(前の記事からの続き)
○ 東央大病院・ 淳一の病室
淳一が ベッドに寝ている。
美和子が 消沈して入ってくる。
淳一 「 …… 姉キ …… どうしたの …… ?」
美和子 「 …… ジュン …… 」
美和子、 淳一の横に座る。
淳一を片手で抱く。
美和子 「 …… もう、 いいよ …… あたしが悪か
った …… あたし、 人は それぞれ違うんだっ
てことが、 そんな簡単なことが、 分からな
かった …… 自分の気持ちばっかり 押しつけ
て …… ジュン、 あんたのしたいようにすれ
ばいいよ …… あたしもう、 何も言わない…
…」
淳一 「 ……… 」
美和子、 淳一の頭を抱く。
ベッドから立ち上がり、 退室しようとす
る。
淳一 「 …… 姉キ …… 」
美和子 「 …… (立ち止まる)」
淳一 「 …… オレ …… 」
美和子 「 ……… 」
淳一 「 …… 生きたいよ …… 」
美和子 「 ……… 」
淳一 「移植、 受けたい …… 」
美和子 「 ……… 」
淳一 「 …… オレ、 誰かが死ぬのを待ってるよ
うな …… そんな自分が、 嫌で、 嫌で ……
堪らなかったんだ …… !(涙)」
美和子 「 ……… 」
淳一 「いや、 自分のことなら まだいい ……
姉キがオレのために、 人の臓器を 追っかけ回
すようなこと …… まるでハイエナみたいに
…… 」
美和子 「 ……… (深く頭を垂れて)」
淳一 「姉キのそんな姿、 見せてほしくなかっ
たんだよ …… !!(泣)」
美和子 「 ……… 」
淳一 「だけど …… だけどオレ、 姉キのために
も、 タカちゃんのためにも …… 」
美和子 「(押し殺したように) …… ハイエナ
だって …… ? (「クゥ~~ …… 」 という
細い呻吟がもれる)」
淳一 「(涙を流しながら) ? …… 」
美和子 「(声が震える) …… 勝手なこと言わ
ないでよ …… きれいごとばっかり言って…
…」
淳一 「 ……… (息を呑む)」
美和子 「(徐々に顔を上げる) あたしがその
ために、 どんな想いをしてきたか …… !
生きたいなら生きたいって、 何でもっと早
く言わないのよ !? 今頃になってそんなこ
と …… !! (唇が震え、 顔が引きつってく
る)」
淳一 「姉キ …… !?」
美和子 「あたしが今まで どれだけ苦労してき
たと思ってるの …… !? (いても立ってもい
られない悔しさ) あたしは みんなあんたの
ために 生きてきたのよ …… !! 父さんも
母さんもいなくなって、 あたしがあんた育て
てやったんだよ …… ! 医者になったのだ
って あんたのため! 毎日 嫌いな勉強ばか
り …… ! だけど我慢してきた ! あんた
が普通の子じゃないから …… !! あたしだけ
いい思いできないから …… !!」
淳一 「 ……… (顔を伏せ 肩を振るわせてい
る)」
美和子 「みんなあんたのためよ …… !! その
挙げ句が …… 何もかも台無し …… !!」
淳一 「 …… (しゃくりあげる)」
美和子 「あんた、 何で病気になんかなったの
よォ !? あんたさえいなけりゃ …… !!
みんなあんたのせいで …… !!」
もはや 自分で何を言っているか 分からな
い。
痙攣的な、 喘ぐような呼吸。
淳一は 流れ出る鼻水を 拭こうともせず、
ボロボロと涙を流す。
美和子、 次第に我に返る。
自分の口から出た言葉に 気づきはじめる。
「ああ …… 」 という細い音が 喉からしみ
出る。
悔恨の情が こみ上げてくる。
みるみる表情が歪む。
淳一に、 震える両手を伸ばす。
太い涙がこぼれ落ちる。
淳一を深く抱きしめる。
絞り出すような泣き声。
淳一も 美和子を抱き返す。
互いに 骨も折れんばかりに抱き合う。
二人 …… 。
慟哭 ……… 。
(次の記事に続く)