■55■
【4月中旬】
「上田店長!」
ノックもせずに裏口ドアから長島先生が飛び込んできました。
長島「ヘアテック入りたいって子が来てるけどどうする?面接する?」
上田「会わせてください!!」
初めての自分のスタッフ、
予想が違い、若い女性でした・・・。
「よろしくぅおねがいしま~~す」
まったりと挨拶をしてくる女性は、
髪は背中まで長く茶髪で、サーフィンが趣味らしく春でも顔は日焼けしていました。
ブルーのアイシャドウが目をひき、爪も赤く伸ばしています。
「ポ~」っとした雰囲気は、
いかにも「仕事が出来そうにない感」に包まれていました。
しかし、今この状況ではそんなモン関係ありません。
上田「とりあえず明日から来れますか?あ、お名前は?」
女性「カワシマでぇ~~す」
とりあえずカワシマさんを帰し、長島先生に尋ねました。
上田「先生・・、大丈夫ですよね・・ね?」
長島「関美出身やから大丈夫やろ」(そこが一番心配・・)
コラージュに顔を出し、
翌日からの女性スタッフ入店を吉福店長に知らせました。
上田「ちなみに吉福君、専門学校は何処やった?」
吉福「高津です。」(やっぱエリートか・・)
【翌日】、
『川島』は何の緊張感も無く出勤しました。
新人川島には、最初に鏡を拭いてもらいました。
上田「川島さんの全力で鏡を拭いてみて」
水の入った霧吹きと乾いたタオルを渡しました。
早速川島は鏡全体に霧吹きを吹き、タオルで拭き始めました。
おおかた丁寧に拭いて終わりました。
上田「ヨシ、なかなか丁寧やな。」
「しかしまだ甘い、」
「川島さんの位置から見て綺麗に拭けてるかもしれんが、」
「僕の位置から見ると数箇所に曇りが見える。」
「こっちに来てみ」
「鏡を拭くときには鏡の正面だけを見て拭いたらアカン」
「横から見て、少し下から見て、色んな角度から見なアカン」
「これはお客さんのCUTや全てに同じです。」
朝、出勤して最初の仕事は鏡を拭かせました。
『考えて拭く鏡』
ここから入ると、その他の掃除・レッスン・仕事も『少し考える』ようになります。
「どうすれば綺麗になるのか?」
「どうすればお客さんは気持ちがいいのか?」
迷った時のすべての原点になるように、「朝の鏡拭き」は大事にしました。
まだまだお店は暇で、おおかたレッスンに費やせました。
「川島」の実力を少し見てみました。
【シャンプーレッスン】
自分がモデルとなり、出来るかどうか見てみました。
「大きくは問題なし」
【シェービング(顔剃り)レッスン】
・・・ウマイ、即戦力!!。
上田「上等!上手やね~、特に言うこと無しです!!」
川島「ありがとーございまぁ~す」
『川島ヨシコ』、インターン(女)
19歳、見た目はヤンキー娘、でも見た目と違いかなり真面目、
口が開きっぱなしなんでよくヨダレを流す。
派手目な化粧が好き。前髪命!
川島「あのぉ~、店長ぉ~、」
「この制服のベスト、胸キツいんですけどぉ~」(Fカップ)
上田「・・・我慢し。」
こうして「ヘアテック」は『2人体制』となりました。
上田「川島って古内東子に似てんな~」
「言われへんか?」
川島「誰ですかぁ~、それ?」
4月売上、まだまだ赤字。
胃が痛いが、お客さんの反応にも「手ごたえ」を感じる。
シェービングの上手い「ヨシコ」も戦力になっている。
まだ週に1度はチラシを配り続ける。
上田「こら!ヨシコーッ!タバコは隠れて吸えー!!」
5月売上、「2割引期間」終了。
専門学校はすぐ近くに結婚式場『高砂殿』も経営しており、
「社員割引」(50%オフ)を発行、
「紹介カード」(20%オフ)も発行して再度新規客獲得に力を注ぐ。
コラージュの売上げは当初の目標達成。
頑張らなくては・・・。
上田「こら!ヨシコーッ!空き缶を灰皿にすんなー!!」
「コラージュ」は連日の早出、終電までのレッスンでお店の質を高めます。
(若いスタッフ、よう辞めていかんな~)
ウチは暇なんで営業中に嫌がるヨシコをなだめすかしレッスン。
上田「ヨシコ!ウチもたまには終電までレッスンしようや!」
ヨシコ「嫌です。」(即答)
カルテはかなり細かく書きこみました。
髪の毛のクセ、細かい失敗、会話で得た情報、その方の理想のスタイル。
100万人いれば100万通りのカルテが出来上がり、
お客さん一人一人に真正面から向き合わなければなりません。
また、カルテに頼りすぎてもいけません。
「人」はいとも簡単に前言を撤回します。
生きている人間に接するには、こちら側が「生きて」いないといけません。
五感を研ぎ澄まし、生きた情報で動かないと失敗します。
でも、その基本となるのはやはりカルテなのです。
「この店主は自分の事をよく理解してくれている」
こう思って頂く安心感で、さらに奥深い情報を得られます。
そういう作業を繰り返し、お客さんが本当に希望するヘアスタイル、
癒しの空間が作れるのだと考えます。
そんなこんなで閉店後のカルテ整理だけで遅い帰宅となりました。
6月売上、やっと最初の目標額達成。
社長に報告、
上田「上向きなんでもう少しだけ長い目でみて下さい、スミマセン」
自分に気合を入れるために始発電車に乗り出勤しました。
難波に着き、まだ薄暗い中職場まで歩いていると、
信じられない事にハンバーガーショップから長蛇の列が出来ていました。
並んでいるのはあやしいオッサンばかりです。
何事か様子を眺めていると、古くなったパンを配っていました。
難波南側のこの地域はすぐ隣に西成区があります。
西成区は「日雇い労働者」が道端でたくさん寝ていたり、
難波にはたくさんの「浮浪者」が軒先で寝ていたりしていました。
ハンバーガーショップのすばらしいボランティアでした。
「いつの日か自分も散髪でこういうボランティアをしないと・・」
そう思いました。
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