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それから2年が過ぎ、25歳を迎える頃。
「新ターニン」はそこそこ忙しくなりましたが、マンネリ化に悩むようになりました。
若いお客さんはCUT出来るようになりましたが、
年配のお客さんはマスター専門で、何よりお年寄り・幼児などが周辺にほとんどいないので、
それ以上の技術の向上が望めませんでした。
ちょうどその頃、実家から電話がありました。
「親父が膀胱ガンで手術をするので帰って来い」というものでした。
膀胱を全部摘出し、小腸の一部を切り取って袋状に縫い上げ、
それを人口膀胱として使うという8時間にも渡る大手術でした。
手術は無事成功しましたが、おなかの横に管を突っ込んで尿を出すという体になりました。
少し元気になり、病院近所の堤防を散歩した時
「よう見よけ、これがオラの立ちションぞ」と言って
横腹から尿を飛ばす親父の姿はとても悲しいものでした。
気が付くと2週間以上もお店を休んでいました。
中村を飛び出してからこんなに長い帰省は初めてでした。
(盆3日・正月3日しか長期の休みはありません)
田舎の友達やいろんな人に「早く帰って来い」と言われました。
しかし、ここに帰って来る時は『独立』する時です。
大阪でまだやり残している事がたくさんありました・・
お店に出向き、すぐに辞める事を伝えました。
「次の人が入るまで待って欲しい」と言われましたが
一刻も早く次の行動に出たかったので一方的に辞めました。
「ここで立ち止まっている場合じゃない・・」
学校に顔を出しました。
「水落君」と「長島先生」にそれぞれ相談事を持ちかけられました。
「水落君」は関美職員を辞めて
地元和歌山の不動産会社に就職するそうで、
「もう散髪屋せえへんやろうから・・上田君これ使ってや」
と理容道具一式を渡されました。
もう鋏の大事さをちゃんと知っている僕は、
鋏は受け取らず「赤い櫛」と「カミソリ」だけを受け取りました。
水落君の「思い」も一緒に受け取った気がして身が引締まりました。
「長島先生」の相談は
西田辺にある散髪屋の店主が高齢の為に引退するそうで、
引き続きやる人がいれば権利を売ってくれるらしく、
長澤先生が権利買うとしたら僕にやってもらえるか?というものでした。
つまり『長島先生の店で店長やってくれるか?』ということです。
とりあえず一緒にお店を見に行くことにしました。
「西田辺」に着くとすぐに「歩道橋」が目に入りました。
以前「店さがし」に疲れ果ててへたり込んだ歩道橋・・・
早歩きの長島先生に置いていかれそうになり先を急ぎました。
そのお店は大通りを歩き、細い路地を曲がってすぐのところにありました。
目の前に大きなシャープの工場があり、立地条件は素晴らしいものでした。
お店はおじいさんがやっていたらしく、椅子2台がせいぜいの狭くて古ぼけたものでした。
「長島先生」が僕に望む条件は二つでした。
・お店の中の椅子や道具のほとんどを出来るだけそのまま使って欲しい。
・最低限の売上(家賃、自分の給料、光熱費など)は確保できるように頑張って欲しい。
やりたくて仕方がなかったのですが、
「若い子のCUTしか出来ない」
「経験しながら勉強するよりも、まだもう少し誰かにしっかりと習っておきたい」
「長島先生の恩を仇で返すことになりそうで恐い」
などの理由で見送ってもらうことにしました。
次に働くお店は
子供からお年寄りまでじゃんじゃん来る様なところを探しました。
「えひめ福嶋」の紹介で、
彼が以前勤めていた中津の『理容ラッシー』に行くことになりました。
「大衆理容」といって、CUT料金が千円から二千円ぐらいの安い値段の散髪屋があります。
「大衆理容」はセンスなど期待できず、「早さ」と「安さ」で勝負する店なのです。
しかし「安い」というのはお客さんにとってはやはり魅力で、
どこの「大衆理容」も必ず繁盛していました。
「大衆理容」で働くメリットは・・・
・早い技術を覚える
・老若男女問わず全てのCUTを体験できる
・忙しいので体が鍛えられる
・高給料
デメリットは・・・
・CUTパターンが数種類しかない。
・業界の発展、向上など考えていない。
・お客さん主体でなく、やる側主体なので性格が傲慢になる。
『理容ラッシー』はCUT料金2300円で、
大衆理容ではありませんが、周辺のお店からすると明らかに格安店でした。
僕は最初から「ここは2年間」と密かに心を決めていました。
2年位は辛抱しないと何も得られないし、
逆に2年以上いると『大衆感覚』に染まってしまうと考えたからです。
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