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「入学式」を迎えました。
「頑張ってくるんやでぇ~~」
二人のオバサンに見送られアパートを出ました。
慣れないネクタイに苦労しながら南海電車に駆け込みました。
朝9時を過ぎるとラッシュ時の混雑はありません。
自分と同じ制服の二人組の女性を見つけました。
何やら楽しそうに喋っています。
その様子からは緊張感は少しも感じられません。
「都会人の余裕なのか・・」
(自分なんか揺れる電車に立っているだけで大変なのに・・)
停車駅毎に同じ制服が乗り込んできました。
近くに居た乗客達が言いました、
「コイツら何処の制服や!?」
「カンビか?」
「あ~関美や、関美」
何か馬鹿にしているような口調が少し気になりました。
「難波」に着く頃には同じ制服の人達が長い列を作りました。
紺のブレザーの上下、白シャツに赤ネクタイ、
胸には赤く「KBC」のロゴマーク、
(カンサイ・ビューティー・カレッジ)
それに「レノマ」もどきのこげ茶の大きな手提げカバン。
「入学式」は約300人の若者が集まりました。
2階の大教室は人で埋め尽くされました。
パイプ椅子の連結なので、
普通に座っていても両隣の女性に肩が当たってしまいます。
そんな事を気にしながら辺りを見渡すと、やたらと金髪が目立ちました。
田舎ではこんな金髪の集団にはなかなかお目にかかれません。
「校長先生」は70代位の背中の曲がったおばあちゃんでした。
どうやら入れ歯らしく、
話の合間に「カラコロカラコロ」と音がします。
とても年季の入った大阪弁で、
「まあ皆、一生懸命に頑張ってナ・・カラコロ」
「せやけど途中やめたらアカンでぇ~・・カラコロ」
などのらりくらりと喋ります。
他の先生方が一緒になって笑っている姿を見て「名物校長なのかな?」と思いました。
大阪府知事代理、大阪市長代理、○○代理など「代理組」の長~い話の後、
国歌斉唱に続き「校歌斉唱」ということで小さなプリントが配られ、
初めての校歌を合唱します。(歌える訳ない!!)
「白い仕事着 明るい陽ざし~♪」
「若い指から 産まれる美人(ビーナス)~♪」
「香るシャンプー 光る髪~~♪」
「仕上げのスプレー虹をはく~♪」
「ああ~われら関西美容生~~~♪」
(何じゃ?この校歌・・・)
「社会を正す 聖業も~♪」
「家庭を整える 幸福も~♪」
「髪ひとすじの 誠から~♪」
「握るわが手の 鏝(コテ)鋏~♪」
「ああ~われら関西理容生~♪」
(・・・)
声にならない「んー」とか「ふー」とか、
変な合唱が大教室に響きました。
入学式も終わりに差し掛かった頃、一人の職員が言いました。
「皆さん!これから各教室に移動して頂きます!」
「そこで各担任よりお話・説明などがありますので・・」
「・・それではまず理容科の皆さんに移動して頂きます!」
「理容科の皆さんお立ちください!!」
300人の中から理容科の人達がポツポツと立ち上がりました。
茶髪で化粧の厚いおねえさん方とはひと味もふた味も違い、
「もっさい」野郎どもばかりです。
女の子も数人いました。
人間観察も兼ねて、別教室に向かう列の最後尾に付けました。
最後に教室に入ると当然空いている席は一つだけでした。
何と、すぐ隣はどう見ても『おばちゃん』が座っていました。
それどころか落ち着いて辺りを見渡すと年齢は様々でした。
「あっ」
受験会場にいた「丸坊主君」もいます。
ピリピリとした緊張感の中で白衣姿の先生二人が口を開きました。
「皆さん、一年間よろしくお願いします!」
「私が主任の長島です」
『長島先生』
少し大柄でジャンボ鶴田似、
自分より一回り年上、男の子二人の父、
性格は穏やか、無駄を嫌う、巨人ファン。
「私が副主任の古尾です、よろしくお願いします!」
『古尾先生』
細身のピノキオ顔、
7:3分頭で、垂れてくる前髪を中指で持ち上げるのがクセ、
独身、かなり神経質、
長島先生より少しだけ年上らしい
この他に『藤本先生』(20代の少し太め、ニキビ顔)がいて、
この3人が理容科の担任でした。
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