ある真面目な方の友人と称して、最近頻繁に問い合わせの電話をかけてくる同業がいる。確かに、研究会などで顔見知りではあるのだが・・・。さりとて、特に親しく話した事など一度もない。昨年、私が講師を務めた講義にご参加頂いた、いわゆる顔を知っている程度の同業なのである。
ですから、私の事務所に一度たりとて事前に挨拶に来た人物でも無い。つまり、どんな人物かも良く知らないのである。それなのに「XXです。、ちょっと、伺いたいことがありますので、今いいでしょうか。」と、何度も電話をかけてくる。はっきり言って、非常識な奴だと思っていたのだが・・・。しかし、その友人という方が、実に礼儀正しい方だったので、少々我慢して応対していたのであるが・・・。
ところが、昨日また突然電話があった。「XXです。今ちょっとよろしいでしょうか?」
「何ですか?一体!」と、やや冷ややかに言ったつもりでしたが、厚顔無恥というか、私が迷惑がっているのをちっとも気が付かないというか、わざと気が付かないフリをしているか、どんどん話し出すではないですか。まったくデリカシーの無い奴なのである。
「仮放免についてなんですが・・・」と、その同業。
「仮放免申請はご存じの通り、一見簡単な手続きですが、入管にそれなりの理由で収容されている外国人ですから・・・。ちゃんと詳しい事情は把握しているのですか?」と質問すると、
「実は、もう出しちゃいました。」
「えっ! どんな内容かは知りませんが、申請して簡単に降りるような許可では無いんですよ! 一体どんな内容なんですか?」と、私の語気が荒くなっていったのでした。それは、余りにも、その同業が安易に思えたからです。
一般的には、入管が外国人に対して行う収容とは、警察が行う逮捕勾留に近いものがあります。しかし、裁判所の許可や、検察官の指揮を受ける逮捕勾留とは違い、入管独自の判断で行われます。その基準として、強制退去処分を下そうとする外国人であることが基本前提になっています。つまり、収容しないと、逃亡のおそれがあり、強制退去処分が執行できないおそれがある場合などです。
つまり、それなりの違反の事実がある外国人でなければ一般的には収容されることはありません。ですから、入管は昔と違ってそう簡単には外国人を収容しないし、出来ないのです。
その収容者に対して、逃亡のおそれもなく収容している意味も少ないから放免して欲しいと、刑法上の仮釈放のような申請をするのが仮放免申請なのです。ですから、違反事実があっても在留が許可されるような事情や見通しがある場合とか、或いは、病気治療中であるとか、或いは、配偶者が入院中であるとか、小さな子供がいるとか等々、何らかの合理的な理由や人道的な理由があって、はじめて仮放免が許可されるのです。
ところが・・・。この同業、そんな事は無関係に受託しているのです。仮放免申請は一見至って単純で、申請だけなら馬鹿でもできるような簡単な申請です。しかし、それは最低限要求されている添付書類の話で、実際は入管当局が把握していないような新事実を含む立証証拠を添付して申請します。ところが、この案件では、外国人本人とその配偶者も含めて、かなり悪質なケースなのです。
「XXさん。何でこんな依頼を受けたの?私は何も教えられないよ! 教えたら、間接的に荷担した事になっちゃうでしょう? その外国人と配偶者がやったことは結果としては犯罪ですよ! 仮にどんな事情があったにせよ、そんな案件を安易に受けちゃ駄目じゃないですか!そんなに簡単に受けちゃっていいんですか? XXさんも荷担していると、当局に思われますよ!」と、私は殆ど叱るように話しました。
「やっぱり。まずかったですかねぇ・・・。やっぱり、断ろう・・・」と、その同業。
「あたり前でしょう。XXさん! あなたのモラルが問われるのですよ! こんな依頼を繰り返し受託したら、新聞に出るようになっちゃいますよ! しっかりして下さいよ!XXさん」と、私。
電話を切ってから、この同業について検索してみたら、結構依頼を受けているようである。実は、当たり前なのである。この様な、我々が絶対に受託しないような案件を受ける同業というのは、たちの悪い外国人の間で直ぐに評判になるからである。「あのXXのところ行けば、何とかしてくれる!」と、あっという間に仲間達に伝わるからである。こうやって、(悪い)類は友を呼び、だんだんと違法行為という感覚が無くなって行くのである。同業で逮捕されている連中の落ちて行く典型的なプロセスなのである。
本人は、電話口では多少は反省したかのように聞こえたのだが・・・。さて、どうなることやら、なにせこの同業のことを、私は何も知らないのだから・・・。
「非常識な奴には、やはり常識は通じないと思うよ!」、そう友人に言われてしまい、黯然としてしまった週末でした。