■18■
「富長!今度お前のところに遊びに行くワ!」
休日、近鉄特急で三重県名張に向かいました。
名張駅前には「富長」のマーチが既に停まっていました。
富長「何処行く!?上田君」
上田「何処でもええワ、名所とか無いの?」
富長「何処行こうかな~、適当に行くで~」
「ん~~何かデートみたいやな~フフフ」
上田「大丈夫、そんな気無いから・・」
車は賑やかな街を離れ、山道を走り出しました。
スパイクタイヤを装着しているらしく、パキパキと音を立てて走ります。
富長「上田君、最近東京の事考えてるやろ~?」
上田「・・・そんな事ないよ」
富長「分かんねんって、だいたい」
「ひとつ言っておくワ、上田君な、東京合ってへんで!」
「東京っぽい人間やけどな、辞めとき、大阪で成功するワ」
上田「・・・何やねん急に」
車はダム湖に到着しました。
冬の湖はもの寂しく、薄気味悪い感じでした。
富長「青蓮寺湖っていうねんで、ぶどう狩りが有名やで~」
上田「ヨッシャ、ぶどう狩ろうや」
富長「冬はやってへん」
上田「・・・」
富長「ココは自殺とか心中とかも多いんよなぁ~」
上田「・・次行こうや」
再び車に乗り、出発しました。
富長「上田君、滝見に行くか!?名所があんねん」
上田「行こう行こう」
途中昼飯を食って、しばらく車で走りました。
滝の名所はハイキングコースになっていました。
富長は入り口付近の神社で何やら拝んでいました。
「こんにちは!」
遊歩道をすれ違うハイカーは、気持ちよく挨拶をしてくれます。
遊歩道は山道を登ったりしながら幾つもの滝を見ていきます。
しかし上に登るほど景色は寂しくなり、滝も怖く感じるようになりました。
さっきから人の気配すら感じられません。
富長「もう少し行ったら、きれいな滝があるからな~」
上田「大丈夫か!?もう人が見当たらんぞ・・」
次々と滝が現れてきます。
中には滝とは言えないようなせせらぎがあったりします。
ちょうどその時、ある滝の周辺に向かって富長が声を掛けました。
富長「こんにちは~!」
上田「・・おい!お前誰に向かって挨拶してんねん!」
先を歩きながら富永は言いました。
富長「人がおったやん!」
上田「え!?誰もおらんぞ!?何言うてんねん!?」
富長「え~、滝のまわりにいっぱいおったよ」
「滝のところに女の人が立ってたやん!」
「その回りを絵描きさん達がぐるりと囲んで絵を描いてたよ~」
上田「ちょっと待てコラ・・、冗談やろ?」
富長「上田君見てへんの?」
上田「・・・おいおい、何かちょっと怖くなってきたぞ・・」
前方に人影を感じました。
おじさん一人がカメラを構えて川のせせらぎに集中していました。
上田「こんにちは!」
おじさんは振り向いただけで、再びカメラを覗き込みました。
遊歩道はどんどん寂しくなり、気温もぐっと下がります。
富長「上田君、さっき誰に挨拶しとったん?」
上田「・・・ウソやろ富長、もう怖いから冗談やめようや・・」
富長「ハハハ、怖がりやな~」
ポツポツと雨が降り始めました。
上田「帰るぞ!富長!」
帰りは早足で山を下ります。
雨は本降りっぽくなってきました。
富長が「絵描がいた」という滝に到着しました。
女性と絵描きの姿は何処にも無く、滝の横には「お地蔵さんが6体」並んでいました。
鳥肌が立つほど怖くなって、富長と走りはじめました。
富長「上田君!!今振り向いたらアカンで!絶対!」
上田「・・・(何ぃ~?)」
さっきまでいたハイカーの人達も誰一人いません。
息も切れぎれに麓まで帰ってきました。
驚いたことに雨はいつのまにか止んでいました。
麓の土産店にいる人達の中で濡れているのは僕達だけのようでした。
上田「うう、寒い・・ラーメン食いに行こうや」
日も傾き始め、ラーメン屋の看板のネオンも目立ちました。
ラーメンを食べ始めると少し落ち着きました。
富長「上田君、今晩どうすんの?一緒にホテル行くか!?」
ラーメンを「ブッ」と吹き出しました。
上田「アホか!そんな気無いワ!」
富長「冗談!冗談!」
「でも、ウチに泊まっていってもええよ~」
「お父さん帰って来ーへんし、弟はおるけどよ~」
上田「・・・泊まって行くか」
富長「そうし!手相見たるワ」
富長家は「桔梗が丘」という住宅街の一軒家でした。
赤い門に、大きなムクムクの白い犬が「ワン!」と立ち上がりました。
富長「犬の散歩してくるから中に入っとき!弟おるはずやから」
そう言って富長は犬に引きずられながらどっかに消えました。
上田「今晩わー!」
玄関ドアを開けて叫びました。
弟「え~と、姉ちゃんの友達ですか?上がって待ってて下さい」
富長弟は背の高い学ラン姿で、好青年でした。
富長が帰ってきて言いました。
「上田君!一緒に風呂入るか!?」
「ハハハハ、ウソやって、反応いちいちおもろいな~」
「でもアタシ、弟と一緒に風呂入ってんねんで~、なぁ」
上田「いやいや・・風呂はええワ」
手相を見てもらいました。
富長「んん~、上田君苦悩の連続やな・・」
「30歳・・30歳からええ方向に向かうな~」
「うわーっ、いい友達いっぱい持ってるな~」
「・・・残念ながら周りに不幸事も多いぞ~」
「弱いな、風邪とか簡単にひくな~」
随分詳しくて、弟の手を参考に「見方」まで教わりました。
「富長の部屋は絶対に入ってはイケない!」という事で、
タンス部屋に布団がひかれました。
と同時に、玄関がガタガタと音をたてました。
何と!親父が帰ってきたのです!!
「ウィーッ、カヨーッ!帰ったぞー!風呂沸かせー!!」
ヤバい、ヤバい、ヤバい、タンス部屋で凍りつきました。
富長がタンス部屋を開け、僕の靴を投げつけました。
富長「ヤバいで上田君・・殺されるかも・・」
「スキみて逃げて!」
と言い残し、立ち去りました。
富長親父はどうやら女性を連れて帰ってきているようで、
キャピキャピした声も聞こえました。
「・・・(ピンチや)」
突然「バンッ!!」と扉が開きました!
僕は「バンッ!」とピストルで撃たれた感じで、ビビリました!
弟「今です!!親父風呂に入りました!」
靴を持って全力で走りました!
玄関を出てもしばらく走りました・・
「おれは間男かー!?」
強い北風に吹きつけられながらトボトボ歩いていると、車に乗った富長が現れました。
駅まで送ってもらいました。
富長「いやいや、びっくりしたな~!ゴメンやで~」
「今日は色々あったな~、上田君何か持ってんちゃう!?」
上田「・・お前やろ!!」
名張駅から出る電車は最終の各駅停車でした。
上田「じゃあな!」
残念ながら最終電車は難波まで辿り着かず、「五位堂」という途中の駅が終点でした。
AM0:00すぎの五位堂駅周辺は真っ暗で何もありません。
かなり歩いて大通りでタクシーを拾いました。
上田「8千円しか持ってませんが・・」
「堺方面、浜寺公園まで行けますか?」
運ちゃん「高速乗って・・ん~、行けるんちゃうかな」
上田「お願いします」
疲れ果てて、タクシーでは寝てしまいました。
運ちゃん「着いたで兄さん!もう8千円手前や!」
「ここから歩いて帰れるんか?」
「家にお金あるんやったら行ってあげるよ~」
降りたところは羽衣駅の2つ手前、諏訪の森でした。
強い北風は雪に変わり、深夜に吹雪の中2駅分歩きました。
翌日、簡単に風邪をひきました。
「手相当たっとるがな・・・」
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