■15■
学校では「お寺研修」といって、
比叡山のあるお寺への1泊研修がありました。
バスの中では「えひめ福嶋」が横に座りました。
福嶋「アカン・・なんか勃ってきた・・やべ~のう」
「ジャージは特にやべ~のう」
「おい上田、見てみホラ、ヤバいやろ」
上田「キンキンやんお前・・何考えとんじゃ!?」
福嶋「お前のはどうや!?」
上田「アホかっ!!ヤメロっ!!」
すぐ前に座っていた女子「プッツン富長」「オカッパ中崎」が振り向き、
「アンタら最低ーやな!!ホモかっ!!」
バスは急勾配を上り始めました。
気温が下がり、窓ガラスが曇りました。
到着後、バスを降りると息が白く出ました。
「寒うぅ~」
早速お寺の大部屋に集まり、全員でお経を唱えました。
「摩訶般若波羅蜜多心経ー、かんじーざいぼーさつ・・・・」
少しでも経本から目を離すと、何処を読んでいるのか分からなくなります。
突然指名された理容科「堀江ネエさん」は、見事に般若心経を暗唱しました。
坊さん達が大喜びしました。
次に指名されたのは美容科パンチ君でした。
パンチ「マカッ・・マカッ・・マカマカ・・」
みんなゲラゲラと声を上げて笑いました。
襖が開いて竹刀を持った恐い坊さんが現れました。
突然の「武闘派坊主」の登場で、その場は静かになりました。
次は、道場に案内され「座禅」の精神修行です。
座禅中、背中からトントンと合図された者は、
肩を差し出し「ビシッ!!ビシッ!!」と棒で叩かれます。
邪念だらけの美容科のヤンキー姉ちゃんが予想通りキレました。
「何なんこれ!やってられへん!」
すると武闘派坊主が飛んできました。
「ビシッ!!」(平手でシバかれる音)
「何すんねん!痛いやんか!もう嫌や!帰るワ!!」
(ココ比叡山やで?)
「武闘派坊主」が脅しだけではないことが分かり、大半の連中はおとなしくなりました。
しかし、
理容科の「恐竜辻神」「平尾」(高校中退組)はやはり黙っていませんでした。
食事中(精進料理)は一切の私語禁止だったのですが、
「辻神」「平尾」はお構いなしに談笑していました。
精進料理は山菜・ゴマ豆腐など味の薄いおかずがほとんどで、
お好みで醤油をかけることを許されました。
好き嫌いの激しい「平尾」は醤油をどっぷりとかけていました。
料理の最後に小皿にお茶を注ぎ、箸でつまんだタクアンで小皿をきれいにします。
小皿から中皿、中皿から大皿、
それぞれに少し濁ったお茶を移しながら皿をきれいにしていきます。
最後にタクアンと一緒にそのお茶を飲み干して食事は終了です。
醤油をかけすぎた「平尾」の大皿のお茶はドドメ色になっていました。
辻神「ウヒャヒャヒャッ、いてまえー平尾!イッキや!!」
平尾「んぐっ、んぐっ、おえーーーっ!絶対無理や!」
「ワハハハハー!」
見るに見かねた「武闘派坊主」が、「平尾」を後ろからの「ヘッドロック」で
引きずりながら部屋の外に行きました。
「ビシッ!!ボコッ!!ダンッ!!バン!!バキッ!!」
聞こえてくる音だけでかなり殴られているのが分かりました。
障子が「スーッ」と静かに開きました。
顔がボッコボコに腫れ上がった「平尾」がうなだれて座りました。
・・・「辻神」が静かになりました。
翌日は「写経」がありました。
正座で長い間書かされます。
かなりしんどい作業ですが、もう反発するものはいません。
しかし「武闘派坊主」が恐くて静かになったのではなくて、
「平尾」に対する暴力が明らかに「やりすぎ」だったことでした。
「運動」の時間では、
武闘派坊主に追いかけられながら坂道ダッシュをし、
武闘派坊主に睨まれながら腕立て伏せをしました。
昼前にすべての行程が終了しました。
今まで厳しく接していた武闘派坊主達が「やさしい顔」になり、お寺の前で見送ってくれます。
しかし、
「理容科」の皆は顔が腫上がった「平野」が気になり、
「ありがとうございました」と言える状況ではありませんでした。
バスまでの遠い山道を帰る途中、誰かが立ち止まりました。
「おい、あの坊主ら、まだこっちに向かって手ェ振ってるで」
「辻神」がついに叫びました、
「おおーい!!カカッテこんかーい!」
「カカッテこんかーーい!」
すると大勢が堰を切ったように叫び始めました。
「クソ坊主ー!!コラー!!」
「クソ坊主ー!!許さへんぞー!!覚えとけよー!!」
「平尾」はうつむいたまま泣いていました。
「平尾」はそれが原因で学校をしばらく休みました。
「研修」はそれ以降無くなったそうです。
それから少し経った頃、
学校を辞める者が徐々に増え始めました。
「マネキン女子水口」が学校を辞めました。
福井のお父さんに連れ帰られたそうです。
「水口」は福井県で有名な水産会社の令嬢なのだそうです。
(婚姻届・・判押したほうがよかったかも・・)
「シンナー深尾」が辞めました。
その他数人も辞めて行き、入学時からすると10人近くいなくなりました。
そんな中、
『サーファー谷田』が学校に来なくなりました。
遅刻が多すぎて出席日数と単位が足りないらしいのです。
長島先生「上田、ちょっと様子を見てきてくれ」
同じ高知県人の僕は、先生に頼まれ「谷田」を説得することになりました。
「谷田」はお兄さんのアパートに2人暮しでした。
アパート代の少しと自分の小遣いを稼ぐ為に夜は水商売でアルバイトしていて、
それが原因で朝起きれず遅刻が多くなるとの事でした。
上田「毎朝俺が起こしてやるから明日からちゃんと来い!」
「とりあえず学校だけでも卒業しとこうや!」
「今辞めようが半年後に辞めようが一緒やん、」
「がんばろうや!」
・・・うつむき加減に聞いていた谷田がやっと喋りました。
谷田「違うんや・・、俺上田みたいにちゃんとしてないねん」
「・・上田と俺は生きる世界が違うねん!」
「もう散髪屋なる気無いのにこれ以上学校行って何になるんや!」
「もうええねん・・」
僕は、友達だから説得出来るつもりでいました。
でも友達なのにずっと「話を聞いてやれなかった事」に気付きました。
自己嫌悪に陥りました。
「谷田」はもう学校に来ませんでした。
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