「境界に生きた心子」

境界性パーソナリティ障害の彼女と過ごした千変万化の日々を綴った、ノンフィクションのラブストーリー[星和書店・刊]

ボタン押す重圧 -- 死刑執行の現実 (9)

2008年11月19日 22時13分46秒 | 死刑制度と癒し
 
(前の記事からの続き)

 退官した ある刑務官は、

 自分が関わった死刑執行を 鮮明に記憶しているといいます。

 薄暗い 3畳ほどの狭い部屋、

 コンクリートの壁に 赤いボタンが5つ並んでいます。

 壁の向こうは刑場です。

 5つのボタンのうちどれかが、 刑場の踏み板に連動しています。

 頭上の赤いランプが 点灯し、 「押せ」 と 看守部長の声とともに、

 親指で思い切り ボタンを押し込みました。

「 使命を果たせた という思いとともに、 緊張が解け、 力が抜けた 」

 執行命令書にサインする 法務大臣以上に、 刑務官はつらいでしょう。

 執行に伴う 刑務官の特殊勤務手当は 2万円だそうです。

 事前に幹部が、

 ひとつのボタンの回線を 踏み板につなげる 作業をしておきます。

 どのボタンなのかは 墓場までの秘密です。

( ボタンの数は 拘置所によって異なります。 )

 執行当日は 10人ほどの刑務官が 選ばれます。

 ボタンを押す役のほか、 死刑囚を 独房から刑場に 連れてくる役、

 踏み台の上に 立たせる役などに分かれます。

 一人の刑務官は、

 死刑囚が落下した反動で 揺れるロープを 両手で握りしめる役でした。

「 さっきまで生きていた人が 目の前で亡くなる。

 ショックでした」

 執行に関わったことを、

 同僚や家族にさえ 話せないという刑務官は 多くいます。

「 妻に話したら、妻はどんなに ショックを受けるだろうと思うと、

 とてもその勇気はない。

 今の小さな幸福を 守るために、 絶対 妻に秘密にしておきたい 」

 元所長を務めた 刑務官は、

 刑場に入ってきた 死刑囚に、 自ら 「今から執行します」 と 告げました。

「 刑務官として働いた 40年間で、 あれほど 重圧がかかったことはない 」

 その死刑囚の命日には、 自宅の仏壇に向かって 手を合わせます。

 刑務官の苦悩は大きいが、 誰かが やらなくてはいけない仕事だと、

 今も信じている といいます。

〔読売新聞より〕

(次の記事に続く)
 
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする