(前の記事からの続き)
○ 東央大病院・ 裏庭
美和子が 杏子を引っ張ってくる。
杏子 「何ですか !? こんな所に連れてきて
…… !?」
美和子 「奥さん、 もう時間がないんです !
心臓が止まる前に、 どうかご主人の臓器を
…… ! (焦燥)」
杏子 「ち、 ちょっと待ってよ 先生 ! うちの
人が 生き返らないのはしょうがない。 でも、
まだ息してるんだから …… !」
美和子 「人工呼吸器で 動かしているだけなん
です ! いわば死体を 機械で無理やり…
… !」
杏子 「そんな言い方 …… !! そりゃ、 うちの
人は ひどいこともしてきたけど、 だからって
血が通ってる体を 切り刻むなんて殺生な
こと …… !!」
美和子 「移植を待ち望んで、 今この瞬間にも
死んでいく人たちがいるんです …… !」
杏子 「そ、 そりゃ 気の毒だとは思うけど ……
… !」
美和子 「ご主人だって 人を救うことができれ
ば、 立派な死だったと 言えるんじゃないで
すか !?」
杏子 「じ、 じゃあ何 !? 移植しなけりゃ 犬死
にだとでも 言うの !? 冗談じゃないよ !!
誰が助かったって そんなの関係ないわ !!
一番大事なのは あの人よ !!」
杏子、 美和子の手を振り払って 走ってい
く。
美和子 「奥さん …… !! (杏子を追う)」
○ 同・ ICU
杏子が狼狽して 駆け込んでくる。
驚く世良と川添。
川添 「奥さん、 どうしたんですか!?」
杏子 「(安達にすがりつく) あんた、 目ぇ
覚まして !! 先生がとんでもないこと 言って
るよ !! 早く起きないと 内臓 取られちゃう
よ …… !!」
美和子が追ってくる。
世良 「美和子 !? 君は …… !?」
美和子 「 !! …… 」
杏子 「あんたあ~~~ !! (泣く)」
川添 「奥さん、 安心してください。 ご主人の
臓器を 取ったりはしません」
安達の目から 一筋の涙が流れる。
杏子 「あ、 生きてる …… ! この人、 聞こえ
てるんだ …… !!」
美和子 「 …… 」
杏子 「見てごらん! これでも死んでるって
言うの !? 川添先生、 何とか言ってやって
よ !」
川添 「(言いづらそうに) …… それは、 単な
る生理現象で、 聞こえているわけではない
んです …… 」
杏子 「う、 嘘 …… !? 川添先生まで そんなこと
言ってごまかそうと …… !」
川添 「 ……… 」
美和子・ 世良 「 ……… 」
安達に亡きすがる杏子。
(次の記事に続く)