“羽生くん”と馴れ馴れしく声を掛けてしまったが、豊島八段の収束手順を観て、こんなセリフが浮かんでしまった……
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図の羽生棋聖の△3九飛は形作りの一着。
残り時間5分の豊島八段だったが、4分の考慮……1分将棋になるまで考えて5三に金を打った。
詰めろ。しかも必至だ。羽生棋聖の△6二金は“受けてみただけの手”で、▲5二角成△同銀▲4二金打の筋は防いでいるが、▲4二金打以下の詰みは逃れていない。
△6二金を指さずに投了もあったが、とどめを刺してもらおう(詰めてもらおう)と首を差し出したのだ。
△6二金に▲4二金打△同銀と進み、
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……………▲6二金!
詰まさなかった。
持時間を全部使った疲労の上、1分将棋ということもあるとはいえ、豊島八段なら容易な詰みである。それに、直前の▲5三金の時に読みを入れているのである。
複雑なところがあるのならともかく、これでは、差し出した首を斬らず、刀を握っている腕を切り落としたような指し手だ。
もちろん、大事な一局、“石橋をたたいて渡る”慎重さは理解できるし、否定も非難もするべきではない。しかし…………………
で、記事タイトルの「羽生くん、少し怒っていいよ」となったわけである。
あくまで怒るのは“少し”。(他の方は分からないが、私は“少し”怒っているときの方がよく読めるような気がする。怖い変化も踏み込めるし。もちろん、“頭に血が上る”ほど熱くなっては駄目なのは言うまでもない)
将棋を振り返ろう。
角交換相腰掛け銀で今流行の「2九飛・4八金型(8一飛・6二金型)から、先手番の豊島八段の▲6六歩型に、羽生棋聖が△4四歩と追従せず△6五歩と先攻し、豊島八段が▲6五同歩△同銀に▲5八玉と柔軟に対応、以下△3五歩▲同歩△4四銀(第0図)と積極的に動いた。
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しかし、“前のめり”気味。
以下▲4五桂△8六歩▲同歩△5六銀▲同歩△6五桂▲6六銀△4五銀▲同歩△3六桂と先手陣に斬り掛かるが、ますます“前のめり”感が強くなった。
これに対し、豊島八段は素直に応じる。そして、△3六桂に手抜きで▲6三歩!(第1図)
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△3六桂は金取りなので、金を躱しておきたいところだが、放置して手裏剣を飛ばす。これが絶好のタイミング。“一閃”という言葉がぴったり当てはまりそうな▲6三歩だった(△6三同金は▲7二角がある)。
△3六桂も▲6三歩も同じ金取りで、先に打った△3六桂に優先権があり、しかも王手になるので優位性がありそうだ。≪△4八桂成▲同玉≫と≪▲6二歩成≫と進んだ時の厳しさは後者の方が強い。駒の損得は後者に利があり、何よりと金が残るのが大きい。
なので、△4八桂成と金を取っても、自陣の金取りに手を戻さなければならない。それなら、先に▲6三歩に対処し、△4八桂成と形を決めずに金取りを残しておいた方が先手も対応しにくい。
そこで羽生棋聖は△5二玉と躱したのだが、さらに手抜きの▲7三角が攻守に睨みを利かす絶大な存在となった。6二のと金造りを見せると同時に、4六、3七の地点をカバーしている。
△6三金と角当たりで先手を取りつつ、と金づくりを防ぐことは出来るが、▲4六角成で馬の存在が大きすぎる。そこで、羽生棋聖は△4八桂成▲同玉に△3六歩と垂らす。次に△3七角と打って7三の角を消す狙いだ。
しかし、またこの瞬間に▲3四桂を利かされてしまった。
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△3一玉と逃げたいが、▲6二歩成△3七角に▲5八玉△7三角成▲5二とが痛すぎる。そこで、▲6二歩成に△3七角が利くように△4一玉と逃げる(▲5八玉△7三角成▲5二とに△同玉と取れる。とは言え、▲3四桂と楔(くさび)を打ち込まれた上、4一に玉を躱さなければならないのは辛すぎる。
戻って、▲7三角には△9三角▲7五歩△8二角の方が、まだ良かったらしい。
「7筋の歩を突かせたほうが、後手が飛車を使うときには利いてきそうです。以下▲同角成△同飛▲5五角(と金づくりを見て▲7三角もあるが△8六飛が6六の銀当たりになる)△8六飛▲8七歩に△8五角で歩合いが利かないといってどうか。しかし桂が先手に渡ると▲3四桂が厳しすぎますからね」(斎藤慎七段)【中継解説より】
とにかく、前のめりの仕掛けの反動が大きかった。
この後、豊島八段の▲4六銀が手厚さを求めすぎてやや変調で、△6三金に▲5五角成(4六に銀がいて深く引けない)に、
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馬当たりで△5四金と出られて(手順に▲7二銀の両取りを回避)一瞬難しくなったか思われたが、▲5四同馬△同歩▲5三銀が3四の桂と連動して厳し過ぎた。
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感想戦では
「金を出てからはダメですね」(羽生)
代えて△3七銀▲同銀△同歩成▲同馬△3三桂(変化図)がまさった。
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以下(A)▲4六銀△5四金▲3六馬に△3七歩で、▲6九飛という手はあるものの「こちらもかなり嫌な変化ですよね」と豊島。また(B)▲3六銀とひとつ隣から打つのは、△5四金▲2四歩△同歩▲2三歩△4五桂▲同銀△同金▲4二歩△5二玉が一例。
「このほうがよかったですね。△3七銀と打って勝負すべきでした」(羽生)
とあるが、変化図以下の変化では後手に勝機があるとは思えない。
繰り返しになるが、後手の仕掛けが前のめり過ぎた将棋だった。
※局後の感想※
「正確に指せれば、という局面が続いた将棋でした」(豊島)
「元々の仕掛けがやりすぎていたのかもしれません」(羽生)
名人戦第4局(対佐藤天名人)、王座戦決勝トーナメント1回戦(対深浦九段)、名人戦第5局(対佐藤名人)、王位戦挑戦者決定戦(対豊島八段)、棋聖戦第1局(対豊島八段)と5連敗。内容も良くない。
ここ数年、時折見られる“低迷期”に入ったのかもしれない。永世7冠を達成した安堵感もによるものかもしれない。でも、5連敗もしたのだから、そろそろ終息すると期待したい。
この将棋の収束に少しだけ怒って、復活して欲しいものだ。
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図の羽生棋聖の△3九飛は形作りの一着。
残り時間5分の豊島八段だったが、4分の考慮……1分将棋になるまで考えて5三に金を打った。
詰めろ。しかも必至だ。羽生棋聖の△6二金は“受けてみただけの手”で、▲5二角成△同銀▲4二金打の筋は防いでいるが、▲4二金打以下の詰みは逃れていない。
△6二金を指さずに投了もあったが、とどめを刺してもらおう(詰めてもらおう)と首を差し出したのだ。
△6二金に▲4二金打△同銀と進み、
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……………▲6二金!
詰まさなかった。
持時間を全部使った疲労の上、1分将棋ということもあるとはいえ、豊島八段なら容易な詰みである。それに、直前の▲5三金の時に読みを入れているのである。
複雑なところがあるのならともかく、これでは、差し出した首を斬らず、刀を握っている腕を切り落としたような指し手だ。
もちろん、大事な一局、“石橋をたたいて渡る”慎重さは理解できるし、否定も非難もするべきではない。しかし…………………
で、記事タイトルの「羽生くん、少し怒っていいよ」となったわけである。
あくまで怒るのは“少し”。(他の方は分からないが、私は“少し”怒っているときの方がよく読めるような気がする。怖い変化も踏み込めるし。もちろん、“頭に血が上る”ほど熱くなっては駄目なのは言うまでもない)
将棋を振り返ろう。
角交換相腰掛け銀で今流行の「2九飛・4八金型(8一飛・6二金型)から、先手番の豊島八段の▲6六歩型に、羽生棋聖が△4四歩と追従せず△6五歩と先攻し、豊島八段が▲6五同歩△同銀に▲5八玉と柔軟に対応、以下△3五歩▲同歩△4四銀(第0図)と積極的に動いた。
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しかし、“前のめり”気味。
以下▲4五桂△8六歩▲同歩△5六銀▲同歩△6五桂▲6六銀△4五銀▲同歩△3六桂と先手陣に斬り掛かるが、ますます“前のめり”感が強くなった。
これに対し、豊島八段は素直に応じる。そして、△3六桂に手抜きで▲6三歩!(第1図)
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△3六桂は金取りなので、金を躱しておきたいところだが、放置して手裏剣を飛ばす。これが絶好のタイミング。“一閃”という言葉がぴったり当てはまりそうな▲6三歩だった(△6三同金は▲7二角がある)。
△3六桂も▲6三歩も同じ金取りで、先に打った△3六桂に優先権があり、しかも王手になるので優位性がありそうだ。≪△4八桂成▲同玉≫と≪▲6二歩成≫と進んだ時の厳しさは後者の方が強い。駒の損得は後者に利があり、何よりと金が残るのが大きい。
なので、△4八桂成と金を取っても、自陣の金取りに手を戻さなければならない。それなら、先に▲6三歩に対処し、△4八桂成と形を決めずに金取りを残しておいた方が先手も対応しにくい。
そこで羽生棋聖は△5二玉と躱したのだが、さらに手抜きの▲7三角が攻守に睨みを利かす絶大な存在となった。6二のと金造りを見せると同時に、4六、3七の地点をカバーしている。
△6三金と角当たりで先手を取りつつ、と金づくりを防ぐことは出来るが、▲4六角成で馬の存在が大きすぎる。そこで、羽生棋聖は△4八桂成▲同玉に△3六歩と垂らす。次に△3七角と打って7三の角を消す狙いだ。
しかし、またこの瞬間に▲3四桂を利かされてしまった。
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△3一玉と逃げたいが、▲6二歩成△3七角に▲5八玉△7三角成▲5二とが痛すぎる。そこで、▲6二歩成に△3七角が利くように△4一玉と逃げる(▲5八玉△7三角成▲5二とに△同玉と取れる。とは言え、▲3四桂と楔(くさび)を打ち込まれた上、4一に玉を躱さなければならないのは辛すぎる。
戻って、▲7三角には△9三角▲7五歩△8二角の方が、まだ良かったらしい。
「7筋の歩を突かせたほうが、後手が飛車を使うときには利いてきそうです。以下▲同角成△同飛▲5五角(と金づくりを見て▲7三角もあるが△8六飛が6六の銀当たりになる)△8六飛▲8七歩に△8五角で歩合いが利かないといってどうか。しかし桂が先手に渡ると▲3四桂が厳しすぎますからね」(斎藤慎七段)【中継解説より】
とにかく、前のめりの仕掛けの反動が大きかった。
この後、豊島八段の▲4六銀が手厚さを求めすぎてやや変調で、△6三金に▲5五角成(4六に銀がいて深く引けない)に、
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馬当たりで△5四金と出られて(手順に▲7二銀の両取りを回避)一瞬難しくなったか思われたが、▲5四同馬△同歩▲5三銀が3四の桂と連動して厳し過ぎた。
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「金を出てからはダメですね」(羽生)
代えて△3七銀▲同銀△同歩成▲同馬△3三桂(変化図)がまさった。
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以下(A)▲4六銀△5四金▲3六馬に△3七歩で、▲6九飛という手はあるものの「こちらもかなり嫌な変化ですよね」と豊島。また(B)▲3六銀とひとつ隣から打つのは、△5四金▲2四歩△同歩▲2三歩△4五桂▲同銀△同金▲4二歩△5二玉が一例。
「このほうがよかったですね。△3七銀と打って勝負すべきでした」(羽生)
とあるが、変化図以下の変化では後手に勝機があるとは思えない。
繰り返しになるが、後手の仕掛けが前のめり過ぎた将棋だった。
※局後の感想※
「正確に指せれば、という局面が続いた将棋でした」(豊島)
「元々の仕掛けがやりすぎていたのかもしれません」(羽生)
名人戦第4局(対佐藤天名人)、王座戦決勝トーナメント1回戦(対深浦九段)、名人戦第5局(対佐藤名人)、王位戦挑戦者決定戦(対豊島八段)、棋聖戦第1局(対豊島八段)と5連敗。内容も良くない。
ここ数年、時折見られる“低迷期”に入ったのかもしれない。永世7冠を達成した安堵感もによるものかもしれない。でも、5連敗もしたのだから、そろそろ終息すると期待したい。
この将棋の収束に少しだけ怒って、復活して欲しいものだ。