点5.5


 スルツカヤのフリーの成績によって、金メダルはスルツカヤ、クワン、ヒューズの可能性がある。最終演技者スルツカヤの演技直前の時点でクワン、ヒューズの上下関係が、スルツカヤのフリーが2位のときのみ、二人の上下関係が逆転するのだ(スルツカヤのフリーが4位以下の場合も変化なし)。
 こういった現象の原因は、スルツカヤの順位がヒューズとクワンの間に入る2位のときだけ、ヒューズとクワンのフリーの順位点の差が2になり、それ以外のときはスルツカヤが上位でも下位でも、ヒューズとクワンのフリーの順位点の差は1のままだということによる。
 通常の総合得点方式の感覚なら、最終演技を前にして、暫定1位のクワンと最終演技者のスルツカヤの金メダル争いのはずだ。ところが、神様のいたずらか、あるいは作為的なものがあったのか、スルツカヤがフリーで2位となり、ヒューズに金メダルが転がり込んだのである(感覚的に)。

 当時の日本の実況も、その可能性に気づいていず、スルツカヤのフリーが2位になった瞬間、ヒューズの喚起する様子が国際映像に映し出されたが、状況が把握できず言葉が出ない状況に陥った。



③ショートプログラムが僅差の内容であっても、順位が低いと逆転は不可能に近い

 私は、これが一番の欠点だと考えている。
 たとえば、ショートプログラムが
1位 A選手 得点 71点
2位 B選手 得点 70点
3位 C選手 得点 69点
4位 D選手 得点 68.5点
5位 E選手 得点 68.4点
6位 F選手 得点 68.2点
7位 G選手 得点 68.1点
と僅差だった場合、現行方式だと7位のG選手も逆転優勝は充分に狙えます。

ところが、これが順位点方式だと
1位 A選手 順位点 0.5点
2位 B選手 順位点 1.0点
3位 C選手 順位点 1.5点
4位 D選手 順位点 2.0点
5位 E選手 順位点 2.5点
6位 F選手 順位点 3.0点
7位 G選手 順位点 3.5点
となります。

 6位のF選手が金メダルを取る可能性を考えると、相当難しい。
 F選手がフリーで1位だったとして総合の順位点は3.0+1.0=4.0となる。この場合、SP1位のA選手がフリーが3位でも総合順位点は3.5となりF選手を上回る。
 仮にA選手が4位となってF選手を下回っても(総合順位点4.5)、SP2位のB選手やSP3位のC選手が2位になってしまうと、F選手は優勝できない。見た目以上に逆転優勝(あるいは大きな順位の挽回)は難しいのである。
 現行方式だと、他のすべての選手に対して3点上回ればよいので、逆転優勝の可能性ははるかに大きいと言える。


 私は順位点方式は、大雑把で主観的であるが、それなりに有効な採点方式だと思っているが、③の欠点が大きくて支持できない。
 ショートプログラムを予選(フリー演技者の数を絞ったり、フリーの演技順を決める)にして、フリーのみの決勝順位点方式なら有り得るかなと思っている。


 嗚呼、これだけ書いても、本題に辿り着けない……
コメント (2)
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