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学校は2学期に突入しました。
「理容科秋組」は卒業し、
1階実習室から「怪物江島」も姿を消しました。
「ヨハネスブルグ」のような危険な教室は、普通の実習教室に生まれ変わりました。
実習室には散髪屋の理容椅子が8台もありました。
生徒同士が相モデルになり、シャンプーの練習をしたりしました。
ついに「シェービング」の練習が始まりました。
1学期から砥石で研磨してきた日本刀カミソリを使います。
日本刀は指で挟んだ髪の毛1本を「押す」だけで切れるように研がれています。
上手に研磨出来た者から「実習室」で練習できます。
当然真面目に授業を受けていたり、
研磨センスのいい者達から「シェービング練習」始まりました。
「第一グループ」として、
僕と幼顔仲田(中卒)、福嶋と今中(高卒)、が選ばれました。
相モデルでお互いに剃り合います。
仲田「緊張するな~、上田君顔切ったらゴメンやで~ハハハ」
幼い顔立ちの割に肝が据わっていそうな『仲田』がつぶやきました。
上田「仲田のカミソリよう切れるもんな~、怖いワ」
仲田「親父に教えてもらってん」
「親父最近転職して料理人やってんねん・・」
上田「転職って、前は何やっとんたん?」
仲田「ヤクザ」
上田「・・・」(ヤクザの息子に刃物持たして大丈夫か?)
古尾先生「ハイ!私語禁止!!」
「それでは始めます・・」
大人しくなった「新・秋組」と共に「シェービング練習」は始まりました。
手にカミソリを持つので実習室は緊張感に包まれました。
切れ味抜群の日本刀カミソリは簡単に肌を傷つけ、血が出てきます。
「痛ッ!」
秋組のモデルが思わず声を出しました。
どうやらニキビを傷つけてしまったようです。
額の端から一筋の血が流れました。
古尾先生が落ち着いた様子で止血作業をしました。
ティッシュでしばらく押さえ、その後「薬用メント―ルクリーム」を塗りこみます。
上田「仲田っ、頼むぞ!マジメにやってくれよ」
仲田「アカン・・血ぃ見たらホンマに緊張してきたワ・・」
その時、
職員室の方から何やら外国人の集団が実習室に入ってきました。
関美の姉妹校、
フランスパリの「リセ・エルゼ・ルモニエ校」の視察団でした。
シェービング中の仲田に質問が飛びました。
フランス兄「ムニャムニャムニャ・・」
フランス姉「ムニャムニャムニャ・・」
通訳「毛を剃ると毛深くなりませんか?」
仲田「・・知るかいなそんなもん!」
「ジス・イズ・ア・ペン!」
一同「ハハハハハ!」
古尾先生「ハイ!私語禁止!!」
「毛深くなりませんよ、」
「メイクのノリもよくなります」
「どうです?試しに今から剃られてみては?・・」
フランス姉「ノノノノノノノノ」
先発部隊の僕達は数を重ね、
他の連中がシェービングデビューする頃には、剃られるモデルになることが増えました。
僕は『東君』のモデルをかってでました。
中卒の「東」は少し知的障害の気配があります。
「あっ」とか「うっ」と言ったりして、なかなか喋りませんでした。
おまけに「てんかん歴」があるらしくて、皆相モデルになるのを嫌がるのでした。
実習室の椅子で、僕は仰向きになり目を閉じました。
「上田、ホンマにええんか?」
古尾先生の一言にあちこちから「クスクス」と笑い声が聞こえました。
僕は目を閉じているので、古尾先生の声でしか様子が伺えません・・
古尾先生「私語禁止!!・・」(シ~~ン)
「それでは東、始めようか・・」
「先ずはタオルをお客さんの胸元にかけて・・」
「そうそうそう」
「そしたらシェービングカップにお湯汲んできて・・」
「汲んできた?じゃあココに粉入れて、ブラシを軽く絞ってよく混ぜる」
「そうそう、出来たらラザーリング(顔全体に泡を塗る)に入りなさい」
上田「熱っ!!」
(目をつぶっているので、ものすごく熱く感じる)
古尾先生「大丈夫か上田!?・・ハイ皆私語禁止!!」
「東!ちゃんと指で温度測ったか?」
「ハイ!もう一度混ぜて・・ハイ!指で測って・・ハイ!ラザーリング」
「もっと円を描いて!・・」
「もっと!・・もっと!・・もっとしっかり泡たてて!」
「塗り終わったら素早く蒸しタオル!・・」
「何してんねん!蒸しタオル熱いの当たり前や!」
「ちょっと待て東・・・」
「ジャーッ、ジャッ」(古尾先生が代わりに蒸しタオルを絞る音)
「ハイこれで顔蒸して・・いきなりやったら熱いからな!」
「トントン、トントン」
「そうそう、ハイ!しっかり顎・口ひげを蒸して・・」
「出来た?そしたら額にも泡塗って・・」
「よし!剃っていこうか!」
「よーし、そしたらカミソリ持って・・」
上田「んぐっ(唾を飲み込む)」
額にカミソリが「コン」と強く当たる。
「あーーっ!!ちょっと待て東!!」
上田「んぐっ(唾を飲み込む)」
「落ち着いて、落ち着いてナ・・よしもう一度・・」
上田「んぐっ(唾を飲み込む)」
「・・・・ああーーっ!!待て!待て!東!!」
上田「んぐっ(唾を飲み込む)」
上田「んぐっ(唾を飲み込む)」
「・・・東っ、今日はやめとこうか」
上田「ぷはぁーーー(息を吐き出す)」
生きた心地がしませんでした。
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