■最終話■
【後日】
ヘアテック・コラージュ連合『コラテック』が「お別れ会」を開いてくれました。
これが最後の飲み会になりました。
「大阪らしいところがいい」という僕の希望から、
道頓堀のビル7階の居酒屋で、小部屋の座敷でした。
「ヘアテック」の、
藤、四藤君、中田君、そして辞めた坂田君、
「コラージュ」の、
吉福店長、衣川さん、山上さん、村木さん、磯野君、
今田さん、井垣君、前本君、上山田君、狩野さん、独立したサンタさん、
多くの同僚が集まってくれました。
これほど集合したのは初めてで、みんないつもより気分が高揚した感じでした。
「まだ乾杯やってませんよねぇ~」
少し遅れて、「ヨシコ」が現れました。
主婦になった「ヨシコ」は、お腹の大きな妊婦でした。
藤「よし!全員揃ったな!ほんなら始めよか!?」
大きな食器皿が出てきて、ビールがなみなみと注がれました。
四藤・磯野「まずはコレ全部いってもらいましょう!!」
少し時間をかけ、一気に飲み干しました。
「ウォーーッ」(歓声)
挨拶、
「みんな、ありがとう!」
「ヘアテックは自分にとって大阪の集大成でした」
「それをこんなに祝福されながら終わることが出来て・・・・・・、」
「アカン、泣けてきた・・(ウソ泣き)」
「ホンマに幸せでした!ありがとう!!」
「乾杯」が終わり、次から次へとみんながお酒を注ぎにやって来ました。
「藤、次期店長任せたで!頑張ってや!ありがとう」
「ヨシコ、OPEN時の大変な時によう頑張ってくれたな!ありがとう」
「四藤君、真面目やから絶対に成功するワ、藤店長を頼むで!ありがとう」
「坂田君、もうお店辞めんように頑張らなあかんで!ありがとう」
「中田君、短い期間やったけど、ありがとう」
「コラージュ」のみんなにもそれぞれに「思い」を語りました。
~ワイワイガヤガヤ、~
いつもの雑談になりました。
みんなお酒が入り、笑い声が部屋中に響きます。
中田君が「ガシャン」とビール瓶を倒しました。
「あ~あ~あ~あ~!」みんなが大声で合唱します。
ヨシコが自分のバックに被害がないか心配しています。
藤が嬉しそうに鋭く突っ込みます。
坂田君がその突っ込みに手を叩いて笑います。
四藤君が咥えタバコで辺りを拭いています。
コラージュのみんながヘアテックを冷やかします。
赤い顔して、・・みんな楽しそうです。
「ふうーっ」、一つため息をついた僕は、
若いスタッフ達をぼんやりと遠巻きに眺めていました。
「えらい無邪気に笑ってんなぁ・・」
「自分もあんなに若かったんやなぁ・・」
すると突然、周りの雑音が聞こえなくなりました。
若いスタッフ達の姿に重なり、
昔の「若い自分」がボ~ッと浮かびあがりました。
「若い自分」はそこに膝を抱えて座っていました・・・
「ヨレヨレのシャツを着て・・」
「汚れたズボンを履いて・・」
「ガリガリに痩せていて・・」
「右も左も分からなくて・・」
「オドオドして・・」
「愛想笑いばかりして・・」
「痩せ我慢ばかりして・・」
「辛いくせに・・」
「逃げ出したいくせに・・」
「助けてほしいくせに・・」
「その場をしのぐことばかり考え・・」
「夜になると心がガクガクと震え・・」
「寝たら明日が来てしまうと思い・・」
「夜が明けることを不安に思い・・」
「未来に希望なんか見えず・・」
「いつも一人ぼっちだと思い・・」
「甘えさしてくれるところを探しまわり・・」
「自分の事だけ考えて・・」
「自分の事しか考えなくて・・」
「人に迷惑ばかりかけて・・」
「いっぱいいっぱい迷惑かけて・・」
そんな「青い自分」がそこに膝を抱えて座っていました・・。
『・・・これでもう終わりなんやな・・』
そう思った瞬間、涙がポロッとこぼれ落ちました。
自分でも驚きました。
大阪で初めて泣いてしまいました。
一度堰を切った涙は止まらずに嗚咽に変わりました。
みんなの談笑がピタリと止まり、一斉に視線が注がれました。
僕はもう、かすれた声を絞り出すのが精一杯でした・・
上田「みんな・・・もうお別れやな・・・元気でな・・」
「頑張らなあかんで・・」
「ごめん・・・」
少しの間上を向き、おしぼりを目にあてがいました。
僕はこの時初めて「大阪」との別れを実感していました。
ヨシコ「店長、これ・・・」
ヨシコが「大きな花束」を持ってきました。
ヨシコ「店長、ありがとうございました、高知でも頑張ってください」
溢れる涙をそのままにして受け取りました。
四藤君「店長、コレも・・」
四藤君に渡された袋を開けると「ルーレットのパンツ」が出てきました。
「いるか!こんなもん!お前まだ持ってたんか!」(ポイッ)
楽しいひと時はいつまでも続かず、いつしかお開きになりました・・。
下りのエレベーターからは大阪のネオン街を見下ろしました。
お店の名前を決めました。
『エルソル』
ラテン語で太陽です。
いつまでも輝きます。また、お客様を輝かせます。
【ヘアテック出勤最終日】、
予告してあったんで、たくさんの常連さんで賑わいました。
「ついに故郷に錦を飾るかぁ、頑張ってな!」
最後のお客さんを終え、大阪での仕事は幕を閉じました。
「記念写真」を撮ろう!
コラージュのみんながレッスンを中止し、なだれ込んで来ました。
上田「もう今日は泣かへんぞー!」
寂しい気持ちも無く、前を向いていました。
写真撮影が終わるとお店の外に連れ出されました。
人生2度目の「胴上げ」です。
宙に舞いながら清々しい気持ちでいっぱいでした。
コラージュのみんなはワイワイとレッスンに戻っていきました。
「お疲れ様でした!それではお元気で」
ヘアテックのみんなも帰りました。
僕は最後のカルテ整理を終え、
いつも通りにヘアテックを後にしました。
難波の夜はいつもと同じく、温かい湿気がまとわりつきました。
僕は「ホテル南海」の前で立ち止まり、
ゆっくりと上を見上げました・・・
==== 完 ==== H10・5・31
■最終話■
エルソル大阪物語
大皿イッキ
全員集合
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