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「水落君、今度遊びに行っていい?」
武ちゃんと同じ2歳年上の和歌山水落君の家を訪ねます。
朝、南海高野線に乗り、和歌山方面に向かいました。
電車は殺風景な河内長野を通過すると和歌山県に突入します。
「学文路(かむろ)駅」に到着しました。
学文路駅は和歌山橋本市の外れにありました。
学文路駅の「5枚綴りの入場券」は受験シーズンに人気でした。
5(ご)、入場券(入)、学文路(学)、で「ご入学」なのだそうです。
駅は高台にあり、長い階段を下ります。
下り終える頃に水落君が迎えに来てくれました。
水落「遠かったやろ」
上田「いつもここから難波に通ってるんやね~、大変や」
橋本市の街は川向こうにあるらしく、川沿いの田舎道を歩きました。
水落「この川、紀ノ川やで、そこそこ有名ちゃう?」
上田「知ってる知ってる、何かウチの田舎と似てるな~」
車のすれ違いが困難な細い道路をクネクネと上ります。
坂道には住宅が密集していて、その中に水落君の家がありました。
水落君は母親とお婆ちゃんとの3人暮しでした。
上田「おじゃましま~す」
水落母「上田君一人暮しやろ~?後でご馳走してあげるサカイ」
「楽しみにしとき~」
離れにある水落君の部屋に行きました。
部屋に入ってすぐに目に付いたのは大きな船の模型でした。
上田「これ何の船?」
水落「日本丸、知らへんの?」
「海洋学校で航海の訓練に使う船よ、昔今治でコレに乗っててんよ」
上田「へ~~」
「ところで関美の先生はどう?慣れた?」
水落「今年の生徒は悪いワ!僕らの頃みたい(笑)」
上田「ハハハ~、そりゃヒドイね」
水落「しかし上田君根性あるな~」
「まだ店探ししてるんやろ?」
「僕なんかとっくにケツ割ってんのに・・」
「僕が初めて就職した店は奈良五條の大型店でな~」
「シェービングで手が震えるヤツなんかイラン!とか言われてな」
「『いつでも辞めてくれてええで』やて・・冷たいもんや」
「同じ新人より歳くってるからな・・冗談に聞こえへんかったワ」
「他にもいろいろいじめられてな~」
「上田君がええタイミングで関美職員の話をくれたんよ」
上田「そうやったんや」
「でも、いずれは散髪屋に戻るんやろ?」
水落「いや、もう散髪屋は目指さへんと思うワ」
「自分はやっぱり客商売より会社員向きかな・・」
部屋のドアが開きました。
水落母「お昼食べましょか~」
母屋に招待されると、大皿にお寿司が並んでいました。
久しぶりの豪華な食事は、米のひと粒ひと粒が美味しく感じました。
水落「魚は高知のほうがエエのと違う?」
上田「無職の今は何食ってもおいしいですワ・・、いやホンマに」
水落「上田君ビール好きやろ?昼間やけどエエやろ・・」
キンキンに冷えたビールがコップに注がれました。
水落「いいお店が見つかるといいね~」
上田「さすがに悩むワ~」
「自分が正しいのか、間違っているのか・・」
「自分でもようワカランなってきたし・・」
「今すぐにでも働きたいんやけどね」
水落「もっとゆっくり考えてもエエんちゃう?」
「上田君まだ二十歳やろ?」
上田「ハハハ、武ちゃんにも同じ事言われましたワ・・」
久しぶりに食べた高級料理がイケなかったのか、
冷えたビールがイケなかったのか、
お腹が痛くなりトイレに向かいました。
トイレに行く途中にお婆ちゃんとすれ違いました。
婆ちゃん「カッちゃん(水落君)か?、何か変わったな~」
上田「あ、いや僕は・・・」
お婆ちゃんは僕と水落君を間違えたまま少しの間喋りました。。
夕方になりました。
水落「何やったら、泊まっていってもいいんやで」
上田「いや、もう帰りますワ、ご馳走さまでした~」
水落「学校で募集来たらすぐに連絡するから・・」
上田「よろしく。」
「やっぱり、こんな時は人に会うのがエエな~」
夕暮れの坂道を下り、紀ノ川に出ました。
川原のある川の風景は癒されます。
「やっぱり、頑張るしかないな」
学文路駅では、
「5枚綴りの入場券」を買おうとポケットに手を突っ込みました。
わずか500円の券にお金が足りませんでした。
すんなりと「ご入学」とはいかないようです。
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先生らしくなった水落君と
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