ところで、ご自分が専門にしたいと思う業務に従事しようと思っても、それなりの最低限の知識を習得しなければなりません。当然の事ですが、その知識がなければ、ホームページさえ作ることが出来ない訳ですし、当然に依頼などを受けられる筈もありません。
よく、”どこかの行政書士事務所で何年か修行して、ある程度覚えたら独立したい!”なんてお考えの方もいるかと思うのですが、その可能性はほとんど無いと思われた方が良いでしょう。それは、この行政書士という資格、資格を持っているだけでは、実務専門家として価値が殆ど無いからなのです。
つまり、雇う側からすれば、ある程度教えて、やっと一人前として使えるようになった途端に辞められてしまうのであれば、事務所として労働対価を払う価値が著しく低くなってしまうからなのです。つまり、見習い中の事務処理効率は半分以下、いやベテランの二割程度しかないのです。そして、やっと、事務処理効率がベテランの六~七割までになったところで、独立開業されてしまったら、これはもう単なる若手育成の為の慈善事業に終わってしまうからです。
ですから、自宅開業にせよ、その他の仕事との兼業にせよ、最初からご自分一人で開業することを念頭に置かなくては、いつまで経っても開業は難しいと思われます。
ところで、ここ数年はインターネットのHPで、可成りの行政庁がその申請手続の詳細や審査基準についての情報を公開をしている上に、所属する各都道府県の単位会や支部が行う実務研修会も多数開催されています。ですから、最低限の実務の習得は、10年前と比してかなり容易にできる状況にあります。
しかしながら、実際に依頼人を前にして、問い合わせを受け、更には有償にて依頼を受ける事にはやはり不安を感じる方々も多いと思います。しかし、どんなベテランの先輩行政書士であっても、かつては同じように不安で一杯だったと思います。私自身も同じでした。では、どうやって、それを乗り越えて、今現在のようになれたのか、と思われる事でしょう。
基本的には、幾多の実務経験の積み重ねから、今現在のような自信に結び付いた訳ですから、一つ一つの経験を大切にして、研鑽する事だと、建前では言えるのですが、実際は多くの失敗を繰り返し、試行錯誤の上でやっと今日の地位を築いた苦労話が必ずあった筈です。
実は、ベテランの持つ失敗に関わる多くのノウハウが、依頼される案件が微妙であればあるほど大変重要なポイントとなって、実務の上で非常に役に立っている事が多いのです。これにより、些細な申請上のミスを防ぐことができ、また確実に審査結果を出せるノウハウでもあるからなのです。また、そこがベテランに依頼が集中し易い点でもあるのですが・・・。
かつて、私が行政書士として登録した頃、こういった細かい点までを覚える事は、結果として自分自身で切り開いて行くしか方法はありませんでした。それは、決して良いことだと思わないのですが、自分自身のスタイルを形成し、或いは、自分自身が生き残って行く為の力を付けるという意味に於いては、それはそれで必要なプロセスであったかもしれません。しかし、これからの行政書士業界全体のことを考えるのであれば、実に非効率的で閉鎖的な方法であり、何よりも他士業との関わりや、今後の行政書士生き残りという課題から考えても、後進の者達へ、少しでもその経験を開示・伝承して業界全体としての底上げが必要であると思うのです。
幸いにも、ここ数年は状況が変わって来ているようで、諸先輩行政書士の一部が、積極的に自分たちの持つノウハウを、単位会や支部レベルの研修会にて公開し始めているのです。ですから、これから開業登録される方々は、少なくとも定型業務関する基本知識の習得に関しては、さほど心配されることは無いと思います。
とは言え、受託をするという事は、また別問題です。依頼人は、出来る限りその依頼をしようとする手続を、手慣れたベテランに頼もうとする傾向があります。それは、皆さんご自身が病気や虫歯になった時に、新米の医師や経験が少なそうな歯科医師に診て貰うよりも、出来るだけ、ベテランの医師や歯科医師に見て貰おうと思う気持ちが起こる事とまったく同じです。それも、症状がひどい病気の場合、或いは、その病巣が深刻であると思われる場合には、より一層その傾向が強くなります。
風邪程度であれば、ご近所の町医者や近所の病院で済ませようと思うことでしょう。しかし、どうも癌ではないかとか、或いは、重度な病気ではないかと疑われる場合、新米の医師に診て貰おうなどと思う奇特な患者は少ない筈です。その病院の入院費が安いとか、近いだけで、病院やクリニックを選定する方々は極めて少ないからです。特に、重篤な病気の疑いがあればあるほど、より良い専門医師のいる病院やクリニックへ向かおうとするのは、人間のごく自然な心理だからです。
そして、我々の扱っている行政手続もまったく同じなのです。ですから、新人の方々にとっては、その意味では決定的なハンディキャップがあります。それは、医師や弁護士、或いは行政書士でも全く同じ事なのです。
しかし、どの士業でも、このハンディを乗り越えて、多くの新人は必ず頭角を現して来るのです。勿論、挫折する方々も居ます。その数が、行政書士業界では比較的に多いので、おそらく”行政書士では食えない”という噂が広まっているのだろうと私は思っています。
ところで、ではどうしたら、こうした経験上のハンディを乗り越えて行けるのでしょうか?
それには、基本的には二つの方法があります。一つは、新米であるが故に全身全霊を込めて、依頼人に対応する方法です。二つ目は、ベテランそれもその道に詳しい先輩の教えを乞う方法です。
前者の場合には、リスクを求めない中堅・大手企業で、依頼に結びつける事は至って困難です。それは、企業のリスクマネージメントがしっかりしている為に、新人に依頼した場合のリスクや失敗した場合の責任の所在を考えると、提示される報酬額が法外でない限り、専門家に依頼しようとする力学が当然に働くからです。僅か、5万円、10万円安かろうとも、その新人に依頼するリスクが高いのであれば、依頼という選択に結び付かないからです。
一方、依頼人が中小・零細企業の経営者、そして個人であるような場合には、費用を重視する方がかなりいます。また、人物の相性とか好みといった感情面での判断を、”感”と称して重要視される方も相当数います。
尤も、誠実に依頼に対応してくれるかどうかという一点について言うのならば、こういった中小零細企業の経営者や個人のみならず、中堅・大手の担当者でも、この点を軽視しないという点ではまったく変わりはありません。
従って、新人行政書士である皆さんが、誠心誠意を持って対応したとしても、中堅・大手企業が依頼人である場合、その依頼の重要度が高く、更には失敗が許されない手続であるのならば、新人行政書士という理由だけで、依頼に結び付かなかったという例は実際に多々あるのです。
こうして、過去の人脈によって、折角紹介して貰った中堅・大手企業との接点を、実は台無しにしてしまっている新人行政書士の方々が多数いることは、案外と余り気付かれていないようです。
では、具体的にどのようにして、新人であるご自分の依頼に結びつけられるのか!この方法について、更に詳しく次回でお話したいと思います。