「境界に生きた心子」

境界性パーソナリティ障害の彼女と過ごした千変万化の日々を綴った、ノンフィクションのラブストーリー[星和書店・刊]

見えない死 …… 「生死命(いのち)の処方箋」 (53)

2010年12月03日 21時54分01秒 | 「生死命(いのち)の処方箋」
 
(前の記事からの続き)

○ 東央大病院・ ICU

  犬飼、 美和子、 世良が、 安達の脳血管撮

  影の 写真を見ている。

犬飼 「脳血流も止まってしまった。 完全に脳

 死ですね」

世良 「犬飼先生、 脳血管撮影では、 微弱な血

 流まで 読み取れないことがあるはずです。

 聴性脳幹反応まで 調べるべきではないでし

 ょうか ?」

犬飼 「機械に頼るばかりが 医者ではありませ

 ん。 私たちは 患者の全身状態を把握して、

 経験的に判断しているんです」

世良 「脳死は 今までの医者の経験則を 越えて

 います」

美和子 「でも 脳死と判定されて 生き返った人は

 一人もいないのよ」

世良 「そこだよ、 重要なのは !  “もう元に

 戻らない” ということと、  “すでに死んで

 いる” ということは はっきりと違うんだ。

 元には戻らないけれど、 まだ死んではいな

 い人から、 臓器を取り出すということは、

 例えば、 がん末期で 懸命に死と闘っている

 人から、 臓器をえぐり出すのと 同じです

 !」

犬飼 「それは 頭の中で考えることです。 人間

 が 実際に生きているとは どういうことなの

 か、 あなたもそのうち 分かってくるでしょ

 う」

世良 「脳死とは  “見えない死” なんです !

 あくまで密室で ことを進めようとするなら、

 彼女が単独で行なった 脳死判定のことを、

 僕は公表します !」

美和子 「世良さん !?  そんなことをしたら、

 ジャーナリストとして 墓穴を掘るだけよ

 !」

犬飼 「あれはあなたも同罪の 越権行為です

 よ」

世良 「 ……… (地団太を踏む)」

(次の記事に続く)
 
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