龍の尾亭<survivalではなくlive>版

いわきFCのファンです。
いわきFCの応援とキャンプ、それに読書の日々をメモしています。

「暮らしの視点で学ぶ『福島第一原発廃炉の状況』」に参加した。

2016年02月27日 10時03分02秒 | 大震災の中で
2016年2月25日(木)いわき市湯本で開催された

吉川彰浩さんによる「暮らしの視点で学ぶ『福島第一原発廃炉の状況』

に参加してきた。
大変参考になった。いろいろとこれから考えていくべき課題をもらった。

以下はその簡単なメモである。吉川さんにお話を伺ったわけだが、内容については私が理解した範囲のこととそれについての感想をメモしちるので、間違いがあればもちろん全て筆者の責任です。意見も全て私のものです。あしからず。

<1>汚染水対策ついて
最近(2015年秋)、トレンチにコンクリートを流し込み埋め立てて止水するという工事が終了した。

これは4年かかった。今までの汚染水対策作業としては

A汚染源に水を近づけない
B汚染水を漏らさない
C汚染源を取り除く

が三本柱(詳細は文末を参照)。

大きなポイントは、なんといっても地下水の流入が汚染水増加の原因。
これが止まらないと汚染水タンクも増え続ける。

ちなみに、1の山側の地下水バイパス汲み上げは100立方メートル/日。

全体の地下水量は400立方メートル/日だから、3/4が下(原子炉建て屋側)に来ていることになる。

汚染水タンクは1つ当たり1000立方メートル~1200メートルだから、数日(実際には2.5日~3日ぐらい)で1本分がたまる勘定になる。

凍土壁は、完成したがまだ稼働していない。これが有効かどうかはまだ不明。
これから数ヶ月先までかかる。

問題は、汚染水タンクを減らせないこと。2016年1月現在で役76万トンの汚染水がある。25mプール1500個分。

もし凍土壁が完成し、効果があれば、80万トンレベルのタンクがあれば足りる。

上にも書いたが、処理済み水は62核種を除去し、残っているのはトリチウムが数百Bq/L程度。トリチウムは三重水素。ミリタリーウォッチの蛍光塗料などに利用されたりもしている。自然界にも存在する。たとえば海水中には数Bq/L程度の濃度。百倍といえば百倍だが、毒性が少ない放射性核種ではある。

トリチウムは、原子炉を運転すると必ず生じてくるもので、震災前の基準では、
年間22兆Bqの放出が認められている。沸騰水型か加圧水型かで放出基準もことなり、50兆Bq/年の排出が認められている原子炉もあり、安全基準というより、運転する上で不可避の排出を認めているというに過ぎない。

仮に年間22兆ベクレルという基準を今の処理済み水の海洋放出に当てはめると、100年ほどかかる計算になり、現実的ではない。

ちなみに、六ヶ所村の施設では、年間京(けい)レベルの排出基準となっており、現状ではとりあえず処理済み水をためていくしかない。

さらにトリチウムを除去して低濃度にする技術は存在するが、コストがかかりすぎて非現実的。

「汚染水問題は出口がないのが問題であり、トータルシステムを確立せよ」

というのが規制委員会の考え方。

国が高レベル廃棄物と呼んでいるのは燃料のみ。それ以外は全て「低レベル廃棄物」と呼ばれる。だから低レベル廃棄物ということと、汚染度は別。幅が大きい。

<2>廃炉について

廃炉とは?
ゴミ問題の認識だが、まだ先が見えていない段階。

原型をとどめていないのは1,2,4号機。
燃料がまだ中にあるのは1,2,3号機。
この1~3号機の溶け落ちた燃料にたいしては、1つの炉当たり、1時間に家庭のお風呂3杯程度の水を入れているだけである。
1~3号機に残っている使用済み燃料(取り出してあるもの)は、水が止まっても沸騰するまでに120日かかる。心配はない。水に漬けてあるのは冷却の意味もあるがむしろ放射線遮蔽のため。

汚染水のメドがついてくると、これからようやく炉内の燃料取りだしに取り組むことになる。
今でもガレキ撤去は遠隔操作(PSPのコントローラのようなもの)で行っている。おそらく廃炉作業もそういう作業になるだろう。ゆっくりやるしかない。

ちなみに、同席した作業員の人は1日0.03msvの被爆量だという。30μSv/dayということ。これは、震災前と比較しても妥当な水準になってきた。

吉川さん自身、18歳~35歳まで放射線従事者として東京電力に勤めていたが、0.8mSV/monthが基準だった。年間10mSV以下ということ。

今は、発電所入り口では特に装備は要らない。普通の格好で入れるようになった。
これはフェイシング(表土のはぎ取りと舗装)の効果が大きい
元々雨水対策だったが、ほこり抑制と除染効果があった。

廃炉と共存する地盤が出来てきたところ。

まだ、現在の周辺海域でも 10Bq/L未満の値になってきた。これはWHOの飲料水基準まで改善した、ということ。大気中の飛散も押さえられている。

だからといってまだ処理済み水を流していいということにはならない。

現在、40代~50代の人が作業員には多いが、若い人も増えている。
事故現場から、働く場所になりつつある。
ということは、ここから廃炉を数十年スパンで考えていかなければならない。
10年間で税金の投入は2兆円と言われる。

事故直後は命がけだから給与が高かったのは当然。
だが、これからは原子力だからそれだけで給与が高いということにはなっていかないだろう。
もちろん、発電所内にはコンビニもできたし、食堂もできたが、缶コーヒーの自販機一つ存在しない。

所内で出たゴミは汚染された廃棄物扱いになるから!

むしろこれから給与水準は下げていくべきだろう。
今は原子力発電所内に7000人規模、除染で20000人規模の雇用があるが、タンクの増設がなくなり、線量低下が継続していけば、この雇用は早晩終わる。
土木工事や建築工事の出番は減り、3DのVR(バーチャルリアリティ)で内部操作をする作業になる。

求められる人材は、空間認知力があって、その3DVRシミュレーションが理解出来、かつ建て屋内部のことが分かっている人が求められていくだろう。

給与をむやみに高くするのではなく、むしろその仕事に対する尊敬が必要になるだろう。
40年回していける仕組み、ということだ。
そうなれば、地域に被雇用者も家族で定着し、廃炉と地域がリンクしていくし、そうでなければならない(吉川さんの考え方)。だから、まず廃炉に向けての現状を知ってもらうことが重要だ、というお話でした。

最後に、経産省から先週あたり、「燃料を取り出さないオプション」」についても考える余地があるのではないか、という考えが出されてきた、との指摘があった。膨大な資金をかけて燃料を取り出すのはいいが、果たしてそれが現実にできるのかどうかも分からない。そしてそれをその先どう処理するのか皆目分からないなかでは、実は取り出さないという選択肢も合理的に考えていくと「あり」なのかもしれないというお話は、考えさせられた。
だがもちろん、今それを声高に言い立てることは東電でも経産省でも、あるいは私たちでもできるはずがない。

廃炉は本当に一般的なイメージでいえば、更地に戻してほしいという理想があるだろう。
しかし、現実には更地にもどして何事もなかった、というところまでたどり着ける道筋は全くついていない。
だとすれば、現状をまずよく知って、その上でどう向き合うかを考える必要があるだろう、という吉川さんの指摘は厳しく重いが、正面から受け止めるべき言葉だと感じた。

もちろん、そのことが、東電や国の責任を見逃すことになってはならないと思う。
そのことはきちんと厳しく追及していくべきだし、個人的には原発の再稼働など
沙汰の限りだと思っている。


だが、廃炉という困難きわまりない(道筋のみえない)現実と向き合うことも、福島県に住む者として避けがたいことだ。
そしてもちろん、それは福島県以外に住む人々にとっても、正面から向き合うべきリアルなのだと思うが、それを発信していくことはとても難しい作業になるだろう。

自分に何ができるか。どう考え行動していくのか。久しぶりにじっくり考える機会を与えてもらった。吉川さんの活動に感謝と敬意を抱く。

とりあえず以上。

汚染水対策主要9項目---------(開始)------------------------------

A汚染源に水を近づけない

1,地下水バイパスによる地下水汲み上げ
(山側に穴を掘って、地下水があがってくるようにする設備)

2,建て屋周辺での井戸の汲み上げ
 (地盤が軟弱化防止のため以前から設置されていた。今は原子炉建て屋と周辺施設を繋いでいた配管のシールが津波と地震で壊れ、そこから地下水がどんどん流入しつづけているため、その水を少なくするために井戸で汲み上げ続けている)

3凍土方式の陸側遮蔽壁
 (これは原子炉建て屋周辺を1500mにわたってぐるりと一周させ、地下30mまで氷の壁で覆って地下水を遮断するもの。完成はしたが稼働はまだ。効果は未知数。ただし、これがうまくいけば地下水流入は圧倒的にすくなくなり、タンク増設などの建設は不要になる)

4,雨水の土壌浸透を防ぐ表面舗装
(施設内の地面や斜面に施工。これは結果としてほこりが立つのを防ぎ、結果としては除染効果も高かった)


B汚染源を漏らさない

5,水ガラスによる地盤改良

6,海側遮水壁
最大地下20mまで鋼板を埋設する、海側からも見えるおなじみの壁。

7,タンクの増設
(ボルト締めのタンクから汚染水漏れが起こったため、溶接型へリプレースした)

C汚染源を取り除く
8多核種除去設備による汚染水浄化
(キュリオンとサリーはセシウムを、アルプスはストロンチウムを除去)
☆残っている処理水には、トリチウムのみがある。濃度は数百Bq/l程度。
 トリチウムはいわゆる三重水素。自然界(たとえば海)に大量に存在し、放射性物質としては影響が小さいもの。これをさらに除去することはできるが、現状ではコストが膨大にかかる。

9トレンチ内の汚染水除去
(トレンチとは、配管などが入っている地下トンネル。配管と建て屋の間はシールしてあったが、地震と津波でそこが壊れたり隙間ができ、汚染水が出てくることになって、トレンチ内に高濃度汚染水がたまることになった)

汚染水対策主要9項目---------(終了)------------------------------