(前の記事からの続き)
退官した ある刑務官は、
自分が関わった死刑執行を 鮮明に記憶しているといいます。
薄暗い 3畳ほどの狭い部屋、
コンクリートの壁に 赤いボタンが5つ並んでいます。
壁の向こうは刑場です。
5つのボタンのうちどれかが、 刑場の踏み板に連動しています。
頭上の赤いランプが 点灯し、 「押せ」 と 看守部長の声とともに、
親指で思い切り ボタンを押し込みました。
「 使命を果たせた という思いとともに、 緊張が解け、 力が抜けた 」
執行命令書にサインする 法務大臣以上に、 刑務官はつらいでしょう。
執行に伴う 刑務官の特殊勤務手当は 2万円だそうです。
事前に幹部が、
ひとつのボタンの回線を 踏み板につなげる 作業をしておきます。
どのボタンなのかは 墓場までの秘密です。
( ボタンの数は 拘置所によって異なります。 )
執行当日は 10人ほどの刑務官が 選ばれます。
ボタンを押す役のほか、 死刑囚を 独房から刑場に 連れてくる役、
踏み台の上に 立たせる役などに分かれます。
一人の刑務官は、
死刑囚が落下した反動で 揺れるロープを 両手で握りしめる役でした。
「 さっきまで生きていた人が 目の前で亡くなる。
ショックでした」
執行に関わったことを、
同僚や家族にさえ 話せないという刑務官は 多くいます。
「 妻に話したら、妻はどんなに ショックを受けるだろうと思うと、
とてもその勇気はない。
今の小さな幸福を 守るために、 絶対 妻に秘密にしておきたい 」
元所長を務めた 刑務官は、
刑場に入ってきた 死刑囚に、 自ら 「今から執行します」 と 告げました。
「 刑務官として働いた 40年間で、 あれほど 重圧がかかったことはない 」
その死刑囚の命日には、 自宅の仏壇に向かって 手を合わせます。
刑務官の苦悩は大きいが、 誰かが やらなくてはいけない仕事だと、
今も信じている といいます。
〔読売新聞より〕
(次の記事に続く)