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第1図はひとつの分岐点。
『将棋世界』の企画「東西対抗フレッシュ勝ち抜き戦」の佐藤天彦五段×稲葉陽四段戦で佐藤五段が指した新手が図の▲5六飛(従来は▲7六飛)。
この将棋は▲5六飛以下、△6二銀▲3六歩△5四歩▲3三角成△同銀▲3五歩△5五歩(三浦×羽生戦は△4四銀)と進んだ。ここで佐藤五段の予定は▲2六飛だったが、△2三歩とじっくりされても△2四飛と激しくこられても自信がなく、予定を変更して▲3六飛とさしたものの、△2四飛に▲2七歩と受けさせられて、作戦負けに陥っている。
この将棋の情報を稲葉四段から直接仕入れた糸谷五段は、すぐさま豊島五段にこの新手をぶつけ快勝している。
糸谷五段は、角交換はしないほうが後手の動きが制約されると考え、▲5六飛以下△6二銀▲3六歩△5四歩▲3五歩△5五歩▲3六飛△5三銀▲3七銀△4四銀▲6八銀△4五銀▲7六飛△2四飛▲2七歩△6四飛▲6六飛と進めている。
さて、本局は佐藤天×稲葉戦を踏襲した。途中、第2図の▲3六歩に三浦八段は80分以上の長考をした。
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この手は渡辺竜王も言っていたが、凝り形の先手の金銀桂の活用を計りつつ、3筋の攻めを見た必然手に見える。この手に長考するのは不可解な気がするが、三浦八段は常人が気にしない細部に至るまで読んでいたのだろう。
ともかく、本局は第2図以下、△5四歩▲3三角成△同銀▲3五歩と進み、羽生名人の封じ手で第1日を終えた。
封じ手は△4四銀で、佐藤天×稲葉戦とここで離れた。
本局の△2四銀も佐藤天×稲葉戦の△5五歩の展開も、先手から角交換したことによって、自然と後手の左銀が進出でき、さらに△5五歩の筋(▲5五同飛なら△4四角)が生じたのは、先手としては損な気がする。
さて、△4四銀に▲3六飛(第3図)は三浦八段の苦心の手。
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控え室の検討では▲2六飛と回り△2三歩と受けさせる変化が検討されていて▲3六飛は最初は評判が良くなかった。しかし、この手に△4五銀とすると▲2六飛△2三歩▲3七桂で銀が詰む。しばらくして、▲3六飛の評価が上がってきたとのこと。
さらに、この手にはある狙いがあった(後述)。
▲3六飛以下、△5五歩▲6八銀△7四歩▲7六飛△5四角(第4図)。
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この△5四角では△7五歩▲同飛△5六歩もあったようだ。この手を局後指摘された羽生名人は、「△5四角は変だったかも」という感想。ただ、この変化はかなり突っ込んだところまで読まないと指せない。(中継サイトには変化示されていましたが、有料サイトなのですべてここに載せるのは気がひけます。と言っても、ここまで、結構、載せちゃっているような気も)
しかし、本譜の△5四角に▲6六飛△7五歩と進む展開は、先手は飛車がウロウロしているだけのようなのに対して、後手は着々と陣を張っていて、後手ペースのように感じる。
ここで三浦八段は狙いの一着を放つ。▲2三歩(第5図》。
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この歩を打ちたいがために、▲2六飛を利かさなかったのだ。
この歩は次に▲2二角と打ち込む狙い。△3六歩として▲2二角に△同金▲同歩成△3三桂と進める順もあるが、羽生名人は△2三同金と応じ、以下▲2四歩△2二金▲3四角(▲2六飛は△2五歩▲同飛△3六角で大丈夫)△3三金▲2三歩成△3四金▲同歩と進める。
以下少し進んで第6図。後手は5二に玉をかわし、△3六歩と先手の飛車金銀桂の活用を抑える。その間、先手は桂香を拾い手駒を増やした。
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図では先手の3枚換えの駒得(正確には金桂香対角歩歩)と後手の駒の効率のよさの対抗となっており、後手ややよしとの評判。
しかし、羽生名人は「駒損が大きく難しかった」と言うような感想。たしかに、後手にすれば、後手の指し手に少しでも破綻が生じればたちまち窮地に追い込まれる。たとえば、今は圧迫されている飛車が飛車や角と交換になったり、敵陣に成り込めたりする。あるいは、先手の金桂香のうち2枚と後手の大駒と刺し違えることが出来れば、残った駒の分が純粋に駒得になる。
後手を持って勝ち切るのは大変かもしれない。
実際に第6図では▲9五金△8三飛▲8五金△同飛に▲8六香と飛車を捕獲する手順が生じていた。しかし、これで先手良しかというとそうではなく、控え室の研究では「▲9五金△8三飛▲8五金に△2七歩▲同銀△8五飛▲8六香△2八歩▲同金△9五金▲8五香△9六金▲同歩△3九飛の攻め合いは後手が良い」と、また、三浦八段は「▲9五金△8三飛▲8五金△同飛▲8六香に△8四歩!という手がありよくない」と。さすが対局者はよく読んでいる。
そこで三浦八段は▲7七桂△7三桂▲4六香(第7図》と攻める。
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控え室やBSの解説では▲4六桂や▲2七銀が調べられていて、本譜の進行は手順に△5三銀引と固めさせて(手抜きで△9四歩も有力)損なのではという意見が多かった。
▲4六香の狙いは△5三銀引に▲5六歩と角頭を攻め飛車の活用すること。
羽生名人は素直に応じ▲5六歩に△7四飛(△6四銀もあった)と先手の飛車を攻めるのを止め、先手の桂頭に狙いを定めた。先の▲7七桂を逆用している。
△7四飛に先手も▲5五歩と後手の角頭を攻め先手の飛車の活用のめどが立った。時折対局者の様子が映し出されるが、三浦八段の表情は手ごたえを感じているように感じられた。
しかし、BS中継の深浦王位は「▲4六香の構想があまりよくなく、形勢に差がついた」とも。深浦王位の羽生名人の将棋の形勢判断は辛目なので、羽生ファンとしては心強い言葉だ。
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と、ここまでは、羽生名人の指し手は順調。しかし、▲5五歩に△6三角がつまづきの始まりだった。